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夫と子供と私の話⑥

あまり眠れないまま翌日を迎えた。

子供を母に託し、朝から病院に向かう。
その日は治療の合間に夫の家族と主治医の面談とソーシャルワーカーとの打ち合わせ、そして私の精神科のカウンセリングがあった。

夫がかかっていた病院にはがん患者の為の精神科があり、夫だけでなく家族である私もまた患者として月に一度カウンセリングを受けていた。
私にとってカウンセリングの時間は自分を取り戻す為に必要で、この時間がなかったら夫に寄り添えないどころか、かつて仲良し夫婦だった私たちに離婚の危機さえ訪れていたと思う。

その位、がんとやり合う日々は私たちの平和な日常を狂わせた。



話は少し変わるが、
夫ががん告知を受けてからこれまで私たちは3つの病院を渡り歩いた。
夫の家族とは関係は良好な方だが、入院時にお見舞いに義両親が来る以外は外来の付き添いや入退院の手続きは私だけでやってきた。


初めての抗がん剤がほとんど効かなかった時も、

副作用がほとんどないと言われる夢の治療薬が全く効かなかった時も、 

やっと薬の効果があって腫瘍が縮んだ時も、

その薬の副作用で身体中の毛が抜け落ちてしまった時も、

折り合いの悪い主治医から離れて転院する時も、

治験にかけて奮起したのにやっぱり効果がなかった時も、

私は夫の横にいて
一緒に期待したり落ち込んだり、
泣いたり喜んだり、
怒ったり励ましたりした。

そんな日々があと1、2ヶ月程で終わる。


私の中に湧き上がってきたのは
「絶対に後悔しないように、出し惜しみせずに彼を愛し尽くしたい」
という、ぐらぐら沸騰するような覚悟だった。



…えらいドラマチックやん私、恥ずかし。

いやでもでも本当にその時はそんな風に思う事で自分自身を奮い立たせていた。

どこからともなく最後の祭りの太鼓の音が聞こえたみたいだった。



…めっちゃドラマチックやん、私
(いやでもでも本当にその時は)

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