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満潮

窓からチラチラと空を窺っていると、南岸低気圧の後方に雲の切れ間が見えた。作りかけの肉野菜スープをさっさとカレーへと化し、生あたたかい空気をカブでかき分け、海岸から薄暮を見送った。短長すべての可視光を凝縮したようなその時間は何処で過ごそうとも立ち止まり、見惚れてしまう。空はすっかり晴れ、東には月とオリオン座が昇っていた。轟轟と波が押し寄せる海岸に一人というのは反響も相まってなかなかの恐怖がある。そうやって靡く感情から現実世界を生きている実感を得ているから居心地は良い。写真に耽っていると潮は満ち、空気は冷めていた。

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