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心が少しずつ消えはじめる

母が亡くなった時、私は結婚していて、娘もいたのだが、
状況は複雑だった。
娘は海外の高校へ留学していたが、大学受験のため、日本に一時帰国していた。
夫は娘が海外の高校へ行っている間に家に帰ってこなくなり、
事実上、私とは別居生活をしていた。
(のちに会社の近くのマンションに住んでいることが判明する)
母が亡くなる前の私は楽天主義だったのと、もともと夫と不仲だったのもあり、夫が帰ってこないなら、こないで、娘も留学していることだし、独身気分を満喫して、好きなようにやろうと、仕事も遊びもいろんなことにチャレンジし、充実した日々を送っていた。
今思えば、「私には実家があるから、いざとなればいつでも帰れるから」
という甘えた気持ちがあったのだと思う。
そんな根拠のない安心感があったので、
夫が帰って来ない原因を詮索する意欲も特にわいてこなかった。
実家には母と妹が住んでいたのだが、
妹はもうすぐ50というのもあり、まさかこのあと突然結婚するとは
母も私も想定していなかったのだ。

話を整理すると、母が亡くなった時、
母:実家で一人ぐらし
私と夫とは別居状態(たまに帰ってきたり家族三人で出かけたりはする)
私の娘:一時帰国中
私の妹:最近結婚し、実家を出て、妹の夫のマンションで生活、の状況だったのだ。

母が亡くなって、葬儀をするにあたり、
夫にも連絡したのだが、
「沖縄に旅行に行く約束をしているので行けない」という返事だった。
説明するのが難しいのだが、
私の夫はとてつもなく変わった人なので、
そういうことも言いかねないな、と思っていたので、
そんなに驚きはなかった。
不仲というのもあり、
母が亡くなった悲しみで、泣きながら夫の胸に飛び込むというようなシーンはまったく思い描いていなかった。
とは言え、実際、親戚も集まる葬儀の席に私の夫が出席しない、というのは
ふつうの感覚からしたら、多分ありえないことだし、親戚にどう説明したらいいか、と悩むのが一般的だろう。
正直、娘が一緒にいてくれるし、私自身は大丈夫ではあったのだが、
母が亡くなったことだけでも充分心配をかけているのに
さらに夫が葬儀に来ないということで、親戚にさらに同情されて申し訳ない等、変な気を遣ってしまい、頭が混乱していた。
幸い、私の親戚はみんないい人ばかりなので、
夫が葬儀に来ない理由を嘘をついてとりつくろったりする必要はまったくなかったので、
「夫は前から決まっていた旅行があるため、来れません」とそのまま伝えた。で、親戚にこれ以上気を遣わせて、申し訳ない、という気持ちから
「こんな夫婦ですみません」と自嘲的に従姉妹に話したところ、
「こんな時に私たちにまで気を遣わないで」と言ってくれた。
今、正常な精神状態に戻ってからこのセリフを読むと泣けてくるのだが、
あの時、もうすでに私は壊れかけていたのだと思う。
何も感じなくなり始めていた。

自分の感情に蓋をしていた、またはされていたのだと思う。

また、特筆すべきことは
義理の姉がとても優しかったことだ。
「うちの弟が本当にごめんなさい」と、言って、夫の代わりに
お義姉さんご夫婦が、葬儀に出席してくれたのだ。
正直、あの時の私の気持ちを一番理解していたのは義姉だと思う。
葬儀における私の状況を瞬時に把握してくれていたし、
私の夫のどこがどのように変なのか、を理解してくれるのは
やはり夫の身内しかいないのだ。
私と血は繋がっていないとはいえ、そんな存在の義姉がいることは
本当に恵まれているといえる。

そんなわけで、喪主は長女である私なのだが、その横には本来、私の夫が並ぶべきなのだが、いないので、順番通りに行ったら私→妹→妹の夫→私の娘の並び順になってしまうらしいのだが、
娘と離れるのが絶対に嫌だったので、私→娘→妹→妹の夫の順で並んだ。
正直、一番、嫌だったのは
最近、初めて会ったような妹の夫が親戚の前で母のことをあたかも何でも知っているかのように饒舌にしゃべりまくることだった。

実家に住むこととか、私になんの相談もなく決めたのに、
実家をこうしたいだの、〇〇(母)さんをもっと色んなとこに連れて行ってあげたかった、等ペラペラしゃべりまくるのだ。
実際、妹が妹の夫と結婚してしばらくマンションに住んでいた時、
母は私に「なぜ〇〇(妹)は私や〇〇(私)をマンションに呼んでくれないのかしら?」と嘆いていた。
妹になぜか聞いたところ、ゴミ屋敷だから呼べないとのことだった。

「母が行きたがってたのはアンタのゴミ屋敷のマンションだったんだよ!」

と突っ込みを入れたかったし、
最期の一か月、母を実家で看取ることになり私と妹で訪問看護に頼りながら
介護をしていた時、いつもピンポンもならさずに勝手に玄関から無言で入ってきて、いくら余命いくばくもないとは言え、母は女性だ。
オムツを変えたり、身体を拭いたりしていることもある。

「アンタが勝手にズカズカ入ってこられるのが本当に嫌だった!!」

…と、親戚の前で叫びたかった。
でも誰が信じる?

「そういうあなたの旦那さんは来てませんよね?」

ってなるよね。

鬱って、怒りたいのに怒れないとなるらしいよね。

そりゃおかしくなるよね。
泣けなくもなるよね。

だが、試練はまだ続くのであった。




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