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CBDの科学―まえがき

本書は、カンナビジオール(CBD)の研究に対する強い関心によって結ばれた3人の著者が、決して報酬目当てではなく、書きたいという思いに駆られて執筆したものである。ラファエル・ミシューラム博士がカンナビノイドの分野で発表した最初の論文(博士はその他にも生涯に500本近い論文を執筆している)は、CBD分子の構造を決定したもの(Mechoulam and Shvo, 1963)であり、これによって、その合成と、いくつかの生体実験における作用機序の評価が可能となった。過去60年間、いくつかの研究者グループがミシューラム博士と協力し、この化合物の潜在的な薬効に関する初期の研究を行ってきた。そうした研究の一つが、カナダのリンダ・パーカー博士の研究室と共同で行った、悪心、嘔吐、不安、疼痛、依存症に対するカンナビノイドの効果を調べるものだった(Mechoulam and Parker,2013)。エリン・ロックは、初めはウィルフリッド・ローリエ大学(オンタリオ州ウォータールー)の学部生として、その後ゲルフ大学の修士課程および博士課程の学生としてこの研究に参加し、博士課程の研究課題として、CBDが悪心と嘔吐を抑制する作用機序を明らかにした(Rock et al., 2012)。ロックはその後もパーカーとともに、博士研究員/研究員として、これらのモデルを用いてCBDその他いくつかのカンナビノイドの謎を解き明かし続けている。

何千年にもわたって人々は、大麻草の薬効と精神活性作用を利用してきた。この複雑な植物には、最もよく知られているΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)とカンナビジオール(CBD)を含む100種類以上の植物性カンナビノイドが含まれている。それらのカンナビノイド化合物のうち、基本的にTHCが唯一の向精神作用物質であることが、1960年代から1970年代にかけてイスラエルのラファエル・ミシューラム博士のグループとその他複数のグループによる研究でわかっている。CBDには精神活性作用はない。

CBDに医療効果があるという可能性に対する一般の人々の認識は驚異的なスピードで高まっており、過去5 年間、グーグルでCBDが検索される頻度は毎年倍増を続け、さらに加速し続けている(Leas et al., 2019)。実際にCBDは、大衆向け製品市場における流行の成分となっており、そうした製品は、皮膚疾患から慢性疼痛まで数え切れないほどの疾患の治療、そして美容にも有効であるという、ときに根拠のない主張を、多くの場合は臨床試験によるエビデンスを欠いたまま展開している。また、自分のペットの疼痛や不安といった症状に対して、それらの適応疾患に効果があるという科学的エビデンスのないままCBDを与えている飼い主も多い。昨今のこの「CBDブーム」は、細胞レベルでの研究やマウスを使った基礎研究の結果を人間にあてはめようとする。しかし、CBDの薬効に関するヒトを対象とした臨床試験は、希少な小児てんかんに対するCBD投与を唯一の例外として、細胞や動物を使った基礎研究に大きく後れをとっている。今から60年以上前に、小規模ではあるが、てんかん、依存症、不安障害の治療にCBDを使った臨床試験が行われ、その有望性が示されたことを考えると、この臨床試験データの不足は驚くべきことであるが、それは、スケジュールIの薬物である大麻草を使った研究に対する取締規則が、CBDの持つ薬効に関する大規模な臨床試験を禁じてきたためである。近年は、カナダや米国の複数州では大麻が合法化され、大規模な臨床試験のためのCBDもずっと入手しやすくなったと考えるかもしれない。だが、本書の執筆時点(訳注:2022年7月)ではまだそうなってはいない。消費者によるさまざまな大麻製品へのアクセスが容易になる一方、米国とカナダの科学者には規制当局による厳しい監視という負担がのしかかり(Haney, 2020)、臨床試験で使用できる大麻とCBDの種類も非常に限られている。こうした障害にもかかわらず、米国立衛生研究所のウェブサイトwww.clinicaltrials.govには現在、実施が予定されているもの、進行中のもの、完了したものを合わせて276件の臨床試験が登録されており、基礎研究で有望な結果が出たさまざまな適応疾患に対するCBDの効果が研究されている(その大多数は経口製剤を使用)。

基礎研究や臨床試験で使える、規格化されて化学的に純粋なCBDは、消費者が業者から、またはオンラインで入手できるCBDとは必ずしも同じものではないことを強調しなければならない。2017年に行われた調査(Bonn-Miller, Banks, and Sebree, 2017)によれば、オンラインで入手したCBDおよび大麻オイル84 製品を検証したところ、CBDとTHCの含有量が正確にラベル表記されていたのは26製品にすぎず、CBDは実際より多く、THCは実際より少なく表示されていることが多かった。米国食品医薬品局(FDA)の警告のとおりである。購買の際には注意されたい。

現在使用されている医薬品の多くは、天然産物またはその派生物である。今のところ、CBDが治療薬としてFDAに承認されているのは、希少な小児てんかんの数種および結節性硬化症に伴う発作症状がある1歳以上の患者に対してのみである。本書では、CBDの作用のさまざまな側面を検討する。多くの病態に対して、動物モデル主体ではあるが若干の臨床試験も含めて良好な結果が得られ、論文として発表されている。動物実験や、わずかではあるが臨床試験で良好な結果が得られたこと、比較的毒性が低く大きな副作用がないことを鑑みれば、将来的には、CBDあるいは薬理学的特性がより改善されたCBD派生物が、上記以外の数々の疾患の治療薬として開発される可能性があるだろう。

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