『よつばと!』の好きな回3選

2003年から連載が開始され、現在に至るまで幅広い年代の人に愛されながらも連載が続けられてきた『よつばと!』。今回は個人的に好きな回を3つ紹介します。

第68話「よつばとうそ」(8巻収録)

綾瀬家の三姉妹の長女、あさぎからバランスボールを借りたよつば。家に持ち帰りバランスボールを廊下でバウンドさせて遊んでいると、キッチンの食器を割ってしまい…という話。

まずはタイトル通り、嘘をついているよつばの描写がリアル。明らかに小さい窓なのに「そこからボールが飛んできた」と言ってみたり、長い帽子を被った手品師が投げてきた、と言ってみたり…必死に誤魔化そうとするもののバレバレな嘘しかつけないのは5歳児の限界といったところか。

「うそつきむしがよつばのなかにはいってきてかってにうそをついた」と言うよつばに対して、行き先も教えずよつばを連れ出す無表情なとーちゃん。子供から見るとこういう時の大人が一番おそろしかったりするものです。

最終的によつばが連れてこられたのは神社の目の前。阿吽形の仁王像が鎮座しており案の定大泣きしてしまいます。とーちゃんは、仁王さんに嘘つき虫を退治してもらう、と柵の中によつばを突っ込みますが、よつばの号泣は最高潮。泣きじゃくるあまり、『たべられる』や『いただかれる』など若干支離滅裂なことを言い始めるよつば。どんだけやねん。

一通り泣き終わって家に帰るよつばととーちゃんの会話がまたいい。とーちゃんの『失敗するのがよつばの仕事だ』というセリフ、個人的には親になったら言ってみたい言葉ナンバーワンです。家に帰り着くと、とーちゃんも一緒にバランスボールで遊び始めます。こんな親に、私もなりたい。

第18話 「よつばとお盆」(3巻収録)

前の回でジャンボの実家の花屋を訪れ大量の切り花をもらったよつばだったが、家での置き場所に困ったとーちゃんはよつばに花を配らせて周ることを思いつく…という話。

まずよつばが扮する「はなキューピット」がかわいい。ワンピースにバンダナ、天使の羽までつけて街を駆けるよつばはまさに「キューピット」という出で立ちだ。『花キューピットってこれだっけ』とか言ってはいけない。街へ出たよつばは道中婦警さんやティッシュ配りの青年に会いますが、そこでもよつばの本領発揮。子どもらしい無邪気な会話に乗せられ、花を手渡されて元気をもらう登場人物たち。見ているこちらまでほっこりしてくる。

終盤、公園にいた老夫婦に出会い、『死んだ人が帰ってくる』お盆を思い出すよつば。あろうことかおばあちゃんに『ばあちゃんはまだ生きてるの?』と聞いてしまいます。最初は呆気に取られるおばあちゃんだが、出来心で、おじいちゃんは天国から来たのよ、とよつばをおちょくり始める。この距離感が「よつばと!」なのです。

極め付けに、次の話との間に挟まる幕間のページをめくると、家に帰ってきたよつばが昼食を完食して一言、「てんごく」。日本的な死生観まで感じ取ってしまえるこの着地が秀逸。

第97話 「よつばとランチ」(第14巻収録)

とーちゃんの妹である小春子からオープンカーを譲ってもらいに東京に遊びにきていたよつば。初めこそ自動改札に失敗してしまったり都会の人の多さに面食らうよつばですが、原宿でクレープや綿あめを食べ、代々木公園で走り回るなど、東京でもいつも通りの天真爛漫さを見せます。

小春子と合流した後は、丸の内に移動してホテルのレストランでビュッフェ形式のランチを食べます。いつの間にか奢らされることになったとーちゃんの困惑をよそに、見慣れない形式の食事に興味津々のよつば。とーちゃんと一緒に自分なりの「せいしきなごはん」を楽しみます。一方小春子は『おいしそうなものからいく。限られた胃袋を有効に使う。』と言い残して肉から食べ始める。日常から少しだけ外れたとこにある非日常の幸せが端的に示され、共感を呼ぶ名台詞です。

ランチを食べ終わると、小春子と解散して帰路につく二人。この後のセリフのない見開き2ページが最高。東京の近郊で育った人にはわかると思うんですけど、都会に来た時の感覚は小さい時と大きくなってからだと随分違うような気がしていて、自分は普段の生活とはかけ離れた煌びやかさや無機質な街の寂しさをより鮮やかに感じた記憶があります。この2ページからその景色が思い出されて懐かしい気持ちになりました

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