多量服薬を繰り返す人物が問題なのではない 病気が問題なのだ


令和6年3月29日に借金玉氏が睡眠薬及びアルコールの過剰摂取により昏倒状態で発見され、救急搬送されたとの報告が、彼の顧問弁護士である金川氏によってなされました。


令和6年3月31日現在、借金玉氏は未だに薬物の影響が抜け切っておらず入院治療を続けています。




借金玉氏は、発達障害界隈のインフルエンサーであり作家です。

発達障害の当事者であり、二次障害として双極性障害を持っていることを公表しています。


『発達障害サバイバルガイド』

『発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』

借金玉氏が上梓した2冊は、発達にアンバランスさを抱え、社会に不適応感を持っている人にとって、非常に実践的な指南書として広く読まれています。

特にADHDの人は、読んだことある人が多いのではないでしょうか。



金川弁護士の報告文には
「借金玉は非常に問題の多い人間であり」
「今回の出来事も社会人としてあるまじき行為」
と記されています。

わたしはこの文言が公にされ、広まっている現状に危惧を覚えました。

睡眠薬やアルコールの過剰摂取は、症状によって引き起こされる事象であって、本人のモラルの問題に帰結するものではありません。

借金玉氏のような影響力を持つ人物を通じて、精神疾患を持つ人に対するスティグマを助長させるような表現が発信されることは、精神疾患の患者への風当たりを一層強くしてしまい、当事者の「助けて」の声を封じ込めてしまう危険があると感じました。



わたしの至極勝手な感じ方ではありますが、金川弁護士の報告文はかなり主観的かつ感情的な印象を受けました。

背景として、

・弁護士は法律の専門家ではあるが医学の専門家ではないこと
・借金玉氏に対してクライアントの枠をこえて一人の人間として真摯に向き合い続けてきたからこそ溢れ出る感情があること 

などがあるのかもしれません。

また当報告文は、金川弁護士が意識不明状態の借金玉氏を発見してからわずか2日で公表しています。

クライアントとして長年顔なじみであった借金玉氏が、血飛沫の散乱した部屋にて昏倒としている姿を目の当たりにしたことは、金川弁護士にとってかなりショッキングな出来事だったはずです。

金川弁護士自身も、心のケアを要している状況だとも考えられます。




弁護士がこのような主観的かつ感情的な書面を公表することは通常では考えがたく、何かしらの事情はあるのでしょう。


しかし当報告文が書かれた背景が何であれ

一応看護師免許を有する者として
精神疾患の当事者として

精神疾患を持つ人に対してのスティグマが深められていくことを看過したくはありません。



誠に僭越ですが、少し補足をさせていただきます。

わたしは、希死念慮の発生している精神状態は、いわば「心のバイタルサインの異常値」であり、多量服薬に至る事態は「心の急変事態」と捉えています。

「バイタルサイン」とは日本語訳で「生命兆候」。

人間の生命活動を示すサインのことで、「脈拍」「血圧」「呼吸」「体温」の4つを指標として、数値を測定することでその日の体調を知ることができます。

心のバイタルサインの異常値も、心の急変事態も、本人が好きでなっているわけではありませんし、ましてやコントロールできるものでもありません。

大事なのは、「希死念慮を有している」「自殺企図を起こす」という言動を本人の倫理観や根性の問題に帰することではなく、適切な医療に繋ぐことです。

「希死念慮」「自殺企図」は、本人の問題ではなく、精神疾患が引き起こしている問題です。
この認識を持つことが、治療のレールに乗るための第一歩となります。



今回の借金玉氏の騒動は、彼の一読者であるわたしとってもショッキングなものでした。

ほとばしる文才、そしてユーモアを持っている借金玉氏なら、発達障害(及び付随する双極性障害)という困難だってどうにか乗り越えていけるのではないかと、勝手に思い込んでいたのが覆されたからです。

改めて、発達障害(及び付随する双極性障害)が現代社会で抱える生きづらさ、そして病気の残酷さをひしひしと感じました。



今回の金川弁護士の報告文が、どうか精神疾患を持つ人への偏見を強める風潮に繋がらないことを切に願っています。