上級5_表題02

月影太陽光発電所 発電25日目 上級5

 素浪人エンジニア月影です。
 上級4は太陽電池モジュールの基礎となる順方向等価回路の作成方法を説明しましたが、等価回路モデルは電子回路図ですし、作成モデルの改変・COPY防止には向きません。
この対応として、モデル・パラメータ(内部回路や部品パラメータ)の暗号化ツールが、LTspiceには用意されています。
 この暗号化手法は、HELPメニューに記載されていますが、LTspice添付:XVIIx64.exe(32ビットシステム用はXVIIx86.exe)に-encrypt フラグを追加することで使用することが出来ます。
しかし、LTspiceのHELP_TOPICSに記載されている下記内容や、spicemanさんの紹介記事でも、ファイル作成や応用方法は十分理解できないと想いますので、今回は太陽電池モデルを例に、使用方法を説明してみます。

上級5_コマンドスイッチ


発電5日目の配付データをダウンロードいただくと理解し易いと想いますが、暗号化されたNetlist(XX.cirファイル)は、シミュレーションは正常に動作しますが、内部回路や素子パラメータ構成は解読ができません。
5日目の配付データは、XVIIx64.exeによる暗号化データですので、
 a)必要な全シミュレーション・ファイルをZIP形式にて圧縮配付可能
 b) ユーザーはDownload後に、同一フォルダ内に、シミュレーション回
   路、配付シンボル図や暗号化階層化回路図を解凍・展開するだけで良
   く、ユーザーはLTspiceのライブラリ編集が不要
な配付方法になっています。
 また、Netlistのコメント欄には著作権を記入してあり、コメント欄を含めて暗号化されてますし、暗号化データ部をファイルコンペアすることで無許可配付データの検出にも有効な配付手法になります。

 今回は、太陽電池モジュールを例に、シミュレーション・モデルの階層化と、XVIIx64.exeの利用方法を簡単に紹介しますので、ご参考になれば幸いです。

・概要:モデル回路の暗号化によるCOPY防止
 暗号化と聞くと大げさに感じますが、LTspiceの添付ICモデルは、入出力端子付き外形図(シンボル図)はありますが、その内部回路図はバイナリーファイル配付であり読解することはできません。(一部の、lib形式ファイルだけは読めますので、モデル記述時の参考にすることは出来ます。)
 このICモデル配付例のように、LTspiceでは入出力ピンをつけた部品外形図(シンボル図)を作成し、この入出力ピンに対応した内部電子回路を階層化(sub-circuit化)して作成することが出来ます。
さらに、この内部電子回路はNetlist出力(テキスト文)が出来ますので、このNetlistファィルをコマンドツール:XVIIx64.exeにて、暗号化する手法が提供されています。
 ただ、XVIIx64.exeだけは、LTspiceXVIIメニューからは実行できず、下記のフォルダに添付されている実行ファイルを、コマンド・プロンプトから実行する必要があります。

上級5_暗号化ツール位置


 では、具体的な暗号化手順を、太陽電池モジュールの順方向等価回路形式を例に紹介してみます。
1.太陽電池モジュール外形図(シンボル図)と入出力ピンを作成
 LTspiceのFILEメニューから、New Symbolを選択することで、シンボル作成
 画面になりますので、太陽電池モジュールの外形シンボル図を作成し、Pin
 は2本を配置します。作成後は、モデル名をつけて保存します。
  下記例は,TEST_SAMPLE.asyの作成例になります。

上級5_モジュール外形図

 2.シンボル図Pinに対応した内部回路を作成
   
上記のシンボル図に対応したモジュール内部回路図を、LTspiceのFILE
   メニューから、New Schematicを開いて、同一型名のxxxx.ascファイル
        を作成します。
  この内部回路図では、外形シンボル図の端子PIN1(Name:TOP)、
  PIN2(Name:BOT)と同Nameの入出力端子を備える事で、外形図と
  内部回路図を接続することができます。

上級5_階層化等価回路図


3.内部回路図をネットリスト表現化
  上記1,2の手順にて、回路の階層化が準備できましたが、内部回路図
 を直接に暗号化することはできません。上記2で作成した回路図を、結線
 図情報(xxxx.cirファイル:テキスト文であり、Netlistと呼びます)に変換
 した後に、このテキストファイルを暗号化します。
  回路図をNetlist化するツールは、内部回路図を開いた状態で、下記の手
 順で読むことができます。

上級5_回路図のネットリスト化ツール

下記のように,Netlist表示が出ますので、****.cirファイルとして保存します。

画像13

 変換したネットリスト上では、使用ダイオード・モデルはstandard.dio
から呼び出していることがわかります。
 このネットリストのままだと、使用ダイオード・モデルはstandard.dioファイルに追記する必要があるので、.model D D 部に、使用素子モデルを直接記述することで、standard.dioへの新規素子登録を不要にします。
素子モデルの記載方法は、LTSPICEの配付ICモデルを参考にすることができますので、下記に紹介します。
下記例では、モデル記述や、著作権記載も参考になると想います。
(*印から始まるコメント欄での、著作権者:Analog Devices, Inc.部を、
  配付モデルの著作権者名にして記載することで良いと想います。
  著作権記号 © が使用されてますね。。)
上級5_一部の添付ICライブラリー内容

 cirファイルはLTspiceから開いて、編集できますので、下記のように編集します。
上記の太陽電池モジュール・モデルは、下記のような記述になります。
(モデルパラメータを、+記号を用いて追記した例で示します。)

上級5_暗号化前のCIR記載例

4.Netlistの暗号化
 ****.cirファイルが完成すれば、LTspiceのインストール・フォルダにある
コマンド・ツール:XVIIX64.exeを用い、Netlist(XXXX.cirファイル)を暗号化します。
(注意:暗号化対象とする(XXXX.cirファイル)は、本ソフトにて暗号変換後、消去・上書きされてしまう為、テキスト・ファイルの原文保管は別フォルダ保管が必要です。)

上級5_暗号化ツール位置

Windowsシステムツールからコマンドプロンプトを開き、LTspiceフォルダーに移動し、xx.cirファイルをフルパス付で指定します。
  XVIIx64.exe -encrypt "PATH付きファイル名"

上級5_コマンドプロンプト記載方法

暗号化には数分かかる場合がありますが、**.cirファイルは以下のように注記が付加された状態で、暗号化されます。
コメント欄も暗号化の対象になっていることがわかります。
このことから、ファイル改変や無断コピーのチェックは、下記の*Begin以下の暗号化部分が、ファイルコンペア時の検証対象になります。

上級5_暗号化CIR例


5.シミュレーション実行回路図への記載方法
 暗号化した等価回路シンボルを用いたシミュレーション実行回路図を作成し、下記のように.include文を記載し、cirファイルを指定することで、シミュレーションが可能になります。
(注.MEASUREコマンドもVoc計測が出来るように修正しました。)

上級5_include文指定


・まとめ
 太陽電池モジュールの順方向等価回路モデルの作成とファイル配付手法例を簡単に説明してみました。各種シミュレーション・モデルへの配付応用例として、参考になれば幸いです。
 SPICEは古典的な集積回路用CAE環境ですが、電子回路の学習に便利なツールです。また、計測器と組み合わせる事でPCによるシミュレーション計測を提案してきましたが、太陽光発電のメンテナンスでは世界中のモジュールを使用せざるを得なくなると想いますので、便利な簡単ツールとして使用してみて下さい。
 次回からは、各社の太陽電池モジュールの特徴やシミュレーション・モデルを紹介していきますので、お時間のある時にお立ち寄りください。

・ちょっと寄り道
寒くなってきたので、今晩は鍋! 
そこで今日は、1年前の奈良漬けの出来栄えを、晩酌の友に蔵出し、
蔵出し... 先輩素浪人から隼人うりを頂戴して以降、大きさがご飯の友や
酒の友に、ちょうど良くて、奈良漬け:隼人うり がお気に入りに。
JAでは、隼人うりは:40円/個程度で見かけるので、酒粕が高価なの
が難点かな~。 漬け終った酒粕は西京漬けに流用するけど、余るし!

画像13


素浪人シルバーエンジニア 月影四郎と申します。幕府学問所を卒業後、仕官したお城づとめも終了し、素浪人として歩き始めました。  皆さまに楽しんでいただけたらとふと思いたち、徒然なるままにnoteデビューした次第でございます。