26日目_表題図

月影太陽光発電所 No.26 ミスマッチ損失

 太陽光発電は長期償却型エネルギー資産ですが、最近のパワコン出力制御対応のように、エネルギー政策や電力網状況に応じた発電所設備としてのメンテンスが必要です。しかし、長期運用・保守には、主要部品のメンテナンス・部品交換が必要ですが、機器・部品/施工面の標準化は十分とは言えません。太陽光発電ビジネスはワールドワイドの急速拡大・縮小を繰り返して来ましたので、部品標準化も不十分な体制で変化が続いています。
パワーコンディショナは故障時でも、機器交換は比較的容易ですし、更新による変換効率UPや通信・計測機能付加のメリットも得れますが、太陽電池アレイの故障時対応は悩ましい点があります。そもそも、各社間の太陽電池モジュールに互換性は考慮されていませんし、太陽電池セル自体も世代毎に変更されてますので、サービス用モジュールの供給に難点があります。
このため、メーカー保証期間を過ぎていれば、故障モジュール部のみを交換修理するのか、残存している動作モジュールの残寿命を考え、撤去修理が妥当なのかの判断に迫られます。故障モジュールを部分撤去しバイパス状態で運用するか、サービス用代替えモジュールによる部分更新案の検討・比較が迫られます。
 このような時に、太陽光発電の保守運用エンジニアには、定格仕様値から太陽電池モジュール等価回路モデルを作成し、回路CAE:LTspiceを用いた出力性能シミュレーションをすることで、撤去による発電性能や交換モジュールによる問題点をチェックすることができます。
 今回は、発電性能用SPICEモデル(回路CAE:LTspice用)の応用例として、太陽電池アレイの結線変更判断に必要なミスマッチ損失率への応用を説明しますので、保守検討時のご参考になれば幸いです。

 注)ミスマッチ損失率:Lmとは
 JISC8960は、ミスマッチ損失率を『直列又は並列に接続した太陽電池セル・モジュールの最大出力が,電流電圧特性の不均一性のため,同一条件下で測定した個々のセル・モジュールの最大出力の合計よりも少なくなることによる損失率』、として定義し、下記式で表現しています。 
    ミスマッチ損失率:Lm=1-Pt/Ps 
             Pt:全体の最大出力
             Ps:個々のセル・モジュールの最大出力の合計

 たとえば、下記はPanasonic社WEBカタログ(2020年1月)からの太陽電池モジュールの性能比較表ですが、標準モジュールとハーフ/台形モジュールのセルPmaxを比較すると、ハーフ/台形型名は低性能セルを使用しているようです。太陽電池アレイを構成する時に、このように低性能セル・モジュール(VBHN070タイプの台形モジュールはIpm値が低い)を高性能モジュールと混載した場合、ミスマッチ損失を生じないのでしょうか?

Pana社モジュール定格表

このような混載問題には、出力性能シミュレーションを用いた出力結果にて、ミスマッチ損失率を計算する方法が使えます。
 また、太陽電池アレイは直列接続した太陽電池モジュール列(ストリング)を接続箱等で並列化していますが、保守運用においては一部の故障モジュールを撤去⇒バイパス接続で対応すると、並列ストリング間の直列数差(列間の電圧差が発生)による影響を考慮する必要があります。接続箱等に内蔵される逆素子ダイオードは各ストリングへの逆流保護用でしかありませんので、ストリング列間の電圧差による太陽電池アレイ全体の発電損失やP-Vカーブの2山化の確認が必要になります。太陽電池アレイのP-Vカーブ特性が2山化していると、パワコンのMPPT制御が正常に動作せず、太陽電池アレイ出力から最大電力を吸い上げれない可能性があるからです。
 太陽電池アレイの出力性能シミュレーションはミスマッチ損失率による数値表現とともに、出力性能カーブ確認ができ、2山問題のチェックもできますので、保守運用時での結線変更(故障モジュールの部分撤去)や交換モジュール選定に応用ができます。

ミスマッチ損失図解図

 今回は、Panasonic社のヘテロ接合型太陽電池モジュールの等価回路モデル紹介を兼ねて、同社モジュールでの出力性能シミュレーションにて、ミスマッチ損失率を計算してみました。
 太陽電池アレイの出力性能シミューレーションを用いることで、上図の構成におけるP-V性能から、以下のような判断を得ることが出来ます。
 上図 例1). 直列モジュール列中に低性能モジュール混在時の出力性能
               255wモジュールは高性能セル(3.55w/セル)ですが、
     120wモジュールは3.35w/セルの低性能セルです。
     255w×5枚と120wセル×2枚からなる直列アレイにおける
     ミスマッチ損失率:0.02%であり、弊害は無いレべルです。

例1_ミスマッチ損失率_改訂B


  上図 例2). 並列モジュール列間の直列数差の許容範囲   
     255w×5枚と120wセル×2枚からなる直列アレイと、
     255w×5枚と120wセル×1枚からなる直列アレイを並列化
     した太陽電池アレイのミスマッチ損失率は、1.6%であり、
     出力低下しますが、P-Vカーブの2山化現象は出ていません。

例2_ミスマッチ損失率_改訂B

26回_例2ミスマッチ損失_PVカーブ図


 このように太陽電池アレイの構成変更時は、パワコンの入力仕様確認とともに、モジュール出力が有効出力されているかを、ミスマッチ損失率や出力カーブが2山化していないかを、確認することができます。

 今回は、上記のハーフモジュール混載例(低性能モジュール混在)を添付してますので、太陽電池アレイの出力性能シミュレーションによるミスマッチ損失率を計算してみてください。
 なお、過去に販売された太陽電池モジュール・モデル等を必要な方が見えましたら、月影にモジュール仕様書等をメール添付いただくことで、モデル作成をお手伝いすることもできます。下記のメールアドレスまで、お気軽にご相談ください。  (メールアドレス:tsukikage515@gmail.com)

・Panasonic社 2019年太陽電池モジュール概要 と配付サンプル
 Panasonic社の太陽電池は、一般的なpn接合型単結晶太陽電池と異なり、ヘテロ接合型(アモルファス層によるエネルギーギャップを利用)太陽電池です。変換効率が良く、高効率/温度特性に優れた太陽電池が特徴です。
しかし、アモルファス層は中間層:i相の上にp相を成長させる必要があり、しかもn型単結晶シリコン基材両面にアモルファス層を作成する為、製造装置コストが高額化しています。また、一般的なp型太陽電池セルは156mm角ですが、普及の遅れているn型単結晶セル:125mm角を使用しており、高コスト化を余儀なくされそうです。今後も、モジュール外形・出力電圧的に継続供給への留意が必要なモジュールかも知れません。温度特性は優秀ですので、PERC型単結晶モジュールに対し、寒冷地区(長野等)でも、+2%程度の温特差による太陽電池アレイ自体の年間発電電力量UPは見込めます。
 また、信頼性については、下図の産総研(AIST)資料では、2012年11月⇒2016年12月までの各タイプの経年劣化性能が報告されていますが、ヘテロ型は4年間で3.1%劣化であり、単結晶シリコンと同等レベルです。

AISTタイプ別経年比較

Pana経年変化

 ヘテロ型太陽電池はアモルファス層によるエネルギーギャップを利用しているので、等価回路モデルではエネルギーギャップ(Si:1.11eV⇒ヘテロ:1.8eV)を変化させても良いですが、エミッション係数:N値を大きく設定することでも作成できます。
今回のシミュレーション・モデルは、2020年1月時点でのカタログ掲載製品のシミュレーション・モデル精度例ですが、ヘテロ接合も他と同様な等価回路にてモデル化可能です。
 上記例のミスマッチ損失率計算例を添付しますので、下記よりダウンロードし、LTspiceにてお楽しみください。
(逆方向特性は付加してませんので、故障解析用途には使用しないで
 ください。)

・サンプル配付:Panasonic社 太陽電池モジュール LTspiceモデル内容

  Panasonic社仕様書データから、独自作成したLTspiceモデルですので、Panasonic社殿にはモデル・データ等に、一切の責任はございません。
(本データの使用に際し、モデル・データの無断配付は禁止とさせていただきます。
  ****.cir  :モジュール回路情報を暗号化したデータファイル
          (著作権は、暗号化データ中にも記載)
データ量も小さく、noteより、モデルデータをダウンロードし、ご使用をいただけると幸いです。
 また、本データ使用による損害等は、月影は負うことはできません。
ご利用される際は、ご使用者の責任にて判断をお願い申し上げます。)
 
・配付ファイル:ミスマッチ損失率計算用モデルと太陽電池モデル
2020年 1月時点のWEBカタログより、住宅用太陽電池モジュールの下記型名モデル:LTspice用シミュレーションモデルから、255W/120Wを用いたミスマッチ損失率例題を添付しています。
下記よりzipファイルをダウンロード後、すべて展開することで下記のシミュレーション用ファイルが同一フォルダ内に展開されます。
 シンボルファイル:*.asyと回路データファイル:*.cirが同一フォルダに展開されることで、ライブラリー編集も一切不要です。
 *.ascファイルをLTspiceよりOPENするだけで、太陽電池アレイの出力シミュレーションとミスマッチ損失率をお楽しみ頂けます。

26日目_添付ファイル一覧

詳しい使用方法を知りたい方は、過去のnote記事:発電第5日目や発電24日目等を確認いただき、LTspice環境をインストールし、シミュレーション動作をさせてみて下さい。(Solver設定も忘れずに。)

なお、下記はPanasonic社:2020年 1月時点のWEBカタログより、住宅用太陽電池モジュールのLTspice用シミュレーションモデル作成結果ですが、高精度にてヘテロ接合型もモデル作成が可能なことを示しています。

26回目_PANA表1

26日目_PANA表2

26日目_PANA表3



素浪人シルバーエンジニア 月影四郎と申します。幕府学問所を卒業後、仕官したお城づとめも終了し、素浪人として歩き始めました。  皆さまに楽しんでいただけたらとふと思いたち、徒然なるままにnoteデビューした次第でございます。