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「魔法」の装いをした片付けの「技法」

話題になった「人生がときめく片付けの魔法」、ときめくとか魔法とかの言葉にスピリチュアル系無理と思って敬遠していましたが、意外にも同じく無理そうな知人から勧められて読み始めました。面白いです。なんだろう、話の運び方が予想外。

■「人生がときめく片付けの魔法」の話運び

例えば99ページからの「『たたむ収納』で収納スペースの問題は解決できる」。ある事例の紹介に続いて、そこまでをまず次のようにまとめます(太字箇所も原文のまま)。

洋服をいちいちたたんで引き出しにしまうなんて、面倒くさい。できれば全部、ハンガーにかけてすませたい。そう思ったあなたは、たたむことの本当の威力を知りません。まず収納力の問題からいって「たたむ収納」と「かける収納」は比べ物になりません。服の厚みにもよりますが、例えば10着分の洋服をかけるスペースがあった場合、それらを正しくたためば、20着から40着分を収納できます。(p.101)

意外に事実と数字できっちり押してくるノウハウ系だ、と思ったところで、話が一転します。

たたむ効果はそれだけではありません。じつは洋服をたたむことの本当の価値は、自分の手を使って洋服に触ってあげることで、洋服にエネルギーを注ぐことにあるのです。「手当て」という言葉は、今のように医療が発達していなかった時代に、ケガをした箇所に手のひらをかざして当てることで治癒を促していたことに由来しているという話を聞いたことにあります。(p.102)

物理的でないエネルギーと民間療法。

それは服にとっても同じです。ちゃんと持ち主の手に触って整えられることは服にとっても心地よく、エネルギーが注がれる行為なのだと思います。だから、きちんとたたまれた服はシワがピンと伸び、生地がしっかりしていきいきしてくるのです。ていねいにたたんで収納されている服と適当に引き出しに放り込まれている服とでは、着ているときの張りと輝きからして違うので、その差は一目でわかってしまいます。(p.102)

無機物に対する手当効果。服のシワは伸びるかもしれませんが、眉間のシワがよってきます。そして…

洗濯の後、たたむことを通じて、きちんと洋服に触ってあげることができ、「あ、ここがほつれてるな」とか、「もうそろそろ寿命なのかしら」と、細かいところに気づくようになります。たたむということは、つまり、洋服との対話なのです。(p.103)

無機物との対話…ってあれ?これは普通に、手入れの基本ですね。例えば昨日見かけた賃貸経営関連の記事にも、こんな一文がありました。

物件購入後、最初の頃は自分の手で掃除をしてもらいたいと私は考えています。というのも自動車の洗車と同じように、掃除することで物件の細かなヒビ割れや、ペンキの状態などを把握できるからです。

同じことを言ってますよね。自分の持ち物と相対する時間を毎日もつことで、ほころびに早く気づいて手当ができるという考え方。とても普通で、理にかなってます。

■「魔法」の装いをした「技法」の伝達

表現のあちこちにスピリチュアルな匂いはあります。ただそれ以前に、全体を通じて「片付けはこうする」という理屈の積み重ねがあって、経験に裏打ちされてて、事例で示されてます。その体系を感覚的に伝えようとしたら、日本人的な感性の一言に集約されて出てきたという感じです。

例えばものを残す基準を総合すると「ときめく」、捨てる理由を総合すると「お役目を終えた」、捨てる気持ちを整理すると「感謝」。疑似科学の皮を被った科学というか、コンパクトな「おばあちゃんの知恵」に凝縮された理論体系というか。それが理屈で動きたい人には「納得」を、感性で動きたい人には「共感」を、それぞれ与えてるように思いました。

それを生み出したのは、同じ考え方を、一人ひとり違うクライアントに腹落ちさせて、片付けようと動機付けてきたコンサルタントの経験値...なのかな。納得か共感、これは動機付けに一番のエネルギーを与えますよね。

(表紙画像:Craft Based Learning - Housekeeping by Les Roches

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