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月影太陽光発電所 発電18日目 中級5

 素浪人エンジニア月影です。
今回は、太陽光発電アレイ点検でのバイパスダイオード・テスタ(日置電機社製FT4310型)を使用したバイパス回路検査のシミュレーション解説#2になります。逆方向特性を付加した太陽電池セルモデルの応用例になります。
  太陽光発電システムの保守・点検では、屋外で変動する日射条件の発電状態にて診断を実施しなければなりません。日射量変動下において、故障有無や発電性能の点検確度が保証される必要がある訳です。太陽電池モジュールを等価回路で設計し、シミュレーション計測的に用いる手法は、日射量、温度、アレイ構成条件への対応や、故障診断ツールに応用が可能ですので、保守・点検には有効だと想います。
 LTspiceを用いた太陽電池アレイ故障シミュレーションやシミュレーション計測の参考になれば幸いです。

・太陽電池アレイのバイパス回路点検シミュレーション
 太陽電池アレイは、バイパスダイオード(BPD)開放故障が発熱・発火の要注意点ですので、FT4310機の開放故障測定をシミュレーション計測で検討してみます。
 (点検の必要性は、中級3中級4内容を参照ください。)
なおFT4310機テスタは説明書に、『降伏電圧が100V以下のクラスタは正しく判定することができません』と記載しています。モジュール仕様書類にはクラスタ降伏電圧の記載も無く、日置電機社のクラスタ降伏電圧の規格引用先も不明なので、JISC8990記載の逆方向特性仕様から、2仕様のセル等価回路を用いたシミュレーション計測をしてみました。

・検討する太陽電池アレイモデル
 本テスタは、太陽電池アレイに逆方向パルス(5msec以下:直流100V以下)を2回印加し、バイパス回路の抵抗値(Rbpr判定値:0~15Ω範囲)を測定します。このため、BPDが開放故障している場合は、クラスタセル間に逆電圧が印加されます。下図例ではD1:18枚セル、D2:9枚セルのクラスタ部に逆電圧パルスが印加されます。
バイパス・クラスタ部のセル枚数が異なるモジュールを使用し、セル特性に逆方向特性が異なる2種類用意(JIC8990での電圧制限型と電流制限型)することで、クラスタ・セル数と逆方向特性差を同一構成で検討しています。

 検討モジュールは、初級4で使用したシャープ製モジュール:NU-65K5H型になります。上図は、BPD正常時のパルス電流:加算分の電流を示しています。クラスタ・セル部には逆電圧印加も小さく、短絡電流値に加算した加算電流はセルに流れずに、BPD側に100%流れていきます。

・逆方向特性を付加した太陽電池セル等価回路
 
太陽電池セルの一般の等価回路モデルは逆方向特性が考慮されていない為、初級3の考え方を用い、下図のタイプA型(電圧制限型)・B型(電流制限型)の逆方向特性セル・モデルを差異検証用に作成しました。(順方向特性は、NU-65K5Hの出力特性を発生するように等価回路定数を決定)
なお、シャープ社の主要製品はPERCセル化していますので、最新プロセスでのタイプA:電圧制限型セルに該当すると想います。タイプB:電流制限型セルは、過去のセル製造プロセス品として考えるのが妥当です。

・太陽電池アレイのBPD開放故障シミュレーション分析方法と結果
 1)BPD開放故障時のテスタRbpr値測定検証
 シャープ社製モジュール:NU65K5H:8直列を、バイパスダイオード・テスタでのBPD開放故障検査する際の、D1部開放故障でのパルス電流経路例を下図に示します。
 D1開放故障時は18枚セルにパルス電圧が印加され、セル逆方向特性に応じたパルス電流が流れます。(電流制限は、Isc+1A以下に設定)
シミュレーションでは、コンデンサ放電電圧に対する逆電流を計測する手法にて、タイプA/タイプBを下記視点で、Rbpr値変化で検討しました。
  ①故障個所差異(D1/D2):クラスタ枚数差の影響
  ②モジュール直列枚数影響  :アレイ構成の影響
  ③測定中の日射量変化の影響 :くもり下での測定影響

  上図は、D1が高抵抗化し、パルス電流加算分がセルの逆方向特性に従
  い流れる経路を示しています。電圧制限型ではセルの逆方向性能が良い
  ことから電流は小さくなります。この事から、テスタでは加算電流設定
  に対し、測定加算電流が80%未満を断線状態の条件にもしています。

2)Rbpr検出性能シミュレーション結果
   BPD断線部(10kΩを挿入)を、D1またはD2箇所とし、FT4310
  機の測定電圧・電流を、1回目:100V/Isc+1A、2回目:90V/Isc+0.5A
  に設定し、シミュレーション計測によるRbpr値(Ω)を求めた結果
  が下表になります。
   ①故障個所差異(D1/D2):クラスタ枚数差の影響
     セル枚数の少ないクラスタ側はRbpr値は小さくなり、電流制
     限型セルは、推定モデルでは19〜37Ωですので、開放故障検出に
     影響がでそうです。Rbpr値のコンパレータ機能は、0~15Ω
     範囲ですので、判定設定は可能にみえますが、マージンがありま
     せん。(電流制限型モデルはBPD断線していても、加算電流
     値の80%以上がセルに流れるため、断線判定をできません。
     逆方向電流の大きいモジュールや、日射変動によっては、断線を
     導通として判定する可能性が予想されます。)
     (電圧制限型セルはRbpr値が高く、加算電流判定も余裕があ
      るので、判定確度的に問題ありません。)

   ②モジュール直列枚数影響  :アレイ構成の影響
     電圧制限型セルは、抵抗値変化として影響が大きく見えますが、
     Rbpr値が大きく、正確に判定が可能なレベルです。
     電流制限型セルは、モジュール直列数の影響は見られません。

    ③測定中の日射量変化の影響 :くもり下での測定影響
      FT4310機の測定原理からは、太陽電池アレイの短絡電流測定
      時に対し、Rbpr測定中の日射量が変化してしまうと、測定
      誤差を生じます。下図のように、電流制限型セルは日射量変化
      での電圧値誤差が大きく、Rbpr値が小さくなり断線を検出
      できなくなる可能性が高くなると想います。
       しかし、同機には、日射量変化時は点滅にて知らせる、とし
      か記載がなく、日射変動の許容範囲・影響情報が開示されてい
      ません。このため、シミュレーション計測結果の確度判断はで
      きません。

        上図からは、日射量変動下では、電流制限型セルは電圧値
       が大きく変化するため、原理的に測定は困難に見えます。
       しかも、本機は日射計接続機能はなく、パルス印加中の日射
       比較は不可能ですので、Rbpr値測定確度を保証すること
       も困難です。測定前後の、Isc値変化を日射変化として、
       表示しているのだと想いますが、方法や点滅表示の判定基準
       は記載されていません。
       (原理的に、電流制限型セルは測定できないことを、『降伏電
       圧が100V以下のクラスタは正しく判定することができませ
       ん』と表現しているのかも知れません。)

       
・まとめ
   FT4310機は、電圧制限型モジュールのバイパス回路検査に有効
  ですが、電流制限型モデルは確度保証が困難なことを、シミュレーショ
  ン計測で検討したのですが、情報不足にて出来ませんでした。
   日射変動影響もシミュレーション計測では分析が容易ですので、太陽
  光発電システムの保守・点検診断に応用いただけたらと想います。

・今日のひとこと
  爺には、FT4310機は期待のテスタですが、残念な部分が残ってい
 ると想う。計測原理の明確な記述、わかり易い使用範囲を日置電機さんに
 は期待しているし、太陽電池モジュールも半導体データシートのような技
 術情報記載が必要だと想う。。。
  うーん、間違ってたら、コメントで指摘してください。。
  

 


素浪人シルバーエンジニア 月影四郎と申します。幕府学問所を卒業後、仕官したお城づとめも終了し、素浪人として歩き始めました。  皆さまに楽しんでいただけたらとふと思いたち、徒然なるままにnoteデビューした次第でございます。