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生まれて初めてもらったボーナスで職業用のミシンを買った⑤

初めての決算は、社会経験の乏しい私にたくさんの課題と不満を残した。

「洋裁の仕事ならこんな風なミスはしないのに」
「これが洋裁の仕事なら周りをすっきり見通せて、自分のやるべき事が分かるのに」
「何で私は経理なんて向いてない仕事をやらされているんだろう」
「何で私は洋裁の仕事を辞めたんだろう」

何かミスをして注意を受けるたび、そんな事ばかりを考えていた。
そんなに嫌ならやめちまえよと言いたいが、そう簡単にやめられない理由もあった。

雇用主である恋人とは、お互いが人生に欠かせぬパートナーでそれ故に彼の役に立ちたい、いや役に立たねばならぬ、と言う意地のようなものが当時の私の心を占めていた。
ただ、向こうは身内だからという理由で私を甘やかしたりするような人ではなかった。
むしろ他の仲間達の手前当たりがキツく、いじけていた私は更に卑屈になっていった(言うまでもなく私が良くない)。
経理なんて全然好きじゃない、でも彼の事は愛してるんだから(会社では厳しかったが、基本的にはとても理解のある人だった。私は彼に沢山の事を許してもらっている)仕方ない。
だから嫌でもやめるわけにはいかないんだ。
自分の気持ちを多少捻じ曲げても。

そういう考え方をしていた。

つくづくトンチンカンだと思う。

恋人にも
会社にも
経理という仕事にも
洋裁にも
働くという事にも
自分の人生にも
色んなものに対して失礼な考え方だった。

穴があったら入りたい。

(トンネルを抜けるつもりが井戸にはまってしまった、続く)



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