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月影太陽光発電所 No.28 ホットスポット(2)

 ホットスポット(1)ではJIS改訂にともない、新JISC61215-2 4.9項:ホットスポット耐久試験による、同現象の再説明をしました。
本編では、『日射遮蔽でのホットスポット現象』を、太陽電池モジュールの点検に必要な知識として『赤外線サーモグラフィー故障診断』を想定し、日射遮蔽でのセル発熱シミュレーションを紹介します。
 なお、シミュレーションでは、『日射遮蔽でのホットスポット現象』による発熱を日射遮蔽セルの発電/発熱電力として分析しています。

(注.本編は、LTspiceによるホットスポット現象の再学習編ですが、本内容に
  使用した太陽電池アレイ回路のダウンロードファイルを添付してます。
      LTspiceや太陽光発電の学習用に使用ください。
    ・LTspiceの環境設定は、月影の過去noteより参照ください。
    ・ダウンロードファイルの無断転用はしないでください。
      *.cirデータには著作権記載がされ、暗号化もされてます。
    なお、月影が考えたシミュレーション解ですので、文献として日本産業
  標準調査会のJIS検索より、認証試験規格『JISC61215-2:2020』の
  4.9項をお読みになり、本シリーズ:No.27の併読をおすすめします。)

『日射遮蔽でのホットスポット現象』:発熱シミュレーションと故障診断 
 シャープ製240Wモジュール:NU-240AH×10枚を直列接続した太陽電池アレイを想定し、そのうちの1枚をセル等価回路:48直列にて構成したモジュール回路を使用しました。また、下図のようにセル等価回路中の1枚を日射遮蔽セル(≒日影セル)として分析し、アレイ中の日影セル1枚のホットスポット電力がシミュレーションできます。

No28_分析回路概要

 下表にて、上記アレイでのモジュール直列数を8~12直列に変化させた時の、日射遮蔽セル(≒日影セル)1枚の発電電力をみてみましょう。
表は、アレイ中の日影セル1枚の日射量が、他セル部×(80~90%)の日射量に変化させた時の、日影セル電力(単位:W)の変化をしめしています。
 この結果より、87%~85%に日射量が減少する点を境に、日影セルは発電冷却⇒発熱(日射1000w/m2では約80W発熱)に急変することに驚くと想います。これが、『日射遮蔽でのホットスポット現象』になります。
 (注.太陽電池セルは日射により温度上昇しますが、パワコンにて日射エネ
 ルギーの10数%が電力回収され、温度上昇分は若干(数℃)抑えられ
 ます。この日射からの電力回収分を発電冷却として表現してみました。
 なお、光変換効率分は冷却されますが、電力回収されない日射エネルギー
 分により、セル温度自体は上昇(数10℃)します。 )

No28_影セルの発熱表改

次に、他セルの日射量変化と日影セルの日射比の影響を確認すると、下表のように日射自体が低下すれば日影セル発熱も低下はします。
ただ、発熱への変化ポイント:日射比87%値は変化しないことが解ります。

No28_日射量による影セル電力変化表

 このように、シミュレーション結果はモジュール直列数に関わらず日射量:13~15%減から更に日射が低下した影セルは大きな発熱(HotSpot)を発生し、その発熱量は日射量に応じた発熱電力になることを示しています。
言い換えれば、正常セルであっても、雲等により他セルより日射量が13~15%減してしまえばホットスポットセルになり、影がかかれば発熱電力が急激に上昇し、影が薄くなれば発熱がまったく無くなることになります。
 影による発熱変化が急激なことと、セルの熱時定数を考えると、太陽電池アレイ面が雲による日射むら領域が変動している状態では、日射量が13%以上低下する部分は急激な発熱⇔正常が繰り返すため、日影セルの温度は推定困難です。この事は、日射量が変動している時間帯はセル間温度差での単純な故障判定が困難なことを意味しているとも言えます。
このことを、『赤外線サーモグラフィー故障診断』として太陽電池アレイの定期点検等に運用する場合は、下記のような制約が予想されます。
   ・セルクラックやインターコネクト導線剥離/断線による部分発熱の
    故障発見に注力する。
   ・発電が一定以上であり、発熱セルが無いならば正常である。
   ・モジュール中にセル間温度差があっても発熱セルが故障している
    とは1回の測定では断定しない。
    ⇒影がかかっていないと想われる状態で、複数回の温度測定を
     実施し、発熱差大が常時認められた場合に異常セルと判定
 このように、太陽光発電の保守・点検業務においても、『日射遮蔽での
ホットスポット現象』を理解することは大切なことが解ると想います。
 また、定期点検における周囲環境変化(建物や樹木の成長)による太陽電池アレイへの影の影響、木の葉等の異物影響や、『赤外線サーモグラフィー故障診断』等にSpiceシミュレーションは応用できる技術ではないでしょうか。
                               以上

  -----------LTspice用シミュレーション データダウンロード説明--------
『日射遮蔽でのホットスポット現象』の学習用に、今回のシミュレーション用ダウンロード・データ(LTspiceXVII用)をご利用ください。
太陽光発電やLTspiceに興味のある方は、下記をお読みになり、太陽電池アレイのシミュレーション手法をお楽しみください。
 ・ダウンロード・データは、(モジュール等価回路×9枚)と、(逆方向特
  性付きセル回路で構成されたモジュール×1枚)からなる10直列ストリン
  グです。日射量と影セル部の日射量は独立して設定ができます。 
  また、影セルの発熱電力を、計測コマンド:.measure式が記載され、
  簡単な測定結果が得られます。

・『日射遮蔽でのホットスポット現象』のSpiceシミュレーション
   シミュレーション用ファイルは、下記よりダウンロード → ZIP解凍し、同一フォルダー内に外形図(*.asy)/モデルデータ(*.cir)/シミュレーション回路図(*.asc)に展開することで、LTspice部品ライブラリー登録をせずに、LTspiceからシミュレーションができます。
なお、LTspiceの環境設定(計算データの自動消去や計算エンジン切替)は必要ですので、過去noteを参照し設定ください.

ダウンロード・ファイル概要
 ・シャープ社製NU-240AHの10直列アレイ分析用回路

No28_分析回路概要

 ・ファイル分類

No28ファイル一覧

上記のファイル拡張子は下記の意味です。
   太陽電池....asc : シミュレーション回路ファイルです。
   ****.cir  :モジュール・セル等価回路の暗号化データファイル
   ****.asy :モジュール外形図のCADシンボル図
   ****_ex. asc : モデルの定電流外部変数名が{I}ではなく
            {I240AHcell}のような型名変数になります。
   ****_TEST_I-Vテスト.asc:モジュール/セル単独のシミュレーション回路ファイル
LTspiceXVIIより、**.ascファイルをOPENし、RUNにてシミュレーションできます。

・例題モジュール説明:SHARP製NU-240AH の概要
 下記の、PERC型単結晶モジュール:NU-240AH(SHARP製240W)の定格値を
用い、モジュール発電等価回路を作成し、さらに枚数比例則にてセル等価回路も作成しました。同社は仕様書閲覧ができないので、定格から推測した内部結線とショットキーダイオードで構成しています。

No28_モジュール紹介カタログ図

1)作成したNU-240AH:セル等価回路 (NU240AH_CELL_REV, _ex回路)
    逆方向特性:-20V/-0.2Aにて、作成したセル等価回路としました。
    セル回路:NU240AH_CELL_REVの回路接続構成と部品値は、
    NU240AH_CELL_REV.cirに記載し、include文で展開しています。
    日射量に対応する電流パラメータ:Iは、下図では0(A)で
    すが、これは日射量=0 W/m2を示しています。
    (太陽電池モジュールは、日射量=1000 W/m2 at25℃が定格条件
     なので、日射量の変化を電流パラメータIにて指定しますので
     日射量=1000 W/m2を、電流源I値で指定するには、
      .param I=9.748
        公称短絡電流値:Isc+(内部抵抗Rshに流れる電流)
     になります。発電シミュレーションではRsh電流が小さいこと
     から、日射量と公称短絡電流値:Iscを比例関係としてます。
      日射量:0~1000(W/m2) ∝  電流源I:0~Isc(A)

No28_セル出力図

   また、日射量(定電流源I)や逆方向漏れ電流(逆漏れ抵抗Rrev)を変
   数として設定できるセル回路も用意します。 
   (モジュール等価回路中:U48セルに使用しています。)
        NU240AH_CELL_REV_ex_TEST_I-Vテスト.ascから確認できます。
    定電流源:Iを変数:I240AHcell 
    逆方向漏れ抵抗値を、変数:Rrev

No28_変数化セルとIV特性

2)逆方向特性セル等価回路によるモジュール回路
   8枚セルからなるストリング×6列にバイパスダイオード:3個を配置し
   たモジュール等価回路にて、シミュレーション出力と定格値の誤
   差を確認済みです。
   (セル:U48のみ、NU240AH_CELL_REV_ex.cirに変更し、日影
    セルとして他セルと異なる日射量設定を可能にします。)

No28_モジュール等価回路

No28モジュールIV図

No28_モデル誤差

・例題モジュール説明:SHARP製NU-240AH .measureコマンド説明
   シミュレーションが完了後は、.measureコマンド結果を、Ctrl+L キー操作
   にて、Spice Error Log窓を表示させ、演算式の結果を得れます。
 例.
 日影セル:U48の電力は、Pcelllossとして2種類を計算します。
 ・Pcellloss_at_Isc    : 出力短絡時に生ずる日影セル電力 (JIS試験)
 ・Pcellloss_at_MPPT : 出力のMPPT運転時での日影セル電力(実動作)
 なお、電圧源V1の掃引ステップが粗い場合、測定値が求めれない場合
 が発生します。

No28_MEASURE文


・ちょっと寄り道
 世の中は。さてさて、またまた、大騒動。。
 それでも、庭は緑に、桜にウグイスと。。
 鯉もゆらゆら、草むしり。。
  もったいないような季節ですが、在宅勤務の合間にSpiceシミュレーショ
  ンでも、楽しんで習得してみて下さい。  

No28写真


素浪人シルバーエンジニア 月影四郎と申します。幕府学問所を卒業後、仕官したお城づとめも終了し、素浪人として歩き始めました。  皆さまに楽しんでいただけたらとふと思いたち、徒然なるままにnoteデビューした次第でございます。