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本物の働き方改革は、インバウンドに学べ

訪日する外国人や在外邦人───つまり日本国外に住む日本人───向けに発売されている、Japan Rail PassというJR全線乗り放題のチケットがあります。7日間~21日間有効の3タイプがあり、3万円弱から購入可能です。

このチケットをめぐり、2017年3月、日本国籍保有者向けの販売を2020年末をもって終了するとJRグループからアナウンスされたことで、それ以来、在外邦人の間では度々このことが話題になっています。

外務省の海外在留邦人数調査統計(平成30年度版)によると、在外邦人の中でもレールパスの利用資格を持つに近い永住者は、今や48万人もいるそうです:

「永住者」(当該在留国等より永住権を認められており、生活の本拠をわが国から海外へ移した邦人)は48万4,150人(同1万5,722人(約3.4%)の増加)となっています。


私もそんな在外邦人、つまり日本国外に住む日本人の1人ということになるのですが、最近、ブラジルの日本語新聞「ニッケイ新聞」さんの取材を受け、この切符の在外邦人向け販売が終了することについてのコメントを求められました。それがこの記事です:

JRは、公共性の強い企業でありながらも一企業ですから、私としては販売継続を頑として主張するわけではありません。販売終了する判断が変わらないのであればそれまででしょうし、そういう判断が変わらないことは(記事にあるように)純粋に残念に思います。


さて、この記事での表現や考え方の程度にそれぞれ差はあれど、こうした我々の思いに対して、不公平だ、こんな切符はそもそもなくすべきだという声が、国内居住者の一部から上がっているようです。

その主張はつまるところ、日本国内居住者が正規の運賃を日々支払っているというのに、外国に住んでいるというだけで格安で日本全国全線乗り放題なのは許しがたい、という内容です。これまで何の考えなしにこの切符を利用していた私がこの意見を知って思ったのは、今後このチケットを使うことがあった時、そこまで肩身の狭い思いをしてまで電車に乗らなければならないのか、ということ。

もう1つは、日本国内居住者向けの同じような切符があればいいのではないかということでした。

実は、そういうお得なチケットはなかったわけではありません。10年ほど前までは、ワイド周遊券と呼ばれる北海道や九州などエリア内JR特急乗り放題、3週間有効で4~6万円台なんて切符が一般に売られていました。

ただ、それが無くなった時に果たして誰が声を上げたのか?その記憶はありません。

要は、そのような長期間有効の切符には関心がなかったということだったのでしょう。1週間を越えるような長い休みを取ることのできる人は、日本の現役世代では少数派だからです。


翻ってJapan Rail Pass。

例えば、滞在中に東京や京都にずっと留まるつもりの外国人旅行者は、こんな「高額な」チケットは買いません。むしろ、日本国内あちこちを地を這って鉄道で移動しまくろうという人たちが購入しています。

そうして人たちが動くと、地方にお金、それも外貨が落ちる可能性が広がります。実際に地方の観光地に行くと、週末こそ日本人でごった返していますが、平日に行くとガラガラで、いるのはほとんど外国人という場所も最近は多く見られます。これは倉敷のある旅館で伺った話ですが、外国人は平日でもコンスタントにやってくるので、曜日別の混雑や売上が平準化されたのはインバウンドのよい効果だった、ということでした。

日本人がやっと取得できた長期休暇で海外に高跳びして滞在先でせっせと散財している間に、外国人が日本にやってきて地方にお金を落とし始めている、そんな構図すら見えてきます。

外国人に加えて、私のような海外在住者は、日本とは異なるカレンダーで動いています。その上、制度的・文化的にも数週間レベルの長期休暇を取りやすい。そんな我々が日本行きの往復航空券を買い、国内にしばらく滞在する。その間に日本各地に足を伸ばすインセンティブとしてこのレールパスが使えるのであればガンガン旅行して、浮いたお金で美味しいものでも・・・と思うものです。

その手軽さはぜひ残しておいてほしいのですが、それでもやはり、許されませんでしょうか?


日本国内居住者向けにも安いチケットがあればいい──この点をもう少し考えてみます。

これはつまるところ、外国人観光客ができているように、日本人の休み方を平準化すれば実現できるかもしれない、ということになります。

カレンダーで休日と決められないと休むことができないなんて状況では、ひと度連休がやってくるとレジャー客が列車や高速道路に殺到します。JRの立場になれば、そんな状況でチケットの安売りなどできるわけがありません。

そういう意味では、普通列車にしか乗れない「青春18きっぷ」は、普段から走ってはいるがそこまで人が集中しない列車に格安でお客さんを乗せるという、なかなか考え抜かれた旅行商品に見えてきます。面白いものです。

平日にまたがって長い休みが取れるようになる。そして、ほどよく賑わう観光地を外国から来た人たちとのんびり観光できるようになる。そういうライフスタイルが実現して初めて、日本国内JR全線◯週間乗り放題、なんて切符が日本人向けにも発売されるようになるのではないでしょうか


参考までに、私の住むブラジルでは、労働者に30日間の休暇の権利が与えられます。

年末年始やカーニバル、7月の冬休みといったハイシーズンは、ダイナミックプライシングの航空券や観光地のホテルは異様に高騰することがあります。しかし、その時期に休暇を持ってくる理由が特段ないのであれば、会社に相談して閑散期に休暇をずらせばいいだけの話です

ブラジル人は、そういうところを上手く利用しています。私のFacebookのタイムラインには、ブラジル人の友人の誰かがビーチで遊んでいる写真が、何日かに1回の頻度で年中、休暇シーズンであるなしに関わらず流れてきます。オフィスでそんな写真を見ても、自分にもそんな時が来ることが分かっているので、別に妬みもしません。「楽しんでね!」とコメントしておしまいです。

今日も電車に外国人旅行者がたくさん乗っているなと思ったら、真の働き方改革とは何なのだろう?というところに、思いを巡らせてみるのもアリではないでしょうか。

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