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“クラウドコンピューティング”の定義の小史

私たちは2004年にはGmailを使い始めていますし、Salesforce社は1999年にすでに創立されていますが、クラウド・コンピューティングという言葉が使われたのは2006年。「NISTによるクラウド・コンピューティングの定義」が発表されるのは実に2011年です。Web 2.0同様にまず実体があって、それに沿って生まれてきた言葉と定義。そうした言葉の私が見つけられた範囲でできるだけ初期の登場シーンと、トピカルな出来事を年表にまとめてみました。

■黎明期と「Software as Service」社

1999年3月、Oracleを退社したマーク・ベニオフが、業務アプリケーションをWeb上で提供するSalesforce.comを創業[1]。翌2000年には共同創設者として後のForce.comになる会社を設立しますが、この会社は「Software as Service」社と命名されました[2]。初期のベニオフのスピーチには、このSoftware as Serviceという言葉が見られます。

2000年代前半、Webアプリケーションは市場の成長とAJAXなどの技術の隆盛があり、長足の進歩を遂げます。Webアプリケーションの代名詞となったGmailが2004年4月、Google Mapsが2005年2月にサービス開始[3][4]。Gmailは、Salesforce.comの業務アプリケーションと並んで、クラウドサービスの代表でもあります。

■「クラウド・コンピューティング」の時代

2006年、3月にはAmazon社がAmazon S3(Simple Storage Service)を、続いて8月にはEC2(Elastic Compute Cloud)を提供開始[5][6]。同月、カリフォルニア州サンノゼで開かれていたSearch Engine Strategies Conferenceで、Googleのエリック・シュミットCEOが「クラウド・コンピューティング」という表現を使用します[7]。

2007年11月、New York Timesで創刊当時からの記事の電子化に取り組んでいたDerek Gottfridがブログに投稿した、Amazon EC2とS3の活用が、企業でのクラウド・コンピューティングの先進事例として注目を集めました[8]。

■「SaaSからPaaSへ」とクラウドサービスの時代

2007年4月、Salesforce.com社は「オンデマンドプラットフォーム」サービスとして、Salesforce Platform Editionを発表[9]。同7月に「SaaSからPaaSへ」のコンセプトとForce.comを発表、9月にForce.comがサービス開始しました[10]。翌年にはGoogle社がGoogle App Engineを提供開始[11]。どちらもPaaSの代表として知られています。

2009年7月1日、環境省、経済産業者、総務省によるエコポイント制度の受付システムが、Force.com上でサービス開始。5月の業者公募からわずか2ヶ月の開発期間で、3,000万アカウントを想定したシステムが構築されました[12]。

■NISTによるクラウドコンピューティングの定義

米国国務省に所属する国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology, NIST)の情報技術研究所は、政府機関がセキュリティ対策を実施する際に利用するためのSpecial Publicationと呼ばれる文書群を発行しています[13]。2011年9月、これにSP800-145「The NIST Definition of Cloud Computing」が加わりました [14]。

多数あるクラウドコンピューティングの定義のなかで、この「NISTによるクラウドコンピューティングの定義」は標準的なものとして広く参照されています。わずか数ページの極めて短い文書ですが、この中で「IaaS/PaaS/SaaS」という3つのサービスモデル、「プライベート/パブリック/コミュニティ/ハイブリッド」という4つの配備モデル、そしてクラウドコンピューティングに共通する5つの特性などが定義されています。

NISTはこの他に、SP 800-146「Cloud Computing Synopsis and Recommendations」、SP 800-144「Guidelines on Security and Privacy in Public Cloud Computing」を発行しており、NISTによるクラウドの定義についてのより詳細な説明としても有用でした[15][16]。これらを見ていくと、たとえばSP800-146 Fig.17は抽象化されているものの、それでもAWSのサービスやOpenStackの実装を連想させられたりと、すでにあるクラウドコンピューティングの実体を踏まえていることを想像させられました。

■「NISTの定義」は言葉の定義とベストプラクティス

SaaS、PaaS、クラウドコンピューティングといった言葉や、NISTによるクラウドコンピューティングの定義は、いずれも既に世の中に受け入れられていたコンピューターの利用形態やサービスに名前をつけ、整理し、定義したものと言えそうです。

クラウドコンピューティングの用語や定義は、その意味では、クラウドコンピューティングやサービスはこうでなければいけないというような「ルール」ではなく、ビジネスやコミュニケーションのために必要な「ボキャブラリー」と言えます。あるいは、技術者だけが知っていればよい知識ではなく、クラウドコンピューティングやサービスに携わる人みんなが知っておきたい教養のようなもの、ベストプラクティスに付けられたラベルともいえるのかもしれない、と思いました。

■出典・参考URL(※本文はここまでで、以下はリンクだけです。)

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