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月影太陽光発電所 発電22日目 上級2


 素浪人エンジニア月影です。
 上級編は、アナログ・デバイセズ社さんが無償提供されている回路CAE:LTspiceを使い、太陽電池モジュールの出力分析用等価回路と使い方を説明していきます。太陽光発電を取り付けている方には、応用価値がないと退屈なテーマですので、本編に入る前にシステムの発電性能診断の現状を確認し、シミュレーション手法が面白そう!と感じていただけたら幸いです。

・太陽電池アレイの屋外発電性能診断:現在の状況
 現在の太陽光発電システムは、監視モニターに瞬時発電量・累積発電量や故障表示機能はありますが、発電量がメーカー保証性能値を満足しているかの発電性能診断機能までは提供されていません。
例えば、オムロン社の計測ユニット+カラー表示ユニット構成の「エナジーインテリジェントゲートウェイ」の計測機能をみてみましょう。
・オムロン社:計測ユニットを備えた監視モニタ:KP-MU1P 
 積算発電量は1時間単位の表示は可能ですが、環境測定機器(日射量やパネル温度)への接続機能がないため、発電量モニターはできますが、日射量に対する発電性能診断はありません。発電データは、SDメモリーにCSVファイルで記録し、分析に使用はできますが、パワコンがあつかっている状態情報量(入力電圧・電流・変換効率データ等)が含まれていません。
交流発電量から損失分を減算する為の情報、もしくは太陽電池アレイからの入力電力データがないと、測定器としての応用もできません。
パワコンはソフト・デバッグ用に、ほぼリアルタイムの内部状態データ通信が可能な構成をとりますので、パワコンデータや環境測定機器との通信・記録機能を搭載すれば、「エナジーインテリジェントゲートウェイ」な測定機器になるのですが。。。次作に、期待しましょう!

2019-11-12_オムロンモニタ外観

2019-11-12_オムロンデータ一覧


 では、有料運用監視サービスは太陽光発電所の出力性能診断は提供されているのでしょうか?
例えば、NTTスマイルエナジー社の遠隔モニタリングサービス:「エコめがね 」は、太陽光発電システムの運用監視サービスを提供しており、人工衛星観察による推定日射量を用いた稼働状態の判断機能をアピールしてます。

2019-11-12_エコめがね見守り画面

しかし、表示では1%単位の診断に見えますが、太陽電池アレイ面の日射量・温度の直接測定をしていない事から、「エコめがね」の診断精度に関する記載はなく、発電量の期待値と実測値の比較値の表現になっています。
発電量の期待値は何を意味しているのでしょうか?
見守りレポートには、下記の内容で説明されています。。
【エコめがね】:見守りレポートの内容
 ①最大発電実績:1カ月で最も発電した1時間の発電量と、
         パネルの理想出力(設置定格×80%値)の比較

 ②累計発電実績:1カ月の発電実績と、人工衛星計測による推定日射量
         ×(パネル種類・容量・設置角度・方角の情報)による
         発電量期待値の比較
   注)診断表現は、「いい感じ」や「少なめ」と表示されます。
     1カ月間のうち、1時間あたりの最も多い発電量で発電量
     低下のアラート「少なめ」がでます。
     少なめ表示基準 =パネル容量×0.8×0.5
             =パネル容量×40%

太陽電池モジュールの出力性能保証値【Panasonic社:81%/10年、72%/25年や、JinKO Solar社(中国):83.1%/25年リニア保証等】ですので、「エコめがね」は、見守りレポートには使えても性能診断はできません。なお、近隣の太陽光発電システムとの発電量比較では、太陽電池アレイ1kwあたりの発電量で確認が出来ますが、他システムの経年劣化や太陽電池の取付方位・傾斜角・温度や、パワコンの発電量抑制状態について、どのように比較すれば良いのかは、カタログからは理解できませんでした。

このように、市販監視モニターでは日射強度やパネル温度を計測しないために出力性能診断はできませんが、太陽電池アレイの屋外出力性能診断を日本産業規格(JIS)や太陽光発電協会(JPEA)で確認してみましょう。

・定期保守点検における発電性能診断
太陽光発電協会(JPEA)保守点検ガイドライン(住宅用)では、発電設備の保守・安全性点検が目的であり、発電性能診断は点検項目にありません。住宅用システムは、有料の定期保守点検でも、太陽電池モジュール発電量が経年保証値を満足しているかの診断は点検対象にしていません。
JPEA:太陽光発電システム保守点検ガイドライン(住宅用)の項目参照

しかし、屋根設置でないシステムならば、公共産業用【10kW以上の一般用電気工作物】ガイドラインでは、太陽電池ストリングの屋外診断測定器として「I-V測定器」を紹介しており、太陽光発電技術研究組合(PVTEC)からは簡易診断手法としてのガイドラインが公開されています。
JPEA:太陽光発電システム保守点検ガイドライン(公共産業用)
      【10kW以上の一般用電気工作物】
PVTEC:「太陽光発電システム保守・点検のための屋外環境下
        における I-V 特性測定方法ガイドライン 第1版

PVTECガイドラインは、JISC8953「結晶系太陽電池アレイ出力のオンサイト測定方法」:I-V測定手法における測定条件を緩和することで、簡易的な出力性能診断方法も記載されています。
I-V測定器は、接続箱部の開閉器をOFFにして接続され、太陽電池ストリング毎のI-V特性カーブを測定しますので、太陽電池ストリングの出力特性を取得できます。このI-Vカーブから取得したPmax値に、測定時日射量とパネル裏面温度およびPmax出力温度係数を用いて、太陽電池モジュール定格条件:25℃1000W/m2出力に換算する方法で、太陽電池ストリングの発電性能診断を簡易的におこなえます。
 ・PVTECガイドラインの測定方法 
  実発電量:I-V測定器での、200msec以下の短時間掃引時 Pmax値
  期待発電量:アレイ定格値(温度25℃/日射量1000W/m2)に対し、
        診断時:日射量/パネル温度下での補正計算で算出
  日射量補正:斜面日射量/(基準日射量:1000W/m2)
        日射強度は、基準太陽電池やシリコン・フォトダイオード日射計
        を用い、ISO9060 2nd Classに準ずる計器精度で測定
   温度補正:モジュールPmax温度係数 ×パネル平均温度-25℃)
        代表モジュール裏面を±2℃精度で温度測定 

しかし、屋外性能診断は、ソーラーシミュレータによる性能劣化診断の要否判断をするための検査手法であり、診断確度的にスクリーニング検査の位置づけ、でしかありません。
つまり、環境条件が変動する屋外運転では、実発電量の計測とともに、環境条件を計測し、その環境での期待発電量の計算手法(補正方法)が必要であり、変動に対する測定精度や補正精度が診断精度低下を招くことから、出力性能診断手法としては確立できていません
また、「PVTECガイドライン」のI-V測定器は太陽電池アレイの故障点検計器ですので、発電状態での動作監視はできず、通信を介したリモート監視診断にも応用できません。また、日射下の太陽電池アレイ出力は直流高電圧であり、接続箱部でのI-V測定器接続は専任者が必要ですし、電流測定もカレントトランス型計測になるため計測精度も低下します。パネル温度も、平地設置のモジュール裏面温度測定は可能でも、屋根設置では困難です。
 太陽電池アレイの屋外性能診断はこのような概況ですので、期待はできないのでしょうか? しかし、屋外性能診断をスクリーニング診断と位置づけ、リモート監視+低精度計測で実現するならば価値はあります。
 パワコンがもつ計測機能を用いて、リモート診断する手法を例に考えてみましょう。
(例によって、特許関係は調査していませんので、月影の提案レベルとして、お読みください。)

・パワコン機能を応用したシミュレーション計測手法
 実発電量は、PVTECのI-V測定器手法は電圧/電流測定に±2.5%精度を求めていますが、パワコンは±2%精度の交流電力計ですし、さらに通信機能にて計測データのリアルタイム測定や積算電力量等の記録が出来る性能を持っています。さらに、パワコンは電源電圧や内部温度上昇での発電抑制状態もコントロールしていることから、変換効率に関係する制御データも持っているので、交流発電電力から太陽電池アレイの入力電力(測定電圧および推定入力電流)を高精度に推定ができます。つまり、ダイナミックMPPT性能を実現したパワコンは、太陽電池アレイ出力を変動日射下でもリアルタイム計測できます。(三菱電機製パワコンは、ダイナミックMPPT性能(30%-100%間):99.8%を実現しており、月影は高速電力計を同社パワコン入力段に接続することで、太陽電池アレイの屋外性能診断に使用してました。) 
 期待発電量は、日射量計測と太陽電池アレイ温度計測および太陽電池モジュールの出力温度係数が必要ですが、モジュールの出力温度係数(Pmax等の温度係数)は仕様書に参考記載され始めていますし、温度推定に必要な、Pmax点のVpm/Ipm温度係数も同時測定されますので、メーカーに確認をすることが出来ると想います。

また、太陽電池アレイ面への日射量計測は必須ですが、英弘精機製Siフォトダイオード日射計があり、計装アンプ(単3電池駆動)を介して安価なデータロガーで時刻/日射強度をアレイ面設置状態で数10msec間隔で測定できます。記録容量も大きく、累積日射量記録にも対応できます。もちろん、無線通信機器も安価なので、パワコンとの発電データ通信と時刻同期した日射量計測によるリモート診断も実現ができます。なお、太陽電池アレイ温度は、中級2に説明した手法でパワコン入力データと温度係数から推定をします。
  ・T&D社製 データロガー例 MCR-4V

2019-11-13_データロガー紹介

上記の手法にて、日射量とパネル温度推定値が測定できることから、太陽電池アレイ定格値(25℃・日射量1000W/m2)に日射補正と温度補正をすることで、屋外における期待発電量は下記式で計算ができます。
 期待発電量=太陽電池アレイ定格×日射量補正×温度補正
   日射量補正:日射強度÷1000w/m2
   温度補正 :(太陽電池Pmax温度係数×(アレイ推定温度ー25℃)
太陽電池アレイの屋外発電性能診断は、実発電量/期待発電量ですので、上記の方法ならば、発電データをフィルタリングすることでリモート診断が容易に実現が可能と想われます。

えー、でも太陽電池アレイ劣化はMPPT点の電力点低下として現れるならば、Pmax点から計測するアレイ温度推定はできないのでは?と、ここで想われた方は4流エンジニアの素質ありです!
はい、これが屋外性能診断のキーポイントになると月影は考えています。
つまり発電量低下は、日射量下でのシミュレーション推定温度が高温化することで現れ、劣化診断をアレイ推定温度値の異常で簡易診断することが出来るのでは?と月影は推測しているのです。
下記の、PVTECガイドライン記載の出力低下一例では、Pmax点が低下し、Pmax点の電圧(Vpm値)と電流(Ipm値)が低下しています。中級2の太陽電池アレイ温度推定式は、運転時Vpmを温度係数で除算する温度推定式ですので、劣化によるVpm電圧低下は温度上昇としてあらわれます。

2019-11-14_PVTEC出力低下グラフ

画像7


太陽電池モジュールのPmax温特:-0.4%/℃であれば、50℃時の出力は10%低下することから、出力性能劣化が10%も生じた場合は、25℃相当のアレイ温度推定誤差となるかも知れません。モジュールの部分的温度ならば、日射量測定と同時に実測定も可能ですし、JISC8907のようなパネル温度推定手法もあります。太陽電池アレイ温度推定による簡易出力診断手法は検討価値があるように想います。

どうですか? 
太陽電池モジュールの等価回路を使って、LTspiceで遊べると想いませんか?予測される故障形態の計測を、シミュレーション計測手法として捉えて、トライされたら如何でしょうか? 
 
    少し、説明が長くなりましたが、次回からは太陽電池等価回路について説明をしていきますので、お時間があれば、お立ち寄りください。

ちょっと寄り道
 今月は、”隼人うり”の奈良漬けを作ってます。1年目に漬け替えをして、2年漬を食べるのですが、隼人うりは小振りなので、月影には重宝な奴です。漬けると同時に、一昨年の甕を開封して食べ始めます。酒粕は、Ziplock袋に入れて、タラや鮭を漬けて再利用もします。どちらも、簡単・手間いらず+酒の友にもなるので、続けているのかな~。でも、隼人うりは不作だったので、今年は半分しか漬けれないな~。。。

隼人うり







素浪人シルバーエンジニア 月影四郎と申します。幕府学問所を卒業後、仕官したお城づとめも終了し、素浪人として歩き始めました。  皆さまに楽しんでいただけたらとふと思いたち、徒然なるままにnoteデビューした次第でございます。