上級3_表題2

月影太陽光発電所 発電23日目 上級3

 素浪人エンジニア月影です。
 太陽電池アレイの出力シミュレーションを回路CAE:LTspiceで行うには、太陽電池モジュール型別に作成された等価回路が必要です。
難しいように感じますが、太陽電池モジュールは、大面積のPN型ダイオード:太陽電池セルを直列接続した製品ですので、ICモデルのようにトランジスタやダイオードからなる複雑な回路を勉強しなくても、単純な等価回路モデルの定数を変化させることで作成することが出来ます。
 回路CAE:SPICEは集積回路(IC)設計用の汎用ツールとして、1970年台に開発されたソフトですが、リニアテクノロジー社が開発したLTspiceにも基本素子モデルのライブラリーが公開されており、素子パラメータ記述の参考にすることが出来ます。ICも、製造プロセスに応じたトランジスタ素子で構成されたトランジスタ回路ですので、太陽電池もダイオード素子等のパラーメータ記述を理解することで、太陽電池等価回路を作成できます。
 では、太陽電池モジュールの等価回路モデルと素子記述方法を月影なりに説明してみますので、自作等価回路作成時の参考になれば幸いです。

1.太陽電池セルの基本モデル
 太陽電池アレイの出力解析用途では、下図の太陽電池セル等価回路を拡張して用います。ただし、太陽電池の出力シミュレーションでは、セルの順方向特性しか使用しないため、下図の等価回路には逆方向特性が考慮されていないことを知っておく必要があります。(故障解析には使いません。
 太陽電池セルは大面積ダイオードであり、下記の部品構成で表現します。
  I1:日射量に応じた発電電流として、定電流源で表現します。
     下図は、変数名{I}を与えて、電流値を可変にしています。
   D1:発電電流源I1と並列にRshと並列に配置されます。
     セルはPNダイオードですので、ダイオード個数は1個で表現
     しています。(ヘテロ型太陽電電池はタンデム構成ですが...)
     なお、ダイオードの性能パラメータはセル性能に合致するよう
     に記述する必要があります。
   Rsh: 並列抵抗値
      Rs:直列抵抗値であり、セル抵抗分、くし型電極(フィンガー電
     極)やバス線等の配線抵抗値が含まれます。

・太陽電池セルの出力解析用等価回路

上級3_セル等価回路

 太陽電池モジュールは、数10枚のセルが直列に接続された構造ですので、このセル等価回路を直列に接続することで表現できますが、セルを短冊上に接続したセルストリング等価回路にしたり、全セルを一括したモジュール等価回路に拡張して使用することができます。
太陽電池モジュールの出力性能は、ソーラーシミュレータ測定による3点値(公称短絡電流Isc、公称最大出力Pmax、公称最大電圧Voc)で表示されますが、ソーラーシミュレーター測定では、Rs/Rsh/D1として各素子定数に分離することはできません。そのため、等価回路の各定数はソーラーシミュレーター測定値:3点(Isc、Pmax、Voc)とシミュレーション結果が一致するように、等価回路各素子の数値を調整する手法が使われます。
 なお、ソーラーシミュレーターにはI-V特性測定時にRs/Rsh値については、下図のような粗い近似値で計算してくれる機能は付属しています。

上級3_ソーラーシミュレーターのI-V測定例完成版

2.太陽電池モジュールの等価回路
 
太陽電池モジュールは、太陽電池セル:数枚~10枚をはんだ銅線(タブ線)にて直列接続したセルストリングが、直列に接続されています。
また、セルストリング2直列毎に、障害時迂回用にバイパスダイオードを並列に接続するため、端子ボックス内にバイパスダイオードを収納し、セルストリングからのタブ線と、端子ボックス内の端子台で接続する構造になっています。
 モジュール内の直列セル枚数については、住宅用では、10セルからなるストリングを6直列化した(6×10)モジュールや、取扱い時の軽量化を狙った(5×10)モジュールが、フル・モジュールとしてラインUPされています。また、寄棟屋根等に搭載するために、スリム/ハーフ/台形等の各種形状モジュールが必要ですので、外形に応じてセルストリングの直列セル枚数を変化させることで製作されます。
 下図は、一般的な6×10セル/5×10セルからなる、フルモジュールのセル配列になります。6×10セル構成は、10枚の直列セルからなるセルストリングが6直列で使用されていることを意味してます。
 なお、バイパスダイオードの配置において、(6×10)モジュールはバイパスダイオードは20セルに対し並列に配置されますが、5×10セル構成は、ストリングが5直列となることから、バイパスダイオード配置に部分的な交差部がでることから、インターレース接続とも呼ばれます。

上級3_モジュール結線図6×10と5×10

 太陽電池モジュールの等価回路は、上述のセル等価回路を全直列に並べて作成できますが、下図のようにセルストリング単位:10セル直列分を1個の等価回路で表現したり、60セル直列や50セル直列分を1個の等価回路で表現すれば、太陽電池アレイのように数10枚の出力計算には便利です。セル破損やタブ線断線を検討する場合は、セル単位やストリング単位の等価回路形式が必要ですが、メガソーラーのように巨大な太陽電池アレイ群には、全セルを1個のモジュール等価回路でシミュレーションすれば、パソコンでの机上計算も容易になります。
 このような考えで、太陽電池モジュールをセル10枚からなるセルストリングで表現した等価回路ブロックや、全セルを1個の等価回路ブロックで表現する場合は、下記のような結線図で表現することができます。

上級3_10セルストリング表現図

上級3_全セル直列表現時

 また、セルストリング等価回路や、全セルを1個として扱ったモジュール等価回路では、セル等価回路形式を拡張して用いますが、表示を区別するために、D1のシンボル表記を複数ダイオードからなるシンボル表記にしてみました。

上級3_モジュール等価回路

このように、モジュール等価回路はセル等価回路の拡張で表現できるのは、太陽電池モジュールが単調なセル直列構成であることにあります。さらに、下図のようにモジュール出力特性(P-V特性)のPmax点近傍は変化量が小さく、モジュール出力にばらつきがあっても加算誤差が問題にならず、出力合成の用途にはモジュール等価回路を用います。(故障解析用途では、逆方向特性を備えたセル等価回路を使用しなければなりませんので、この等価回路を用いてはいけません。)

上級3_モジュールIVPV出力カーブ図

3.モジュール等価回路のパラメータ調整
 太陽電池モジュール定格は、ソーラーシミュレータで測定したモジュール出力定格なので、この数値に合致するようにモジュール等価回路の素子パラメータを作成し、故障解析用途には、逆方向特性を備えたセル等価回路やセルストリング等価回路を準備します。
 今回は、出力合成用の順方向等価回路を説明しますが、セルやストリング構成の順方向等価回路は、下表のようにモジュール等価回路の定数から比例則で初期値を作成し、各素子パラメータを微調整することで作成ができます。

上級3_モジュール等価回路

上級3_パラメータ表

このように、定格値を模擬した順方向等価回路を用い、ソーラーシミュレータのI-V曲線に近似させる手法を、カーブフィッテイング法と呼びますが、同等価回路の定数調整手順は、LTspiceを用いた手法では、豊島安健氏(産総研)のPDF文書が参考になりますので、各パラーメータ変更や、ライブラリー編集方法は、同文書にて確認ください。 
 モジュール等価回路では、定電流源I1、ダイオードD1、直列抵抗Rs、並列抵抗Rshは、【モジュール定格値:ソーラーシミュレータでの25℃/日射量1000w/m2下の測定値】に近似するように設定します。
近似させるために、LTspiceではシミュレーション・データを.measureコマンドにて、3点値(Isc,Pmax,Voc)を抽出し、各素子パラメータを微調整することで、モジュール仕様書の記載データに漸近させていきます。
近似精度は、カタログ定格値の3点(Isc,Pmax,Voc)との差異を、定格値±0.3%誤差レベルを目標にすれば良いと想います。
 ソーラーシミュレーターの測定I-Vカーブと、等価回路によるI-Vカーブは差異がでるのですが、カタログ定格値の3点のみの精度保証で実害が無い理由は、太陽光発電に用いる機器定格が、最大電流値・最大電力値・最大電圧の3点値で良い事や、パワコンがMPPT制御(最大電力点追従制御)にて太陽電池アレイのPmax点で動作することにあります。

 なお、RsやRshの抵抗値は、パラメータとして抵抗値を回路図に入力できますが、ダイオードは設定するパラメータが最低3点必要です。
豊島安健氏(産総研)の資料では、LTspice付属のstandard.dioに、下記のようなDモデルを追記する手順が記載されていますので参考にしてください。
(等価回路をシンボル図で表現し、等価回路をnetlist形式で記述し、ダイオードパラメータも文中に.model記述する方法もあります。)

・ダイオードパラメータの記述例と素子パラメータ例
  .model 型名 D(Is=3.1n Rs=0.15 N=68.3 Iave=10 Vpk=75  type=silicon)

バイパス・ダイオードは出力合成では必要ありませんが、太陽電池アレイでのアンバランス接続では必要になる場合を考慮し、接続をしています。太陽電池モジュール仕様書に、バイパスダイオード型名が記載されていなければ、代品として下記パラメータのバイパスダイオード(ショットキーダイオードとして作成)を用いておけば良いと想います。

・バイパスダイオード(ショットキーダイオード)の仮記述例
.model 型名 D(Is=0.00003 Rs=0.005 N=1.2 Eg=0.69 Iave=20 BV=75   
       IBV=0.004 type=Schottky)


・今回のまとめ
 等価回路の概要をまずは説明してきましたが、LTspiceが設定できないとの声がありましたので、次回は具体的なLTspiceの設定や計測コマンドの使い方を説明し、今回の等価回路作成手順を紹介する予定です。
また、豊島安健氏(産総研)の資料には、netlistを使った手法は説明がないので、等価回路配付の便利な使い方も紹介したいと想います。
(LTspiceは各種用途にも使えるシミュレーション環境と想います
 ので、詳しい使用法を知りたい方は、下記本をおすすめします。
 入門書的ではありませんが、マニュアル本の名著だと想います。)
  参考資料:オーム社 渋谷道雄氏著
       「LTspiceで学ぶ電子回路」

・ちょっと寄り道
 2020年3月に三菱電機も太陽光発電事業から撤退のニュースが出ましたね。最近のモジュール事業は、コスパしか求めないので、技術開発の停滞や国内事業規模をみると、国内各社の撤退は今後も予想されます。
ただ、太陽光発電自体は問題がない商品ですので、この機会に太陽電池モジュール調達やメンテナンスに、シミュレーション技術を習得されると良いと想います。。。
 SPICEは集積回路(IC)設計用の汎用ツールとして、1970年台に公開されたソフトですので、月影も数10年来お世話になってます。
特に、LTspiceはパラメータ・モデルの作成・記述環境が開放されて使えることは勿論ですが、作成した回路モデルを暗号化して配付するツール:XVIIx64.exeが添付もされています。
作成した回路モデルには著作権を記載し、暗号化ツール:XVIIx64.exeを用いることで、配付モデルの記載内容改変防止や流用配付の検出も出来ることから、各種モデルをカプセル化して配付する場合にも便利です。
太陽電池モジュール各社も、太陽電池モジュール用モデルを配付してくれるとありがたいのですが。。。


素浪人シルバーエンジニア 月影四郎と申します。幕府学問所を卒業後、仕官したお城づとめも終了し、素浪人として歩き始めました。  皆さまに楽しんでいただけたらとふと思いたち、徒然なるままにnoteデビューした次第でございます。