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夫と子供と私の話④

病院からの着信に、心拍数が上がる。

こわごわ出ると

ご主人がベッドから転倒し、頭を打ちました。今は意識は戻りましたがさっきまで血圧が下がっていたので今から来れますか?

と。

私はそんな時にも「えっ、めんどくさい」が最初に来てしまい、電話先の看護師さんに「えっと、今から子供を寝かしつけたいんですけど…」と、あちらにしてみたら「知らんがな」以外にない返しをしてしまった。
常々自覚はしているけどたいがい薄情だな、私。

結局すぐに冷静になり「今から向かいます」と伝え、子供と母と3人でタクシーに乗った。

いくつかの繁華街を通り抜け、夜の病院に到着する。
時間外受付で手続きを済ませ、エレベーターに乗る。
病室の前に夜勤の看護師さんがいる。
名前を告げ、経緯を説明してもらう。
「今は血圧も落ち着いて、眠ってらっしゃいます」
ああ良かったです、ありがとうございます、と看護師さんに笑顔で返す。
ここまで努めて冷静に。

そして病室に入る。
心電図や酸素のチューブに繋がれて眠る夫の姿を認めた瞬間
緊張の糸がぷつんと切れ、安堵と新たな不安で涙が溢れ出た。
死んでたらどうしようと思った、でも生きててくれた。
良かった、悲しい、よかった。
ああでもほんとかなしい。

子供を不安にさせないよう、泣き顔を見せないように背中を向けたのだけが親としての精一杯の冷静さだった。

「ああ、奥さん来てくれたね」と、主治医が病室に入って来る。
第一印象こそ最悪な先生だったけど、半年程の関係ではありながら少しずつ信頼関係を築いて来た先生の顔を見て今までにない安心感を覚えた。

「ちょっと別室でレントゲンも見て欲しいし、今日の経緯を説明させてくれる?」と、私だけが呼び出された。

夜の病室でニコニコしている子供に手を振りながら先生の後に続いた。


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