「フェリペ4世に愛されたベラスケス」
 
ディエゴ・ベラスケス（1599-1660）は、スペインの画家として非常に有名ですが、彼は1599 年にスペインのセビリアで生まれました。
 
彼の初期の頃は謎に包まれており、この時期の彼の私生活についてはあまり知られていません。
 
と言うのは、近年の研究で、父方がコンべルソ（改宗ユダヤ人＝ユダヤ教からキリスト教への改宗）の家系である可能性が高いとされていて、父方の祖父ディエゴ・ロドリゲス・デ・シルバはポルトガルからスペインのセビーリャに移住していることがわかり、当時多くのコンベルソがポルトガルから移動し、シルバなどの名を名乗っていたことが明らかにされているからです。
 
スペイン南部の都市セビーリャに生まれた彼は、11歳の頃に当地の有力な画家であるフランシスコ・パチェコに弟子入りしました。
 
7人兄弟の長男だったベラスケスは、何をやっても優等生でしたが、一番熱心に取り組んだのは、絵を描くことでした。
 
パチェコは著名な画家であり芸術理論家でもあり、自身のスタジオを持っていましたが、そこでベラスケスは訓練を受けました。
 
パチェコはベラスケスの教師であるだけでなく、義父でもありました。 1618 年、19歳のとき、ベラスケスはパチェコの娘フアナと結婚し、2 人の娘が生まれます。
 
ベラスケスは、技術を磨き、委託された作品に取り組んでいたと考えられています。彼の最初の重要な作品である「マギの礼拝」は、1619 年に彼がわずか 20 歳のときに完成しました。この絵は好評を博し、ベラスケスへの依頼が増えました。
 
1622 年、ベラスケスはフェリペ 4 世の要請でマドリッドに移り住みました。フェリペ 4 世は彼の作品を見てその才能に感銘を受けました。
 
ベラスケスは公式の宮廷画家となり、王室や宮廷の他のメンバーの肖像画を作成する責任を負いました。
 
彼の肖像画は非常に写実的であり、細部への細心の注意を払っていたため、当時最も人気のあった画家の 一人として名を馳せました。彼の成功にもかかわらず、ベラスケスはプライベートで控えめな人格によって暮らしましたので、彼の私生活についてはほとんど知られていません。
 
彼は長年にわたり王室のために働き続け、史上最高の絵画の一つと考えられている「ラス メニーナス」など、彼の最も有名な作品群を制作し、それらは現在、プラド美術館を飾っています。
　
「卵を調理する老女と少年」
 
ベラスケス19歳のときの初期の作品に、「卵を調理する老女と少年」（スコットランド国立美術館収蔵）があります。
 
老女と少年の姿が細密に描かれており、カラヴァッジョのような明暗対比で陰翳の背景を活かしながら、老女と少年の表情が、写実的にくっきりと光の中に照らし出されています。
 
強い光が左から老女と調理中の卵や食器類に当てられて明るく、逆に光が背後から当たる少年の顔には暗い影の描写があります。
 
調理している卵、食器類なども非常にリアルに描かれており、ベラスケスの写実精神が文句なく一流であることが分かります。
 
モデルを演じる老女と少年が、実際の祖母と孫であるかないかは分かりませんが、この画の設定が、調理する祖母と、脇でそれを手伝う孫の姿であることは確かなようです。名画の誉れ高い作品であることは誰も否定できないでしょう。
 
「ベラスケスの結婚および家庭」
 
この作品は、ベラスケス19歳にしては、見事としか言いようのない傑作であり、ベラスケスの偉大な才能を証明するものですが、タイトルに「卵を調理する老女と少年」とあるのに引っ張られて、祖母と孫と見てしまうのですが、実は、調理する女性はベラスケスの母であり、少年はベラスケスの弟であるという見方があります。
 
もしかすると、こちらの方が当たっているのかもしれません。
 
少年は、左手にワインを持っており、右手には大きな瓜を抱えています。スペインは、今でも、昼間からよく卵を揚げて食べる習慣がありますが、ベラスケスの時代から変わらない食習慣が続いていると思われます。
 
ベラスケスは7人兄弟の長男ですから、フェリペ4世の宮廷画家に取り立てられた立場から見ると、大いに出世したことになり、何かと家族の面倒を見る責任感があったことと推測されます。
 
もし彼がユダヤ系であったとすれば、家族を大切にするユダヤの伝統を守りつつ、謹厳で誠実な人柄で仕事に取り組んだことが伝わってくるような気がします。
 
ベラスケスの師匠であったパチェコの娘フアナと結婚して二人の娘を儲け、誠実な結婚生活を送ったであろうと思われますが、宮廷画家としてスペインの王宮から離れることのなかった忠実なベラスケスは、ベラスケス家の長男として、その死を迎えるまで、王宮に侍り仕えました。
 
誠実な彼の人生を神は祝福されたことでしょう。