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脱皮彼女

【あらすじ】
恋人の美和(みわ)がクローゼットに鍵をかけていることを不審に思った千景(ちかげ)は、ある日、合鍵を使って彼女に不意打ちを食らわせる。
そこで千景は脱皮中の彼女を目撃してしまい……!?
(原稿用紙約8枚)

「お、珍しい。クローゼットの鍵開いてるじゃん」
 そう言って、何気なく取っ手に触れようとした千景(ちかげ)を、美和(みわ)が咄嗟に突き飛ばした。
 不意打ちを食らってバランスを崩した彼は、壁に軽く肩を打ち付けた。
「ごめん、大丈夫?」
 彼以上に驚いた顔で、美和が彼の腕に触れる。
「いや、こっちこそ悪い。そんなに嫌がるとは思わなくて」
 彼は探りを入れたつもりだったが、美和は無反応のままクローゼットの錠をかけ直すと、「そろそろ夕飯の準備しなくちゃ」と、何事もなかったように部屋を出ていってしまった。

 大学のサークル内で知り合った美和のことを、千景はおおむね気に入っている。自立しているけど適度に人を頼ることを知っているし、自分と他人の人生を切り分けて考えられる女だから、一緒にいて居心地がいい。
 これは感覚的なものだから確かなことは言えないけど、浮気の心配も特にはしていない。
 ただひとつ、どうしても気になるのが、あのクローゼットの存在だった。

 女の子なら彼氏に見られたくないもののひとつやふたつあるかもしれないが、クローゼットごと施錠するなんて、と千景はそこに異常性を感じていた。それも、わざわざ管理会社にお願いをして鍵を付けたというのだから、ますます理解不能である。
 知らなくても恋愛関係には支障ないのだが、千景は子どものころから、自分が納得できる答えを得られるまで「なんで?」を繰り返し続けるようなところがあった。
 せめて想像力で補って満足できればいいのだが、彼女がいったい何を隠しているのか、彼には見当すらつかないのだった。
 そこで彼は、ついにある日、強行突破に出ることを決意した。

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