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月影太陽光発電所 発電19日目 中級6

素浪人エンジニア月影です。
 今回と次回は、太陽光発電システムの天敵:『雷』について、太陽電池モジュール等価回路に特性要素を追加し、太陽電池モジュールの雷害損傷を、LTspiceを用いて分析をしてみます。
 太陽光発電システムは、多点接地による雷電流経路を考慮した雷保護が必要ですが、太陽電池アレイには考慮すべき雷サージ経路が推測されますので、等価回路による雷害仮説シミュレーションを試みます。
(月影は電子系4流エンジニアですので、モジュール文献調査が不十分です。月影モデルによる雷被害仮説ですので、エンジニアリング・フィクションとして、お楽しみください。)

・『太陽光発電システムの天敵:雷』
 太陽光発電システムは、太陽電池モジュールが広範囲に敷設され、さらに山林や建物屋上等の雷害を受けやすい環境にも関わらず、避雷針等の雷保護設備がない状態で、多くが設置されています。
雷被害の実態は、古いデータですが、NEDOデータベース:平成21年度成果報告書では、2005年〜2008年間の太陽光発電システム雷被害率:76件/2181件=3.48%(年率で1~2%)の報告があります。パワコンや計測システムへの雷被害率が高いのですが、被害率が高すぎるように想います。主因は、日本ではシステム・インテグレータが存在しておらず、避雷針等の雷保護ゾーンを施さない敷設が先行してしまった事ですが、その後も雷被害を科学的に分析していない可能性もあります。(雷害は製造メーカー負担ではなく、保険会社負担だからですかね。米国のUL制度とここが違う。。。)
 では、太陽光発電システムの雷被害特徴を説明するために、日本の配線方式:T-T方式における電源接地環境との類似性で要因を解説してみます。

上図は、日本の屋内配線系(T-T方式)での誘導雷(雷サージ:Line-Line間とLine-Earth間)ならびに大地に流れる逆流雷(雷サージ:Earth-Earth間)を表現しています。雷保護の考え方は、侵入してくる雷サージエネルギーを雷保護ゾーン毎に考慮し、雷エネルギーをゾーン毎のSPD(サージ保護素子:Surge Protective Device)にて熱エネルギに変換したり、接地極に分流することで、機器に侵入する雷エネルギーを段階的に低減させることです。
しかし、日本の配電系統方式(TーT方式)は、配電系統から保護用接地線を配線しない方式のため、変圧器や建物のそれぞれに接地極を設けて、ここにSPDの接地側を結線し、雷サージエネルギーを大地に流す必要があります。この方式の弱点は、配線系統から機器保護用接地線が配線されないため、各機器の接地極が共通インピーダンス化(1点接地化)できず、各接地極が多点接地状態となり、電子機器間の接地電位が雷サージ印加時に変動してしまうことです。つまり、大地への雷サージエネルギーの分流が変動する可能性が大きい方式と言えます。
  太陽光発電システムでも、同様の雷サージ侵入現象が生じますが、系統電源=パワコン=太陽電池アレイの各機器接地極はシステム設置面積が、一般機器より広大な為、各機器間の大地抵抗や機器間の電線インダクタンスが大きくなり、接地極間の雷サージ電圧変動が大きいのです。 たとえば、パワコンは系統電源の接地極=パワコンの接地極=太陽電池アレイの接地極と、最低でも3点接地極からの電圧サージが直接印加されることになります。

・パワコンに要求される雷サージ耐性能力
 雷サージ耐性は、下記3種類のパターンを想定し、設計されます。
 1.直撃雷:避雷針や建物への落雷による雷サージ(10×350μsec波形)
 2.誘導雷:近傍の建物や樹木への落雷により送電系統に誘導された
       雷サージ(8×20μsec電流のコンビネーション波形:
           直撃雷エネルギーの4%レベル)
 3.逆流雷:構造物への落雷による接地電位上昇により、各接地極から配
       電系統に吸い込まれてしまう雷サージ
 直撃雷については避雷針や分電盤で雷サージエネルギーを分流させますので、一般電子機器は、系統電源側からの誘導雷サージとして、系統電源間サージ(L-L間)および系統電源=機器のアース間サージ(L-E間)に耐えるように耐雷サージ設計をします。太陽光発電システムが他機器と大きく異なるのは、パワコンには太陽電池アレイが接続されることによる接地極の追加が生じている事です。

 上図は、太陽電池アレイ部が接地極を持つことから、落雷電流が大地に流れて生じる逆流雷での、パワコン各入力間に印加されるサージパターンを示しています。系統電源/パワコン/接続箱等の各配線はSPD(雷保護素子)を介して接地極に接続されますが、系統から保護接地線が配線されないことから、落雷により逆流雷が大地を流れた時に、大地抵抗による雷サージ電圧が各接地極間で発生します。各接地極間のサージ電圧が発生することから、パワコンの各入力間に上図のような雷サージ耐圧性能:3パターンが必要になるのです。一般の電子機器は、配電系統からの雷サージ耐性だけで良かったのですが、パワコン系で雷害故障が多かった原因は多点接地への雷保護が十分理解されていなかった事にあるのかも知れません。
  ・パワコン:逆流雷サージ印加で想定される3パターン
    1.系統電源入力=パワコンアース 間
    2.太陽電池アレイ入力=パワコンアース 間
    3.系統電源入力=太陽電池アレイ入力 間

・太陽電池モジュールにも要求される雷サージ電流耐性
 太陽光発電システムの雷害では、さらに太陽電池モジュールもバイパスダイオード短絡故障による発火・発煙が発生し、多数の太陽電池モジュール交換がされています。雷被害発生時は、保険修理を適用しますが、雷サージが印加された太陽電池アレイは、モジュール外観が正常でもバイパスダイオード故障可能性(発煙・発火の怖れ)が残ります。製造メーカーは、雷害は保証対象外ですので、保険会社(住宅ならば火災保険)に全数交換を要請しますので、モジュール全数交換にいたり、保険被害額は非常に高額だと想います。
 何故、太陽電池モジュールの内蔵バイパスダイオードは雷サージ破壊されるのでしょうか? この現象は、接続箱やパワコンのSPD接地極が、太陽電池アレイ架台(金属製)と接続していない場合に生じているのではないか?と、月影は疑っています。
 下図は、逆流雷が接続箱のサージ吸収素子接地極と太陽電池アレイ架台間に流れ、接地極間に衝撃電圧が発生し、接続箱接地極⇒サージ吸収素子⇒太陽電池モジュール:バイパスダイオード⇒太陽電池モジュール(浮遊容量)⇒太陽電池架台⇒太陽電池架台接地極への電流経路を示しています。パワコンのSPD間でも同様の電流経路が生じます。残念ながら太陽電池モジュールの安全規格は、雷耐性としては衝撃電圧耐力しか要求していない為、この雷サージ耐量規格は設定されていません。(バイパスダイオードはバイパス動作時の熱設計を求めた規格により、バイパスダイオードの発熱減少策としてショットキーダイオードを採用し、雷サージ耐量も低下しています。)
 ただ太陽電池モジュールの雷害対策は,SPDの接続方法で対処可能ですので、サージ耐量規格を設定していないのかも知れません。日本の保険会社が、SPD設置と接続方法を保険適用条件として設定すれば良い内容ではあります。(保険会社さんは技術的に理解しているんでしょうね。。。)


さて、雷被害の概要説明が予想外に長くなってしまいましたので、LTspiceによる雷害シミュレーションは、次回掲載とします。

・今日のひと言
 
おとなりさんが草刈りをしたので、カエル君が大量に亡命して来てます。
でも、表題のシェラザードは、今年は黒星病対応で薬剤噴霧してるので、カエル君は花に登ってくれません。なんで、わかるんでしょうかね。。


素浪人シルバーエンジニア 月影四郎と申します。幕府学問所を卒業後、仕官したお城づとめも終了し、素浪人として歩き始めました。  皆さまに楽しんでいただけたらとふと思いたち、徒然なるままにnoteデビューした次第でございます。