和菓子屋の黒服男

 恋人と旅行で訪れた温泉街で、ふらりと和菓子屋に立ち寄った。表の貼り紙に印刷されていた白あん入りの苺大福が気になったのだ。
 ガラスの引き戸を開けて中に入る。少し離れた位置に立っていた黒服の男が、いらっしゃいませ、と低い声で挨拶した。遠目だから定かではないけれど、銀縁の眼鏡の奥に覗く目から受ける印象は冷たく、和菓子屋の店番よりもホテルの支配人の方が似合いそうな雰囲気だった。

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