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紙巻きタバコは500円を超えるか

タバコ税が2018年から段階的に増税されるそうで、ネット上では「ワンコイン時代の終わりか」といった声を見かけました。タバコ(紙巻きたばこ)は1箱500円超になるか、素人なりに予想してみようと思うと、喫煙率や販売数量から加熱式タバコの急進と受動喫煙防止条例など、色々考えさせられる面白い論点でした。

タバコは1箱500円を超えない?

そもそもタバコは現在、いくらなのでしょうか?もちろん銘柄によって違うのですが、平均価格を押さえておくことにしましょう。

一般社団法人日本たばこ協会が公開している紙巻たばこ統計データの「年度別販売実績推移表(2018年4月版)」によれば、2017年の販売数量は1,455億本、販売代金は31,655億円だそうです。ここからタバコの平均単価を計算すると¥12.244/本、1箱20本とすれば、¥435.1/箱が現在のタバコの平均価格です。

ちなみに財務省の「たばこ税等に関する資料」によれば、現在のたばこ税は1,000本あたり12,244円(たばこ税(国税)、たばこ特別税(国税)、たばこ税(地方税)を含む、消費財を含まない)です。つまりタバコ価格のうち¥244.9/箱がタバコ税ということになります。これを引いた残りを本体価格とするならば平均¥190.2/箱になります。タバコ税の方が本体価格より大きいのですね。

さて、今度の増税で最終的に1本当たり3円、1箱(20本)当たり60円増税されるとタバコの平均価格はどうなるでしょう。タバコ税分が60円増えて304.9円、本体価格が平均190.2円ですから、合計で495.1円。かろうじて500円のラインは越えずに済みそうです!

本体価格は変わらないのか?

ここでひとつ、検討しておかないといけないことがあるのに気づきます。本体価格は、果たして変わらないのでしょうか?

逆に言えば、これまで本体価格はどのように推移してきているのでしょうか?タバコの平均価格の推移を同じく日本たばこ協会の「年度別販売実績推移表」から、タバコ税の推移をガベージニュースの「たばこ税の推移をグラフ化してみる(最新)」から、平均本体価格をこの差から出してグラフ化してみました。2018年以降のタバコの平均価格は、平均本体価格が2017年から変わらないとして計算しています。

グラフ化してみると、タバコは増税を追うようにして、平均価格だけでなく平均本体価格も上がってきていることに気づきます。この結果、タバコ税は全体として税収を増やしたというより、一定に保ってきたもののようです。

紙巻たばこの販売数量は平成8年度の3,483億本をピークに年々減少していますが、たばこ税等の税収の合計は2兆円台で推移しています。(出典:たばこ税等に関する資料 : 財務省)

ではタバコの本体売上はどうでしょう。「年度別販売実績推移表」で全体の販売代金と販売本数が公開されていますから、税収は税率に販売本数を掛ければわかりますし、全体の販売代金から税収を引けば全体の本体売上となりそうです。計算してみると、次のようになりました。

こうしてみると、タバコの販売本数が1996年をピークに以降減少傾向を続けている中で、タバコ税と同様に、本体売上も1.5兆円前後で推移しているようです。そうすると今年以降の販売数量が振るわなければ、タバコの本体価格にも見直しが入り、全体の本体売上を保とうとする可能性はあるのかもしれません。

販売数量は維持できるのか?

本体価格維持が販売数量維持にかかっているとしたら、その販売数量は維持できるのでしょうか?少なくとも2つ、大きな不安材料を思いつきます。

喫煙率の低下

1つ目の不安材料は喫煙率の低下。厚生労働省の最新タバコ情報サイトに「JT全国喫煙者率調査」と「厚生労働省国民健康栄養調査」の2つの調査による喫煙率統計情報があります。これを「年度別販売実績推移表」の販売本数と合わせてグラフ化すると、次のようになりました。

こうしてみると喫煙率も長期にわたって減少傾向が続いています。そして喫煙率と販売数量は、大まかに見て関係がありそうに見えます。JT調査では男性喫煙率が1991年から下がり始めているのに対して販売本数は1996年からとずれがありますが、団塊ジュニアの成人時期である1994が新成人数のピークで前後も多かったので、喫煙可能な人口自体は増えていたのかもしれません。アラフォー・クライシスIIが報じているように、団塊ジュニアの子の世代は人数的にピークを形成しませんでした。

飲食店の禁煙化

2つ目の不安材料は2020年の東京五輪を前に、飲食店を中心にさらに厳しい段階に入ろうとしている喫煙環境。現在、先日衆院を通過した厚労省の健康増進法改正案が施行されると、飲食店や旅客施設を原則禁煙、経過措置として既設の個人または中小企業による客席面積100㎡の既設飲食店のみ経過措置として喫煙化で残る形になります。また東京都では受動喫煙防止条例案が27日の都議会で可決され、都内ではさらに従業員を雇用していないことという条件が付きました。

かつては喫煙可能なオフィスが多く、そうした職場では勤務時間=喫煙可能な時間でしたが、最近ではオフィスは禁煙が普通です。喫煙率だけではなく、喫煙者の「吸える時間」が減ったわけで、もしかすると飲食店にいる時間は一番大きな「吸える時間」かもしれません。吸える時が吸ってる時というようなチェーンスモーカーなら「1日に吸える本数」が直接減るし、そうでなければレストランでの食後や喫茶店での休憩時など「吸おうと思うタイミング」が失われそうです。

実際にサイゼリヤや串カツ田中、コメダ珈琲店などニュースになる全国チェーン店、焚火家や焼肉香月、かつ吉といった個人店や小規模グループ店など、実際に飲食店が完全禁煙への動きを見せてきました。食べログの検索結果では「完全禁煙」が14万3千件(16.4%)。2017年7月には件13万1千件(15.5%)だったから、わずかながら増加している。東京都に限定すると、完全禁煙店は28,679件で、すでにその割合は21.3%になっていました。

加熱式タバコは起死回生の一手になるか?

前述の紙巻きタバコの販売数量推移には、フィリップモリスのiQOS、JTのProom Tech、BATのgloといった加熱式タバコはの販売数量は含まれていません。2018年5月のフィリップモリス社の年次株主総会資料によると、2017年に加熱式タバコのヒートスティックの販売数量は229億本にもなり、さらに伸長著しいことが見て取れます。同社は2018年のヒートスティック市場を「2017年の2倍以上」と推測しています。500億本というところでしょうか。

このペースで伸びていけば紙巻きタバコの販売本数の落込みをカバーし、合計販売本数では現状維持が叶いそうです。ただ販売数量の現状維持は堅いところでしょうが、この伸び方を続けられるかとなると、ここでも3つ、大きな懸念材料を思いつきます。

1つ目の懸念材料は、加熱式タバコに対するタバコ税増税。今回のタバコ税増税では区分に加熱式タバコが追加され、iQOSで約78円、gloで約100円、ploom techで約176円と紙巻きタバコ以上に増税されます。これが価格に反映されたとき、ヒートスティックは1箱が紙巻きタバコより高くなってしまいそうです。

2つ目の懸念材料は、「完全禁煙」における加熱式タバコの扱い。各社は加熱式タバコをリスク低減製品と呼び、禁煙の場所でも利用を許可するように働きかけてきました。昨年末、食べログ検索画面の「禁煙」の詳細に「加熱式たばこ可」のチェックボックスを見つけた時には、禁煙店での加熱式タバコは受け入れられていくのかもしれない、と思いました。

しかし現在、このチェックボックスは姿を消しました。最近報じられたサイゼリヤや串カツ田中、異業種ではコンフォートホテルニッポンレンタカータイムズカーレンタルなどの禁煙化では加熱式タバコの利用も禁止になっています。ZUU onlineによれば吉野家、松屋、すき家、ジョナサン、ガスト、ロイヤルホスト、デニーズ、スターバックスなど確認対象の大半で同様だったようです。つまり加熱式タバコは「禁煙エリアで利用できる特別なタバコ」という地位を得られなかったようです。

3つめの懸念材料は、飲食店の加熱式タバコ対応意向の有無。それでも各社の働きかけはある程度奏功し、厚労省の健康増進法改正案、都の受動喫煙防止条例とも、飲食可能な加熱式タバコ専用喫煙室の設置許可を勝ち取りました。しかし「分煙設備を取り入れる広さや資金的余裕のない小さな店」の危機を訴えて抗議署名抗議行動をしてきた飲食店業界が、どれだけ実際に加熱式タバコ専用喫煙室を設置できるのか心もとないところです。また加熱式タバコの利用者は喫煙者の30%、それも20〜30代中心と抗議文が言及する「団塊の世代」という顧客層から大きく離れています。

タバコ会社は「ワンコイン」を維持するか?

これらを含めて、最後はタバコ各社の判断ではあります。各社は本体価格を維持し平均500円以内で着地するのか、本体価格も上がりワンコイン時代は終わるのか?ここで気になったのが、フィリップモリスが12日に発表した「紙巻きたばこ製品の小売定価改定を認可申請」です。

認可された場合、改定予定価格は現在の価格が230円のものは+20円、それ以外の390円~490円のものは+50円の値上げになるようです。今回の値上げは「2018 年10 月1 日から施行されるたばこ税の増税に伴い」申請するものと説明されています。でもこの値上げ幅はどういう意味なのでしょう。2021年までに段階的に行われる計3回、合わせて1箱60円の増税に対応したものでしょうか。それにしては、値上げ幅が足りないような気がします。

あるいは2018年10月に行われる1箱20円分の増税だけに対応したものでしょうか。もしそうだとしたら、あと2回こうした価格改定が行われるのでしょうか。

まとめ

タバコは1箱500円を超えるか。ワンコインが時代は終了するか。この論点を追いかけているうちに、タバコをめぐる様々な数字や姿が見えてきました。

現在のタバコの平均価格は1箱435.1円でした。2018年から2021年にかけての60円の増税だけであれば平均500円に収まりますが、本体価格も値上げされれば500円越えは必至です。タバコ税額は過去にも増税が繰り返されていますが、タバコの本体価格も税額を追うように上昇してきていました。喫煙率とタバコの販売本数はかなり長い期間にわたって減少傾向ですが、これにより税収は2兆円台での推移を保っており、本体価格値上げにより本体売上も1.5兆円前後での推移を保っていました。

加熱式タバコは販売本数減少のトレンドに吹いた神風で、2017年には喫煙者の3割が加熱式タバコ利用者、販売本数の1割以上がヒートスティックになっており、2018年第1四半期にはさらに急伸しています。ただし禁煙エリアでの利用可能性が消え、税額面での有利も失おうとしており、この勢いが維持できるかは定かではありません。

その中で、フィリップモリス社はいち早く、2018年10月からの小売定価改定を申請していました。その値上げ額は多くの製品で50円と、3年分の増税額60円を取り込んだものと考えるには少なく、1年分の増税額20円に対するものとしては本体価格値上げに相当する分が多い額になっていました。

この先は、最終的にはタバコ会社各社の判断で決まることで、まだ未定の未来です。タバコは1箱500円を超えるか。ワンコインが時代は終了するか。あなたはどう予想しますか?

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塚本 牧生

クラウドノオト ―― クラウドコンピューティングの話、ときどきソーシャルメディアとnoteの話、ところにより四方山話。

雑記帳

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