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「ライブストリーミング・ショッピング」は「タッパーウェア販売モデル」をデジタル化し得るか?

ここ一年間くらいなのだけど、小売業界の流れで一番気になっているのが「ライブストリーミング・ショッピング」の静かなる台頭だ。

ライブストリーミング・ショッピングは中国ではもうすでにビッグで、パンデミックがこれに(当然のことながら)拍車をかけたといわれる。ロックダウンで店舗の休業を強いられた個人店舗のオーナーが急遽ライブストリーミング・ショッピングに切り替え、顧客とチャットしながらお店で接客するのと同様の感覚でモノを売り、廃業を免れたという話も聞く。

ライブストリーミング・ショッピングとはその名の通り、ライブ+ストリーミング+ショッピング、つまり、売り手が商品やブランドについて売り込みのトークをするのを「ライブ」で「ストリーミング」して、それに対して同じくライブで「ショッピング」のオーダーを受け付けることができるという仕組みだ。そんなものだったら昔からあったよ、TVショッピングだって同じじゃん、という声が聞こえてきそうだが、ライブストリーミング・ショッピングにはこれに「インタラクティブ性」が加味される。

典型的なライブストリーミング・ショッピングのインターフェイスには、「チャット(視聴者がテキストで投稿するチャットだ)」のスレッドを表示するセクションがある。そこに、視聴者がコメントやら質問やらを投稿して、それが他の視聴者にも見えるようになっている。ほとんどが「すてき!」とか「かわいい!」とかいった類のものだが、なかには「私もそれを聞きたかった」というタイプの質問もある。視聴者から投稿されるチャットはもちろんライブストリーミングのホスト(売り手)にも見えるので、売り手はライブでそういったコメントやら質問やらに受け答えしていく。(もっとも彼らはテキストチャットではなく口頭でこれに答えるわけだ。)そのスピード感が面白くて、見始めるとなんとなくずうっと見てしまう。かつてのTVショッピングもなかなかのものだったが、ライブストリーミング・ショッピングはそれよりさらに格段とエンターテイメント性が高い。

(ただし、多くの(僕が見る限りほとんどの)ライブストリーミング・ショッピングのインターフェイスには、フェイスブックの「いいね」の感覚でハートマークを押すと画面の下から上に向けてハートが舞うという機能があるのだが、女性のアパレルやコスメ関係のライブストリーミング・ショッピングだとこれがひっきりなしに出てくるのでかなりウザい。)

アメリカでもライブストリーミング・ショッピングがそろそろと始まっていて、アマゾンなどはサイト内に「ライブストリーミング・ショッピング・チャネル」を設けて試験的な展開を行っている。また、ウォルマートもつい最近、Tiktokとタッグを組んで初のライブストリーミング・ショッピング・イベントを開催したばかりだ。

ニッチなところだと、ロサンゼルス(サンタモニカ)に本社を置くコスメのマイクロブランド、「ビューティ・カウンター」が、新しくオープンした旗艦店の店内にライブストリーミング・スタジオを設け、ライブストリーミング・ショッピング・イベントの配信を始めている。

そうこうしているうちに、スウェーデンを本拠とするフィンテック企業、クラルナが来月、コスモポリタン・マガジンと組んでライブストリーミング・イベントを開催するという。クラルナは、クレジット支払いに代わり、利子がつかない月賦払いの仕組みをネット通販会社(そして生活者)に提供することで話題を集めている会社だ。というのも、近年まで「月賦」の仕組みはアメリカではあまり見られないものだった。しかし最近では、クラリナをはじめとする新手のフィンテック企業(や、同様のサービスを開始したクレジットカード会社)のおかげで、多くのネット通販サイトで「4か月払い」「6か月払い」のようなオプションが普通にみられるようになっている。

クラリナは昨年の8月にも「バーチャル・ショッピング・イベント」を開催したが、それはライブストリーミングではなかったらしく、いわば今後展開していくライブストリーミング・イベントの「様子見」だったといえるだろう。8月のショッピング・イベントが開催された週末には、通常に比べて3倍のトラフィック(ビジター数)があったという。

クラリナはアメリカで20万社を超えるリテーラーと提携している(つまり、そのリテーラーのサイトで「月賦支払い」のシステムを提供しているということだ)が、3月1日から48時間にわたり開催されるライブストリーミング・イベントではメイシーズ、アディダス、サックス・オフ・フィフス(サックス・フィフスのアウトレット)、ブルーマーキュリー(コスメ)などが参加するという。

ライブストリーミング・ショッピングについては、TVショッピング・チャネルの老舗であるQVCも負けてはいない。2021年1月、QVCはユーチューブのプラットフォーム上でライブストリーミング・チャネルの展開を開始し、はやくも300万人を超える登録者を集めている。

アメリカでは、「タッパーウェア」販売モデルといえば、エイボンやアムウェイなどで知られる個人の販売員を介したチャネルを主流とする販売モデルで、1950年代から存在した。アメリカの主婦は、自宅で「タッパーウェア・パーティ」を開き、集まってくれた近所の人や友人にタッパーウェアを販売することでお小遣いを得たものだ。ライブストリーミング・ショッピングは、「タッパーウェア・モデル」をデジタル時代にアップデートし、さらにパワフルなものにする仕掛けではないかと期待している。アメリカのテクノロジー・サプライ流通大手、CDWの創設者であるマイケル・クラズ二ー氏はかつて、「人は人から買うもの(人は人とビジネスをするもの)」といったが、ライブストリーミング・ショッピングは、オーソドックスな意味での「ネット通販(Eコマース・サイト上に商品が並んでいるだけ)」が欠いている「人のあたたかみ」や「パーソナリティ」や「即時的なインタラクティブ性」を加味して、ネット通販をさらにパワーアップする起爆剤になりうるのではないだろうか。

(注:同じようなことは、「ライブ」ではないが、ユーチューブなどのプラットフォーム上でコスメやファッション、ラグジュアリー・アイテムを紹介するマイクロ・インフルエンサーたちがすでに実装しているともいえる。)

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