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町の明かり(冬ピリカグランプリ応募作)

夜。

家の近所の明かりは、
つねに希望だった。

真二(しんじ)は、
この町に七年ほど暮らしてみて、
ふと、そしてしみじみと
思い出すようにして、
感じ入るのだった。

春の夜は家のあたたかみを。

夏の明かりは、
暑さを凌ぐための希望の光
として。

秋の明かりは、
切なさを癒してくれる。

そして冬。

真二は、
コートのポケットに
両手を入れて、
近所を散歩していた。

年も押し迫っていて、
各々の家では
色んな家族模様が繰り広げられて
いるのだろう、と
想像をあたたかくして、
あてもなく
よく知ったこの町を
歩いていたのだった。

「寒い。」

道はある程度整頓されて、
落葉の少ないアスファルトは、
余計に寒さを
感じさせるのだった。

やっぱり帰ろうか

思いとは裏腹に、
真二は歩みを進める。

家から遠ざかることで、
日常の決まりきった生活から
解放される気がしたからだった。

一人暮らしの長くなって、
それなりの健康に
ありがたみを感じつつ、
欲、という熱望を、
冬の寒さに持たざるを得なかった。

私の隣に、恋する人が
いてくれたらなあ

「まだ遅くないから、
リサイクルショップでも行くか。」

少し距離は遠いけれども、
真二は寒風のややする
暗い町なかで、意を決して
しっかりとした足取りで、
店の方へ向かって歩き出した。

朝。

京子(きょうこ)は、
身支度を終えて出掛ける所だった。

リーン、リーン ♪

今どきの携帯電話にしては、
古めかしい着信音が鳴って、
京子は出た。

京子「はあい、なに?」

「あ、京子、
今から出掛けるところ?」

「うん、仕事。」

「悪いんだけど、
またチャンプを見てもらいたいの。
明日なんだけど、
友達とお茶する約束しちゃったの。」

「うん、いいよ。」

電話の相手は、
京子の母からだった。

京子は、
明日から土日で仕事休みだった。

チャンプは、
京子の母の家で飼ってる
犬の名前だ。
ポメラニアン種である。

用件が済んで、
電話を切ると、
京子は自転車に乗って
仕事場へ向かった。

夕晩。

真二は、オルゴールを
手に取って眺めていた。

どんな曲だろう

ネジを回して、
音を鳴らしてみた。

「あ。」

ふいに、真二の後ろから、
声が聞こえた。

「ラ・カンパネラ。」

真二「ら?かん?」

「あ、ごめんなさい。
ラ・カンパネラっていう
曲なんです。」

ふり返り見た真二は、
そこに、薄手の
ダウンジャケットを着た
20代かと見える
女性を見たのだった。

真二「誰の曲なんですか?」

「リストです。」

「リスト?」

「はい。」

「リストが歌ってるんだ。」

「あ、いえ、ピアノ曲です。」

「ふーん。よくご存じですね。」

「少しピアノ習ったことあって。」

「へえ。」

「そのオルゴール、綺麗ですね。」

真二は、
手に持ったオルゴールを今一度見た。

よく見ると、
馬の形やら天使の形などが彫られた、
陶器のオルゴールと気づいた。

「ええ、きれいですね。
教えてくれてありがとう。」

「あ、いえ。」

京子はそう言うと、
真二の元を離れて、
店の棚にある商品を
ゆっくり眺めながら、
去っていったのだった。

(1188文字)

(おわり)

お世話になっております。
つる と申します。

小説応募企画、
『 冬ピリカグランプリ 』に
応募させていただきたいと
思います。

ほんのり明かりが灯るような、
小説に努めました。

どうそよろしくお願い
申し上げます。☆

m(_ _)m

つる かく🍂



お着物を買うための、 資金とさせていただきます。