中級7_表紙

月影太陽光発電所 発電20日目 中級7

 素浪人エンジニア月影です。
 中級6は太陽光発電システムの雷被害の概要でしたので、今回は、LTspiceを用い、太陽光発電システムの逆流雷での雷害経路と、太陽電池モジュールのバイパスダイオード短絡故障理由を分析していきます。なお、今回は太陽電池アレイの浮遊容量影響をシミュレーションしていますが、実証された内容ではありません。しかし、市場でのEMC問題(耐ノイズ性や耐雷性等)は、発生原因データが少なく、機器設置環境の分析情報も少ないことから、故障品調査結果から機器のサージ経路仮説を考え、実験室での再現試験による対策手法が解決策になる場合があります。大地に接地されてしまう交流機器では、雷害への回路保護対策は必須です。とくに、太陽光発電システムは広範囲の面積に設置し、各接地点間の雷電位差が雷害多発の要因になります。雷サージ保護素子メーカーには、雷害シミュレーション手法による設置設計手法記述が少ないことから、雷害対策への参考になれば幸いです。

 ・太陽光発電システムの雷保護シミュレーションは必要? 
 太陽光発電システムにおける雷保護手法を(株)昭電さんの雷害対策カタログから、SPD(Surge Protective Device:サージ保護素子)の配置と、避雷針や太陽電池アレイの接地網の考え方を参考に分析を進めていきます。

上図は、メガソーラ系の理想的な雷保護システム提案図だと想います。
避雷針にて雷保護ゾーンを形成することで直撃雷確率を低減し、太陽光発電システム設置面には導電接地網による低インピーダンス化(接地導線をメッシュ状に埋設)にてアレイ接地面のインダクタンス分(L分)と抵抗損失を低下させています。
 この手法は、大地面に逆流雷サージが流れても、システム機器間の雷サージ電圧差を低減させる基本手法ですが、敷設費用はメガソーラ規模ならば数千万円必要になります。このため、保険会社の産業用火災保険の雷害受託要件に記載がなければ、雷害対策への投資は最低限になる事が予想されます。
 システム全体を覆う避雷針網や太陽電池アレイ面の導電接地網は費用面からは困難でも、下記の視点によるSPD素子(雷サージ保護素子)の設置設計が期待されることになります。
  1.誘導雷や逆流雷への保護(屋外保護ZONE:避雷針・接地網なし)
  2.雷サージ対策が安価かつ保守が容易で、雷サージ侵入確認が可能
 とくに、数10kWの中小規模システムは山間部や建物屋上設置が多く、雷サージにて太陽電池モジュール故障が発生した場合は、全パネル交換の高額修理が懸念されます
 このことから、誘導雷や逆流雷の落雷経路を検討し、安価な雷被害低減手法としての、SPD配置シミュレーションをLTspiceにて検討することは価値があると想います。
(住宅用システムはPVアレイ設置面と各機器内蔵のサージ保護素子間の距離が近く、逆流雷サージ電位差が低いことが見込めますし、住宅用火災保険による損害保証がされてますが、産業用小規模システムは雷保証に留意が必要です。)

・太陽電池アレイの雷害シミュレーション・モデル
 太陽電池モジュールの雷害では、バイパスダイオード破損が多く、一般的な等価回路モデル(電力解析用)に大地間浮遊容量分を付加回路要素として加えたシミュレーションをしてみます。雷発生時は、雨にてガラス面上に雨水膜が形成される事や、パネル背面も風雨による雨水や結露による水導電電極としての想定をしています。セルと水膜間の浮遊容量は、絶縁材誘電率と構成寸法から下記概算をしています。
(セル1枚あたりの浮遊容量を、ネット上のモジュール構成材カタログの誘電率・厚・セル寸法にて計算できます。月影は、メンテナンス時の絶縁抵抗検査時にアレイ浮遊容量を知りたかったので、導電性電極膜を自作し、モジュール静電容量を実測しましたが、計算値と近似した事を覚えています。)

雨水や結露水の抵抗値は、水道水の体積抵抗率(5×10^3Ωcm)・水膜厚とセル-フレーム間距離で計算になりますが、セル位置により沿面距離は変化してしまいます。Sim.モデルとして、過去記事でのシャープ製屋根置き型:NU65K5Hを例として、ハーフセル当りの浮遊容量:0.8nF+水抵抗:25kΩにて、下図の太陽電池モジュールモデルでシミュレーションしています。(このモデルは住宅屋根置きなので、産業用には使用されないと想いますが...)

・LTspiceでの逆流雷サージ発生回路
 
数10kWシステムでの、PVアレイの雷サージシミュレーションとして大地面を流れる逆流雷に限定し、直撃雷サージ波形:10×350μsec波形を参考にした下記の逆流雷サージ回路を作成してみました。(誘導雷のコンビネーション波形(伝搬系)とは違って、直撃雷はコンデンサ放電の形式です。JISZ9290を参考にしましたが、直撃雷は資料が少ないです。月影は、電気機器の4流エンジニアだったので、EMC対策草創期からの誘導雷の市場対策と効果は実体験してますが、直撃雷サージ波形経緯や保護耐量実績は知りません。直撃雷サージ発生設備は高額なので、保護手法の再現試験も困難ですので、産総研さんにシミュレーション手法やサージ発生回路の公開を期待してます。)

・太陽電池アレイの逆流雷シミュレーション例
 上述の、太陽電池モジュールモデルと逆流雷サージモデルを用いて、200kAのサージ源を大地抵抗:10Ωにて、SPD保護がない15直列:太陽電池アレイへのシミュレーションをしてみました。
 結果は、PVアレイ列においてモジュール内バイパスダイオード破損は、一律に破損しない事が予想されました。PVアレイにSPD設置が無い場合は、逆流雷の電流極性によりますが、PVアレイのN極端から破損するか、もしくはP極端からバイパスダイオードが破損し、アレイ列中央モジュールは破損しないことがシミュレーション結果になります。(インダクタンス分で振動し、逆端側数枚破損がある可能性はあります。ただし、特徴は中央に位置するモジュールは大地浮遊容量原因での破損は生じないことです。)
 バイパスダイオードが整流ダイオード時代はサージ電流耐量は大きいですが、ショットキーダイオードに切り替えた事で、雷害耐量は低下したので、システムインテグレータの方には、SPD設置保護への技術知識はさらに重要になっています。
(システムインテグレータの方は、SPD位置を理解されてますので、シミュレーションは省きますが、SPDメーカ資料にはSPD配置設計の技術情報が少なすぎます。重要な配線設計技術と想いますので、SPDメーカさんには技術資料やシミュレーション環境の提供を期待したいです。)

・今日のひと言
 実務を担当されている方は、市場クレームと故障状況調査ならびに雷サージ試験機による太陽電池モジュールの実証・再現試験で月影仮説の検証が可能です。
 日本の火災保険会社は、原因分析による保険加入要件を定めないんですかね? 公的な認証組織や保険会社は、費用負担の公正性を追求する考えを持ち、あるべき姿:社会損失コストの最低化追求を論理的に実証・提言して欲しいな〜、と夢想する爺でした。
(実験計画の宣教師:田口玄一さんに、『品質とは社会損失コストの低減』と、ぼそっとした独特の口調で説教うけたのを想い出した。。外様大名の家臣だった月影は、悪貨は良貨を駆逐するんでね〜の、と想ってたけど、現在の楽市楽座グローバル商流では、説教されるべき業界はどこが妥当なんでしょうかね、お師匠さん....)
 注)表題は、諏訪の片倉館さんの楽しい千人風呂への入り口...
   風呂後は、コーヒーorフルーツ牛乳でいつも悩む爺でした。。

素浪人シルバーエンジニア 月影四郎と申します。幕府学問所を卒業後、仕官したお城づとめも終了し、素浪人として歩き始めました。  皆さまに楽しんでいただけたらとふと思いたち、徒然なるままにnoteデビューした次第でございます。