デヴィッド・ボウイ『ジギー・スターダスト』をアナログ・レコードのオリジナル盤で聴く
・【前編】デヴィッド・ボウイ『ジギー・スターダスト』のリマスターCDを聴いて感じた違和感とは?
デヴィッド・ボウイの『ジギー・スターダスト』のアナログ・レコードを探すと決めたものの、その道のりは険しいものに感じられました。
というのも、中古レコード屋に置いてあるデヴィッド・ボウイのアナログ・レコードの枚数が、どう見ても少ないのです。
普段からビートルズやストーンズのコーナーばかり見慣れていたせいもあるのでしょうが、ボウイのレコードのそもそも絶対数が少ない。
その中で『ジギー・スターダスト』となると、さらに少ない。
そして、その『ジギー・スターダスト』の中で、状態の良いレコードは、もうほとんど宝くじに当たるような確率でしか巡り逢えないような気がしてきたのです。
そんなこんなで、こと、この『ジギー・スターダスト』に関しては、しばらくは、さしたる収穫も無いままの状態が続いていました。
しかし、そんな状況を打破する2つの偶然が重なり、『ジギー・スターダスト』のアナログのオリジナル盤(以下、オリ盤)の音を聴くことが出来るなど、その時は夢にも思いませんでした。
■国内盤の『ジギー・スターダスト』を発見!
それは、フラッと立ち寄ったディスク・ユニオン御茶ノ水店での出来事でした。
その日は輸入盤に目ぼしい収穫がなく、ボブ・ディランとシカゴの70年代の作品の国内盤(日本盤)を見つけたので、その2枚を小脇に抱えて、他に良さそうなものがないか店内を物色していました。
すると、ある親切な店員さんが声を掛けてくださったのです。
「あの、よかったら、値付けしたばかりでこれから棚に出す国内盤がたくさんあるので、見ていかれますか?」
なんと、これから棚に出そうとしているレコードを、見せてくれるというのです。
せっかくなので、見せていただくことにしました。
もちろん、国内盤なので、輸入のオリジナル盤のような貴重なものはありませんが、少なくともCDよりは音質が良いのは間違いありません。
早速出してもらったレコードを物色していると…、
な、なんと、その中にデヴィッド・ボウイの『ジギー・スターダスト』の帯付きの盤があったのです。
帯の裏側を見ると当時の最新盤『ステイション・トゥ・ステイション』が掲載されています。
ということは、この盤は1976年頃に出た再発(リイシュー)盤ということになります。
国内盤(日本盤)でしかもリイシュー盤となると、音質的にはあまり期待できません。
念のために店員さんに聞くと、帯の色(ピンク)から、やはり76年の再発盤とのこと…。
迷います…。
元々、私が探していたのは、『ジギー・スターダスト』のオリ盤です。
しかし、今までの経験から、状態の良いオリ盤を見つけるのは容易なことではないことはよくわかっています。
しかし、この目の前にある国内の再発盤は、状態が非常に良いのです。
ジャケットと帯は全く傷みがなく、新品同様と言っても過言ではありません。
検盤させてもらうと、盤ももちろん新品同様でした。
迷いに迷って、結局は購入することにしました。
やはり、決め手はレコード(ジャケット、帯、盤)の状態が非常に良かった(新品同様)であったことです。
また、音質がオリ盤よりも劣るであろう国内の再発(リイシュー)盤と、リマスターCDの音を試しに比較してみたいという好奇心もありました。
こうして、当初の目論見とは多少異なりましたが『ジギー・スターダスト』のアナログ盤が、無事我が家へとやってきたのです。
■リマスターCDなど比較にならない、アナログ・レコードの音
正直、国内のしかも再発(リイシュー)盤ということもあり、音質に全く期待していませんでした。
しかし、レコードに針を落とした瞬間、その思いは杞憂に終わったのです。
フェードインしてくる1曲目「Five Years」のイントロを聴いた瞬間に、アナログ・レコードの音の良さが直ぐに分かりました。
音が新鮮なのです。
ピアノ、ストリングス、ドラムス、そしてボウイのヴォーカル。
全てがみずみずしく、フレッシュで、活き活きとしています。
それは、採れたての活きのいい魚を生で食べるような感覚。
それは2曲目の「Soul Love」になっても変わりません。
ブラス・セクションと印象的なサックスの音色…。
エッジの効いたハードなギターに被さるようなボウイのヴォーカル。
ここでも全ての音が躍動しています。
3曲目の「Moonage Daydream」を経て、いよいよヒット曲の「Starman」です。
イントロのアコースティック・ギターに導かれるように始まるボウイのヴォーカル。
それは、宇宙からやってきた異星人との遭遇に相応しい曲の始まりです。
とにかくアナログの音は太く、暖かい。そして、フレッシュで芯があります。
これは、CDにおいて、いくらエンジニアがリマスターで味付けしようとも、新鮮な素材(=マスター・テープ)を新鮮な状態で(=アナログ・レコードで)食べる(=聴く)行為には、到底かないません。
アナログで聴いたボウイの傑作『ジギー・スターダスト』は、はからずともそのことを私に教えてくれました。
それにしても、音質面で国内の再発盤のアナログ・レコードにも負けてしまうリマスターCDとは、一体私たちは今まで、どれだけ悪い音でロック・ミュージックのCDを聴いていたのでしょうか?
しかし、国内の再発盤がこれだけ良い音なら、輸入のオリジナル盤は、物凄い音なのではないか?
一度でいい、この『ジギー・スターダスト』のオリジナル盤のアナログ・レコードの音を聴いてみたい。
その思いは日に日に強くなっていきました。
そして、その思いはひょんなことから実現することになるのです。
それは、ディスク・ユニオンの渋谷店でスティーヴィー・ワンダーのアナログ盤を購入した時でした。
店員さんが、レジで商品の受け渡しの際に、
「来週、UK盤の廃盤セールをやるので、良かったら来てみて下さい。」
と教えてくれたのです。
行こうか行くまいか、迷っていましたが、翌週、渋谷に出掛ける用があったので、その帰りに寄ってみることにしました。
そこでは、店員さんの言葉どおり、大量のUK盤が入荷していました。
今回入荷した商品は、どれも非常に状態の良い商品が多かったように思います。
幾つ目かの棚を見ていた時、ふと、あるレコードを手に取った瞬間に目が釘付けになりました。
そう、それは、『ジギー・スターダスト』のオリジナル盤だったのです。
■コーティングが美しい、ドイツ盤のジャケット
残念ながら、それはUK盤ではありませんでした。
商品の値札を見ると、ドイツオリジナル盤と書いてあります。
そう、この日のセールにおいて、本命のUK盤の中に、一部のヨーロッパ盤のレコードが混じっていたのです。
ジャケットを見ると、国内盤と違い、コーティングされている本当に美しいジャケットで、思わす見とれてしました。
しかも、国内盤と違い、ダブルジャケットです。
値段を見ると、12,900円と決して安い買い物ではありません。
やはり、今回も迷いに迷いました。
そして、出た結論は…。
やはり、購入することに決めました。
決め手は、ジャケットと盤の美しさでした。
一般的に、ヨーロッパ盤は、ジャケットの風合いが非常に美しいものが多い。
私も、この他に、メアリー・ホプキンの『大地の歌(Earth Song / Ocean Song)』のフランス盤を所有していますが、その『大地の歌』もジャケットが非常に美しい盤でした。
そして、今回購入した『ジギー・スターダスト』のドイツ盤も、ジャケットがコーティングされていて本当に美しい。
しかも、状態も極美品(EX+)の素晴らしいコンディションです。
そして、検盤させてもらった盤面も本当に綺麗で状態の良いものでした。
前のオーナー(所有者)が余程丁寧に取り扱っていたのでしょう。
店員さんによると、今回の買い付けでは、欧州のコレクターの方が大量に所有するレコードを放出したようで、その方の保管状態が良く、今回のセール品は状態の良いものが多数出品されており、この『ジギー・スターダスト』も、その中の1つで、これだけ状態の良いものに巡り合えることは非常に珍しいとのこと。
それは、私も同感でした。
UK盤の廃盤セールのことを教えてくれた親切な店員さんに感謝しつつ、家路に着くと、早速そのドイツ盤に針を落としてみました。
■ハイレゾのような芳醇な音像
さて、迷った末に購入したドイツ盤の『ジギー・スターダスト』の音質はどのようなものだったでしょうか?
以前に購入した国内盤がドラムスの音色にパンチの効いたメリハリのある音であるのに対して、このドイツ盤の音は、一転して、繊細で、芳醇な、まるでハイレゾのような音像です。
それは、ロックでありながら、まるでクラシックを聴いているような感覚…。
どちらが好みかと聞かれたら、どちらも、甲乙つけがたい出来です。
国内盤のパンチのある音も捨てがたく、ドイツ盤の繊細な音も素晴らしい。
同じレコードでありながら、プレス国によって異なる音像。
これこそが、アナログ・レコードの醍醐味だと言えるのではないでしょうか。
まして、そのどちらもが、マスターテープの劣化によってヨレヨレになったリマスターCDの音質と比べて、はるかに高音質であるならば、この『ジギー・スターダスト』については、アナログのオリジナル盤を買わない理由が見つかりません。
そして、この『ジギ―・スターダスト』は、アナログ・レコードとは、産地(製造国)とプレスされた年代によってそのテイストが変わる、ビンテージ・ワインのような存在だということを、私に教えてくれた貴重な作品なのです。
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