私がネイサンを好きな理由と日本フィギュアスケート史の関係性

日本に住んでいる一般的な日本人がテレビしかない時代からネットを駆使して過去映像、有識者の解説ブログなどを経て日本のフィギュアスケート史からネイサン・チェンにたどり着くまでのストーリー。

フィギュアスケートという競技を初めて意識したのは伊藤みどりだ。臆せずに書けば優美さが良しとされていた当時の女子フィギュアスケート界にジャンプで真っ向勝負を挑んだレジェンドである。

その後も日本人選手の情報がポツポツと入るような脆弱な環境の中 ヤグプル時代に4Tを装備した本田武史は五輪で4位に入賞した。本田武史は人間界では1位で侍だと思う。ゲーブルも宇宙人枠だと私は認識しているからだ。

トリノ五輪シーズン浅田真央が3Aでスルスカヤを破ったGPFは衝撃的だった。五輪出場条件を満たさない真央がジャンプで五輪女王候補に勝ってしまった。『勝っちゃった』という表現が正しいと思う。

トリノオリンピックは一睡もせず荒川静香の金メダル獲得を早朝にテレビにかじりついて観た。ジャンプの見分け方も知らなかったけど非常に美しかった。今思えば美しい滑りとクリーンなジャンプが共存する五輪金に相応しい演技をする選手だ。

安藤美姫の登場は浅田真央より以前だ。3Lzと3Fをきっちり飛びわけセカンド3Loまで操り回転不足とは無縁の安藤美姫はジャンプの国ジャパンで育ったクリーンジャンパーだ。世界選手権を2度制することになる。浅田真央の成績については言わずもがなだろう。

フィギュアスケートといったら女子の時代が長かった日本において高橋大輔という才能が花開く。なんだかとってもダンサブル。少し遅れて鈴木明子が競技に復帰する。こちらもとってもダンサブルで素敵。私のフィギュアスケートの素敵の基準がここになる素晴らしき異常事態。

高橋大輔に続き織田信成が世界に出て日本に3枠目をもたらす頃、スケート一家の小塚崇彦が日本フィギュアスケート界に降臨する。何その滑り。何そのイーグル。何そのノーブルな滑り。ツルスケに殴られた頃だ。小塚崇彦が顕著だが荒川静香も中後期の浅田真央も滑りそのものが美しい。

これで私の中にフィギュアスケートとはこういうものだという基礎が揃ったのだろう。クリーンなジャンプ、美しい滑りプログラムを表現するスケーティング、ダンスを表現できる技術。もちろんすべてを武器にして戦える選手は厳密にはいなかった。だがダンサブルではないがツルスケ+他全部乗せプレートのようなパトリック・チャンが世界王者を3度制する。

スピンの重要性は羽生結弦が教えてくれた。国内のアイドル高橋大輔や世界王者のパトリック・チャンに挑んでいく勇者気質を持った羽生結弦はジャンプの国ジャパンの選手らしく4Tより技術点の高い4Sを習得する。ミエの切り方が案外高橋大輔に似ているのも面白いところだ。

ソチ五輪と平昌五輪世界選手権を2度制した羽生結弦はクリーンなジャンプ、極上スピン、てんこ盛りな繋ぎ、圧倒的な存在感、強い精神力が武器だ。単純に強いっていいなと思わせる稀有な日本人の登場だった。スピンステップのレベルもオールレベル4。新全部乗せオールラウンダーの登場だった。

長らく『大ちゃんには勝てないな…』と思っていたかどうか知らないが高橋大輔風味の日本男子が多かった。そこに現れた全然タイプの違う羽生結弦。ソチ五輪シーズンにはもう一人町田樹が独自の色を帯び始めた。

町田樹はクリーンな4回転をもプログラムの1つにしバレエ的な姿勢やつま先まで行き届いた所作の良さでソチ五輪入賞を果たし世界選手権では羽生結弦に続き銀メダルを獲得する。気づくのが遅かったがタラソワに師事した浅田真央もバレエの要素が増えていた。

『みんなパトリックに勝ちたかったんですよ』これは羽生結弦の言葉だ。そのためには高難度ジャンプが必要だった。私はパトリックと同国のケビン・レイノルズも好きだった。何?!今のは4Lo?!誰もやったことがないことに挑戦するケビンは伊藤みどりを彷彿とさせた。

けれどケビンのジャンプは回転不足が多かった。ジャンプの国ジャパンの選手宇野昌磨が4Fを回転不足なくを装備してきた頃、回転不足のない4Fや4Lzを飛ぶネイサン・チェンの存在に本当の意味で気がついた。高い技術点。平昌五輪はうまくいかなかったが苦手だった3Aも手中に収めた。

高橋大輔と町田樹を足して掛け合わせたようなバレエの基礎のあるダンサブルな滑り。クロスだけで魅せるのはパトリックや小塚の方が上手いと思うがネイサンの滑りも音楽と遊ぶように美しい。スピンステップオールレベル4。

イエール大学仕込みなのかクレバーな強いメンタル。他者へのリスペクト。イケボイス。使用曲、振り付けも良し。心配なのはもう衣装だけ。あれ?浅田真央もそんなこと言われてましたっけ。

日本フィギュアスケート史をスマートに詰め込んだらクレバーで強いネイサン・チェンが出来上がったそんな感じだ。世界選手権2連覇。伝説はまだ始まったばかり。日本もただ手をこまねいてはいないだろう。いい時代だ。楽しませていただこうじゃないか。

#フィギュアスケート #ネイサンチェン


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