これまでに2枚リリースされているSuperflyのベスト・アルバム。どちらを聴くべきなのか?
越智志帆(おちしほ)がボーカルを務める音楽ユニット、Superfly(スーパーフライ)。
彼女にとって約4年半ぶりとなる全国ツアー「Superfly Arena Tour 2024 "Heat Wave"」が、3月21日(木)のさいたまスーパーアリーナでのツアーファイナル公演にて無事千秋楽を迎えました。
私自身も実際に会場に足を運んで彼女の素晴らしいパフォーマンスを目の当たりにすることが出来たのですが、意外だったのは、会場の中には、初めてSuperflyのライヴを見たという観客が思いのほか多かったことです。(志帆さんがMCの途中で観客に質問を投げかける中で判明しました)
そこで、本日のnote記事では、
彼女の音楽にまだそれほど触れたことのないSuperfly初心者の方々向けに、Superflyがこれまでにリリースした2枚のベスト・アルバムのうち、どちらのアルバムを聴いたら良いのか?
について書いていきたいと思います。
Superflyがこれまでにリリースした2枚のベスト・アルバム
Superflyが、これまでにリリースしてきたベスト・アルバムは2枚あります。
①Superfly BEST(2013年発売)
2013年に発売されたSuperflyにとって初のベスト・アルバム。
それまでに発売された全シングルとトータス松本とのコラボレーション・シングル「STARS」及び映像作品「Shout In The Rainbow!!」の初回生産限定盤付属のCDにのみ収録されていた「さすらいの旅人」の計26曲に加え、当時の新曲3曲(「Bi-Li-Li Emotion」、「Always」、「Starting Over」)が収録されており、収録曲はすべてこのアルバムのためにリマスタリングされています。
②Superfly 10th Anniversary Greatest Hits “LOVE, PEACE & FIRE”(2017年発売)
デビュー10周年記念日にあたる4月4日に発売されたオールタイム・ベスト。
ファンによるリクエスト投票を基に上位39曲を3枚ごとのディスク(「LOVE」、「PEACE」、「FIRE」)に各々13曲づつ、全曲が2017年最新デジタル・リマスタリング音源にて収録されています。
上記2枚のベスト・アルバムは、リリースの時期がわずか4年しか空いておらず、収録曲もかなり重複しています。一見、どちらを選んで聴いても大差がないように思われますが、実は、大きな違いが存在します。
それは、デジタル・リマスタリングされた音源の音質になります。
リマスタリングにあたってのスタンスが異なる、2枚のベスト・アルバム
上記2枚のベスト・アルバムは、いずれもリリース時に当時の最新リマスタリングが実施されていますが、そのリマスタリングのアプローチは180度異なるものになります。
まず、2013年発売の「Superfly BEST」でのリマスタリングのアプローチは、一言で言うと「迫力のある音の追求」になります。
この手法は、デジタル・コンプレッサーにより人工的に音圧を上げることで、ダイナミック・レンジを犠牲にする代わりに見かけ上のグルーヴ感(音の迫力)を作り出す手法になります。
代表的なケースでは2007年発売のレッド・ツェッペリンのベスト・アルバム「Mothership」、または2009年のユニバーサル・ミュージックによるローリング・ストーンズの一連の(=過去アイテムの)リマスター作品が該当します。
この手法によってリマスタリングを行った音源には、音質的に次の二つの特徴が見られます。
一つは、スマートフォンやイヤホン・ヘッドフォン、もしくはラジオ等で聴いた音にインパクト(迫力)が加わる、という点です。
一方でデメリットもあります。二つ目の特徴は、この迫力と引き換えに、ダイナミック・レンジが失われて、音が平板でフラットになってしまうことです。
このリマスタリングの手法は、2000年に発売されたビートルズのベスト・アルバム「1」において初めて採用されたことでまたたく間に世界的に流行し、音圧を競うリマスターが音楽業界を席巻する、いわゆる「ラウドネス・ウォー(音圧戦争)」と呼ばれる時代が暫く続きました。
2003年のライノ(RHINO)によるプログレッシブ・ロックバンドのイエスの一連のアルバムなど、主として2000年代に再発売された作品の多く(前述の「Mothership」を含む)が、この手法によってリマスターされていったのです。
そして、皮肉なことに、この「ラウドネス・ウォー」の時代に終止符を打ったのも、ビートルズでした。
ビートルズ は、以外なことに、主要なロック・バンドの中で、最もリマスターが遅れていたグループの一つでした。
ローリング・ストーンズやレッド・ツェッペリン、ピンク・フロイドなど、名だたるライバル・グループがいずれも1994年に既存のカタログのリマスターに着手したのに対し、1987年の最初のCDリリース(非リマスター盤)から、頑なにリマスターを行わずに時が経過していきました。
そのような状況の中、ビートルズが満を持して旧譜のリマスター作品をリリースしたのが、2009年だったのです。(最初のCDリリースから、実に22年を経過していました)
ビートルズは、この、自身初のリマスターの際に、音楽業界全体に対して、(事実上)強いメッセージを発信しました。
それは、
リマスタリングにおける「ラウドネス・ウォー(音圧戦争)」を終わらせる
と言う強烈なメッセージです。
事実、このビートルズの2009年のリマスターの音質は、過度なデジタル・コンプレッサーの使用を抑制することにより、音圧(音の迫力)を追求することを止める代わりに、豊かなダイナミック・レンジと音像空間を確保し、アナログ・レコードのようなナチュラルなエコー感とグルーヴ感(音楽の持つエネルギー)を両立させたものでした。
そして、このビートルズの2009年リマスターを境に、音圧を優先した、いわゆる「ラウドネス・ウォー」的なアプローチはなりを潜め、ナチュラルで耳に優しいアナログ・ライクなリマスタリングが音楽業界での主流になっていったのです。
ここまで、Superflyのベスト・アルバムを考察するうえで、一見全く無関係に思えるビートルズをはじめとするこれまでの世界的なリマスタリングの潮流について言及してきたのには、理由があります。
それは、これまでSuperflyがリリースした2枚のベスト・アルバムのリマスタリングの手法が、対照的に、上記で言及した2つの潮流
①「ラウドネス・ウォー」的なアプローチによるリマスター
②「アナログ・ライクでフラット」なリマスター)
のそれぞれに該当しているからです。
2枚のベスト・アルバム間の音質の比較は後ほど行いますが、「Superfly BEST」(2013年発売)が、前者で、「Superfly 10th Anniversary Greatest Hits “LOVE, PEACE & FIRE”」(2017年発売)が後者になります。
それでは、ここからは、それぞれのベスト・アルバムから、彼女の代表曲であり、2023年のNHK紅白歌合戦でも披露された「タマシイレボリューション」を実際に聴き比べて、そのリマスターの音質を比較・検証してみましょう。
代表曲「タマシイレボリューション」を2枚のベスト・アルバムで聴き比べしてみた結果は?
まずはじめに、「Superfly BEST」に収録の音源を聴いた感想ですが、低音(ベース音)が強調された、迫力のある音が特徴となっています。
ドラムス、ベースの音量が大きく、ボーカルも前に迫ってくるような迫力があり、音的にはかなりインパクトがあります。(ラジオやスマートフォンで聴いた時に、迫力のある音だと認識できる音、と言えるでしょう)
ただ、この音源にはその迫力と引き換えに失ってしまったものがあります。
それは、楽器とヴォーカルの間に存在する音像空間です。
この「Superfly BEST」に収録の「タマシイレボリューション」は、残念ながら、楽器と楽器、楽器とヴォーカルの間の空間(奥行き)が全く感じられません。
言うなれば、全ての音(あらゆる楽器とヴォーカル)が、私たちの耳に最も近い音の壁の全面に張り付いて、平板な音のかたまりとして聴こえてしまっているのです。
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