夫と子供と私の話⑤
およそ2年半前に告知を受けてからこちら、医師から余命の話をされたのはその時が初めてだった。
「これから始める予定の抗がん剤が効いたとしても、長くて1、2カ月になると思う」
えっ?
今なんて?
いちにかげつ?
あといちにかげつであのひとしぬの?
思っていた以上に短くて、頭の回転が止まりそうだった。
信じられない。
つい数ヶ月前にアフリカに行ってたあの人。
梅雨入り前、石垣島に家族で行って得意の海水浴もしてた。
年末にある大きなプロジェクトに向けて頭を振り絞ってアイデアを練っていた彼が。
なんであといちにかげつでしぬの
真っ白な頭で、本人には余命は伝えない旨と延命治療の有無を決める書類の説明を受けた。
どっちもこの上なく個人的な事なのに、それを本人抜きの所で進めていくんだなぁ
ぼんやりしながらもそこだけは違和感を感じた。
特に何事もないような顔で病室に戻る。
目を覚ました夫と子供が会話を交わしている。
私の顔を見た夫が「いやぁ、驚いたよ。目を覚ましたらこの子がいるんだもん。夢見てるのかと思った」と嬉しそうに、でもまだ夢の中にいるみたいな顔で笑った。
そうでしょう、でも顔見れて嬉しいでしょ、と
ニコニコ笑い返したけど、私の感情は自分でも読み取れずカラカラに干上がったみたいになっていた。
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