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森の図書室はほかの有料図書館と違うのか?

森の図書室を山本一郎氏がYahoo! ニュースで取り上げておられました。ちょうど、記事で上げられているのと同じあたりのソースを読んでいたのですが、疑問が残る点は、まず森の図書室は私立図書館にあたらないのか、次に森の図書室は通常の有料図書館にあたらないのか、でした。

最終的に結論は出せていないのですが、調べたこと、考えたことをまとめてみます。森の図書室は私立図書館で、通常の有料図書館の範疇と考えられる可能性も、ありそうに思われます。

■森の図書室は私立図書館にあたらないのか?

山本一郎氏は図書館法第二条第二項の以下を引用し「一般社団法人若しくは一般財団法人」にあたらない可能性を指摘されています。

(定義)
第二条  この法律において「図書館」とは、図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーシヨン等に資することを目的とする施設で、地方公共団体、日本赤十字社又は一般社団法人若しくは一般財団法人が設置するもの(学校に附属する図書館又は図書室を除く。)をいう。2  前項の図書館のうち、地方公共団体の設置する図書館を公立図書館といい、日本赤十字社又は一般社団法人若しくは一般財団法人の設置する図書館を私立図書館という。
出展:図書館法(昭和二十五年四月三十日法律第百十八号)

これを読んだ時にはたしかに難しく思ったのですが、私の近所に図書館と称して本を貸し出している喫茶店があったり、リブライズおよびリブライズを利用するさまざまなブックスポットが実際にあることなど、実態と整合がとりにくいです。これについては、「営利目的」と言う言葉がかなり広い解釈を含む点への注意を喚起しながら、以下のような意見をあげているところもあります。

リブライズというサービスにおいては,ブックスポットの運営者とユーザーの書籍の貸借について「営利目的」があるか否かが著作権法上の1つのポイントとなるでしょう。もちろん,リブライズ自身は書籍の貸借には直接関与していないわけですから,その点も十分に考慮されるべきです。
出展:著作権と新規事業~リブライズ~ | プロのための著作権研究所

リブライズのブックスポットを図書館に含めるならば、森の図書室もリブライズのブックスポットです。これらの実例から推測すると、図書館法の私立図書館ついて定めた第三章にある、図書館と同種の施設として認められるのかな、と思います。

(図書館同種施設)
第二十九条  図書館と同種の施設は、何人もこれを設置することができる。
出展:図書館法(昭和二十五年四月三十日法律第百十八号)

もうひとつの推測材料として、第159回国会に提出された「今国会提出の著作権法の一部を改正する法律案に於ける暫定措置廃止後の法律の運用に関する質問主意書」を挙げます。正確な内容を原文でお読みください。要旨としては、文科省から提出された、書籍・雑誌を無断貸与できる「暫定措置」の廃止を盛り込んだ著作権法改定案に関連して、すでに存在する以下の扱いがどうなるのかを確認するものです。

(1)図書館法第二十八条で認めている入館料等を徴収している図書館には、書籍・雑誌の貸与の規制が及ぶことになるか。
(2)私立学校の附設図書館には貸与の規制が及ぶことになるのか。
(3)鉄道会社等が設置している「文庫」には。
(4)大手スーパー等が店内に児童利用のために設置している「文庫」は。

ここでは、有料図書館や私立学校図書館などだけではなく、メトロ文庫のようなものを図書館として認めるかを論じています。ここでも「一般社団法人若しくは一般財団法人」であるか否かは問題にしていません。

■森の図書室は有料図書館にあたらないのか?

森の図書室が「図書館」だとすると、次に論点になっていたのは、森の図書室は営利目的だから以下の著作権法第三十八条第四項が適用されないのではないかという点でした。

(営利を目的としない上演等)
4  公表された著作物(映画の著作物を除く。)は、営利を目的とせず、かつ、その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合には、その複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供することができる。
出典:著作権法(昭和四十五年五月六日法律第四十八号)

これに関して、森の図書室については次のような考察がありました。

本事案において、書籍の貸与が顧客を吸引する主たる要因になっていることは明白であり、例えこれについて直接対価が発生しないとしても、同じ空間における飲食物の提供は営利を目的としていること、会員制として徴収している会費は書籍の調達維持の他運営者の収益となっているものと考えられる点を踏まえれば、「営利を目的とした貸与」にあたる(或いは、徴収している会費は「複製物の貸与を受ける者から」受ける料金に該当する)。
出典:「森の図書室」に関する考察 - 弁理士『三色眼鏡』の業務日誌 ~大海原編~

まず森の図書室は、利用には会費を支払って有料会員になるか、一回500円の席料を支払います。ですが、これは通常の有料図書館と変りません。こうした私立図書館での料金徴収の可否については、図書館に記載がありました。

(入館料等)
第二十八条  私立図書館は、入館料その他図書館資料の利用に対する対価を徴収することができる。
出展:図書館法(昭和二十五年四月三十日法律第百十八号)

もう少し詳しく述べたものとして、「入館料を取る文芸館での貸出と貸与権 - Copy & Copyright Diary」では前述の第159回国会での質問書に対する答弁に、以下のようにあることを指摘しています。

図書館法(昭和二十五年法律第百十八号)第二条第二項に規定する私立図書館又は図書館法第二十九条第一項に規定する図書館と同種の施設が、これらの施設の利用者から、図書館法第二十八条に規定する入館料その他図書館資料の利用に対する対価を徴収している場合において、当該対価が、書籍又は雑誌の貸与に対する対価という性格を有するものではなく、これらの施設の一般的な運営費や維持費に充てるための利用料であると認められる場合には、著作権法(昭和四十五年法律第四十八号。以下「法」という。)第三十八条第四項に規定する「料金」に該当しないものと解される。
出典:衆議院議員川内博史君外一名提出今国会提出の著作権法の一部を改正する法律案に於ける暫定措置廃止後の法律の運用に関する質問に対する答弁書

この答弁書の他の質問への回答からも抜粋します。(2)私立学校の附設図書館について。

当該授業料が書籍等の貸与に対する対価という性格を有するものではなく、法第三十八条第四項に規定する『料金』に該当しないものと解される。

(3)鉄道会社等の文庫について。

鉄道会社が、駅に文庫を設置して、乗客に書籍又は雑誌の貸与を行う行為は、一般的には、自己の利益を図るものではないと考えられ、法第三十八条第四項に規定する「営利」を目的とするものに該当しないものと解される。

(4)大手スーパー等が店内に児童利用のために設置している「文庫」について。

大手スーパーマーケットが、店内に文庫を設置して、顧客に書籍等の貸与を行う事例も見受けられる。そのような場合には、当該行為が、例えば、顧客の増加を通じてその売上げの拡大を図ることを目的として行われるものであるならば、法第三十八条第四項に規定する「営利」を目的とするものに該当するものと解される。

森の図書室の場合、どうでしょうか。会員増、あるいは席料増を目指した図書の貸与であれば、それは有料図書館の範疇だと思います。飲食費増を目指すものであれば、スーパーマーケットの集客目的での文庫設置に近くなると思います。

「飲食物を有料で供している」だけを取り上げれば、カフェ併設の図書館、もしかしたら購入前からビール片手に本を選べる書店B&Bやカフェとして「雑誌や本をめくりながらゆっくりお過ごしください」の東京天狼院書店なども判断の難しい範疇に入ってしまいそうです。「飲食費増への影響がないとはいえない」ぐらいの話ではなくて、どちらとみなすのが妥当なのか、の議論をするところかと思います。

ここが、僕がまだどう解釈したよいのか分からない点です。

■まとめ

ここまでに挙げたソースを読みながら、森の図書室を「図書館」とみなすのは問題ないんじゃないかな、と思います。会費または席料を徴収するのも問題なさそうに見えます。その上で、図書館とカフェバーのどちらが主で、営利目的の書籍貸与とみなされるのかどうか、というのはまだすっきりしませんでした。

このあたりの、特に著作権法と図書館法の両方に詳しい方などの解釈が知りたいな、と思います。

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ヘッダー画像はjenniferjoanによる「Hjorring Library」。ライセンスはCreative Commonsのby。もし「Creative Commonsって何?」と思ってもらえたなら、こちらのノートをお勧めします。

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