見出し画像

この国に完全自動運転の時代などやってくるのか

年末年始から今日まで、ブラジル国内を4,000km以上クルマで走って移動しています。

ブラジルは、1960年代から始まった内陸部のサバンナ地帯(セラード)の土壌改良により穀物の生産が爆発的に増加し、今やアメリカと肩を並べる世界の穀倉地帯に成長しました。しかしよく指摘されるのが、それを輸出するための産地から港湾までの輸送インフラが貧弱であるということです。

ブラジル内陸住まいの長い私に言わせれば、その国土の広大さをよく見てきたために、いやいやそれでもまだブラジルはまだ頑張っている方だよ・・・とフォローしたい気持ちもあります。なにせ、ブラジルの国道の総延長は172万kmで世界第4位。1本の道路を舗装するにも数百キロ単位の工事になるのは珍しいことではありません。日本の東名高速道路(全長346km)ほどの立派なインフラではありませんが、距離だけを見れば、東名高速何本分もの工事が日々どこかで行われているのです。

ちなみに鉄道網に関しては、1900年代半ばまで整備がある程度進んだものの、モータリゼーションの進展で自動車産業育成と道路整備に重点が置かれたことですっかり衰退。現在は再び見直され始めつつありますが、貨物輸送量全体に占める割合は15%しかありません。まだまだトラック輸送がメインなのです。

写真で見るブラジルの道路

ところで、「自動運転」という言葉がもてはやされている中、道路延長が長いブラジルではその技術がふんだんに利用されてもいいはずですが、そもそも今のインフラの状況で、自動運転技術が適用できるのかというのは甚だ疑問です。

今回、実際に4,000km以上走ってみて、一体どうしたらこの国で自動運転というものが現実のものになるのか、ずっと頭を捻りながら運転していました。技術開発している方を隣に乗せてお話を聞いてみたいくらいです。

そんなブラジルの道路の一例をいくつか写真でご覧に入れましょう。これらの写真は、全てこの2週間の間に撮ったものです。

片側2写真の高速道路。立派に見えますが、このような片側2車線区間の総延長は15,000km程度。ブラジルの道路網全体で言えば、全体の1%にもなりません。もっとも、人口が集中する地方を中心に整備されているため、利用人口はこの割合よりずっと多くなりますが。

穀物を内陸から港湾まで運び出すため道路の大半は、このような片側一車線道路です。

セントラルピボットと呼ばれる灌漑設備(円形の耕作地部分)がある大農場の周辺道路は、舗装されていればこんな感じ。

さらに、畑で作物を収穫してサイロまで輸送する道路などとなれば、基本的に赤土むき出しの未舗装です。

走っていて気持ちのよい一直線の道路は、嫌というほどほどあります。

しかしこのように見通しの悪い道路では、危険な追い越しをするクルマもたくさん走っています。整備された時代や地形の都合で、突然急カーブがあることもあります。

スピードの出しすぎやブレーキの故障などから横転するトラックが後を絶ちません。

ブラジルの道路で運ばれているのは穀物だけではありません。鉱山から運び出される鉱石。そして工業製品や燃料など。これらを市場に供給するための重要な道路にはトラックが集中し、周囲に町がなくても渋滞が起こります片側1車線なので、追い越しができません。

仮にここが寸断されると、道路密度が高くないため、数百~数千キロ単位での迂回を余儀なくされることもあります。

せっかく舗装されても、メンテナンスが行き届かずに穴だらけになっている区間も珍しくありません。クルマで下手にこれらの穴を踏むと、タイヤがパンクしかねず大変危険です。

皆、穴をタイヤで踏んでしまわぬようジグザクに避けて進んでいきます。トラックの運転手は、商売道具のトラックを痛めかねませんので注意深く進んでいきます。

光の加減で穴の大きさや深さが分かりやすいのは、こちらの写真でしょう。

道の真ん中に立つ青年。彼は何をしていると思いますか?道に開いた穴を赤土で埋めてあげたということで、そこを徐行して通り過ぎる運転手から小銭を貰おうとしています。帽子を手に振って合図してきます。

こんな状況で、果たして機械任せの運転ができるようになるのでしょうか?これがずっと頭を捻っていた理由です。あるいは、さすがにここまでの状況は「自動運転社会」では想定されていないのでしょうか。

自動運転技術の導入にはシビアすぎるブラジルの道路

過酷なのは通信面でも然りです。

5G通信技術の導入が前提となるとされる完全自動運転技術ですが、内陸の遠隔地では4Gの電波が届くのは、点在する町の周囲の数Km範囲内がやっと。下手するとまだ3Gだけの町もあります。そしてそこを離れると、数十キロは携帯の電波の全く届かない区間が続きます。

しかしこの辺りは、広大なアメリカと課題は似ているはずで、これにどのように対処していくのかは学ぶことが多くありそうです。しかし路面状況ばかりは、物理的な大規模工事が伴うのでそう簡単には整備が進まないのではないかと考えてしまいます。

インフラ整備の財源はどう捻出するのか

輸出向けのコモディティの生産が内陸で活発になり、旧来の道路インフラを輸出路として活用すべく、少しずつ手を加えて何とか対応しようというのが、今のブラジルの文脈です。そのような中で、アメリカで自動運転技術が先に導入され始め、穀物輸送など貨物分野でも利用されるようになってくると、両国国内の輸送コスト差も益々開きそうです。

早期整備のための財源確保も、輸出促進のために税の減免措置がとられていることから、産品そのものに課税することはできないと考えたほうがいいでしょう。するとディーゼル燃料に含まれる税金や、道路の民営化による通行料収入を当てにした整備を進めなければなりません。ただいずれにせよ輸出産品の価格競争力を削ぐもので、生産者にも政府にも頭の痛い話です。

そんな状況で、この国で完全自動運転技術がいつ実現するのか。ブラジルならではの画期的なソリューションの登場にも期待しつつ、その日がきっと来ることを信じて、楽しみに待ちたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?