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虫かご、角刈りと、四つん這いバーのこと。

どうもnoteというプラットフォームを使っている以上、誰かのためになるものでないと書いてはいけないような気がしてしまう。

でも私が興味のあることなんて、どちらかというと時間の無駄のようなものしかないので、そのつもりでお付き合いください。


自粛期間、zoomを使ったオンライン飲み会が流行ったが、私はほとんどしたことがない。

自主的に唯一参加するのは、大学の時の友人とのオンライン飲み会である。

高校以前の人間関係には分断があり、当時の友人に会うことなど恐怖しか無いのだが(話が合う気がしない)、大学の友人にはむしろ会いたいという気持ちがある。

オンラインなら、対面では実現しない再会も出来るかも知れない。そう期待するのだが、どうもいるのはいつも代わり映えのない数人なのであった。



それでも、参加メンバーのひとりと交流が今も続いていて、都合合えばオンラインで再会できそうな雰囲気になってきたのが、音楽サークルで学年が一つ下だったHという女の子である。

彼女は、明らかに私がいたような小汚い音楽サークルにいるには相応しくないギャル系の女子大生で、BRAHMANやMr.ORANGEが好きだった記憶がある。

そんなに積極的にバンド活動をやっていた方ではなかったが、いざ演奏となると、CHANELの紙袋からエフェクターを取り出してセッティングを始めるので、私はそういうところが最高だなと思っていた。

大学卒業後、今は京都でメイクアップアーティストをやっているということで、友人伝いに教えられてInstagramを覗いたら、フォロワーが万といる美魔女系インフルエンサーだった。
明らかに違う世界に生きているのだろうが、いろいろ話してみたいと思った。



もう1人会いたいのは、これも同じ音楽サークルの一つ下の後輩の、Sという女子である。

ギャルだったHが入部した時も驚きだったが、Sのインパクトは凄かった。

彼女のファッションは、ピッチピチのジャージに角刈り。肩からは黄緑色の虫かごを下げていたのである。

大阪の若者たちがどれだけ個性的なファッションでも、何とも思わなくなっていた私であったが、女子の角刈りに虫かごには、流石にその目を疑った。

「このカバン、おしゃれやと思いません?」

そう言われても、普通にそれはカバンじゃなくて虫かごでは…としか思えなかった当時の私は、まだまだ多様性に不寛容だった。まあ、今でも同じことを思う気もするが。

彼女は大学卒業後、「オーストラリア人と付き合うことになった」と言って出国。友人たちにはその後を知るものがいない。

角刈りに虫かごという個性を受け入れられないような、器量の狭い日本人に見切りをつけてしまったのだろうか。

友人たちとzoomで話すと、必ずSの話となり、「角刈り」「虫かご」が連呼されることになる。角刈りと虫かごがインパクトありすぎて、彼女と過ごした他の時間をみんなほぼ忘れてしまっているのである。ここまで来たら、死ぬまでになんとしても彼女の行方を突き止めたいと思っている。



行方がわからないと言えば、Kという後輩がいる。
彼は頑固で短気で偉そうで、情には熱いがややこしい性格のメタルドラマーであり、久々に話しても面倒くさいだけなのは分かっているので、彼に関しては正直会いたいとは思わない。

しかし今どうしているのかは気になるので、友人に行方を尋ねてみたところ、衝撃の事実を知ることになった。


「あいつ、数年前に新地で「四つん這いバー」の店長やってたんすよ」

四つん這いバー!?

思いつきのようなアイデアで出店され、時に流行っては消えてゆく、泡沫系夜の飲食店の新種である。

よく意味は分からないが、そのリズミカルな響きから、つい口に出して言いたくなってしまうフレーズ一点に、私は心惹かれてしまった。

友人は、Kから、バーの雇われ店長になったから1度遊びに来ないか、と言われ、四つん這いバーに訪れた。

何が四つん這いかというと、普通は客側と店員側を隔てる台として存在するバーのカウンターが、その高さのまま奥まで続いており、上に店員の女の子が乗っている。
客と目線を合わせるために、店員は四つん這いになっているというのである。

「ほんで、どうしたらええの?」

友人が聞くと、さすがにカウンターに四つん這いではなく、客の目線の高さにいるKが、自分は雇われ店長だから、仕方なくこんなとこにいるんですよ、という雰囲気を出しながら、

「まあ、ポッキーでも頼んでみて」

と言ったという。
友人は仕方ないので、

「じゃあ、ポッキーを…」

すると、

「ありがとうございます!!!ポッキー入りましたーッ!!!!」

Kは突然嬉しそうに叫びながら、かき氷を勢いよくガリガリガリー!と削りだした。

グラスに入った氷に、5本刺されたポッキー(800円)が、Kから女の子に渡されると、その子が四つん這いでポッキーを食べさせてくれると言うのである。

いやいや、そんな店、流行るのか!?

「いや、それが、その数ヶ月後に摘発されて、あいつも多分捕まったんですよ」


何やってたんだ四つん這いバー。
口に出す分には面白いのだが、四つん這いバー。

やっぱり、Kには会わなくていいかな、と思ったのであった。

大学の仲間たちとzoomで話していると、最近の仕事がどうだ、コロナがどうだ、という真面目な会話の最中でも、角刈り、虫かご、四つん這いバーの話がしたくてウズウズする自分がいる。





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