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『ルームロンダリング』片桐健滋監督TCPインタビュー

『ここでしか聞けない』映画の"ウラバナシ"をお伺いする TCP Interviewのお時間!今回は、第五弾となる受賞者インタビューをTCP映画『ルームロンダリング』監督であり、現在、テレビ東京で放送中のグルメドラマ『ザ・タクシー飯店』を手掛けている片桐健滋監督(43)に実施。

2015年の第1回TSUTAYA CREATORS’PROGRAMで準グランプリを受賞し(共同企画:梅本竜矢さん)、『ルームロンダリング』(18)で劇場監督デビューした片桐監督に監督自身の歩みと、TCP2022に参加している応募者や、監督を目指している人へのアドバイスを聞きました。

◆フランソワ・トリュフォーの編集者に師事したのは偶然の出会いから

――監督はご実家に8ミリカメラがあって、学生時代から撮影されていたそうですね。

はい。祖父の8ミリカメラがありました。世代としては僕がギリギリかもしれませんね。高校時代に神奈川映像コンクールに入賞しました。高校生だったので大阪から授賞式に行くことはできなかったんですけど、大島渚監督からメッセージをいただいたんです。「こういうスタイルでやるのであれば、フランスが合ってるんじゃないかな。見てきたらいいよ」と。

僕の学校は進学校だったのですが、その後ドロップアウトしてアルバイトなんかをしていました。やがて自分のことを誰も知らない場所に行きたくなって、東京じゃ言葉も通じるし、全く知らない場所に行きたいと思ったときに、大島監督の言葉を思い出しまして、「じゃあフランスに行ってみよう」となったんです。もう24年前です。

――フランスでは、フランソワ・トリュフォー作品の編集で知られるヤン・デデさんに師事されたとか。何も決まっていない状態で渡仏したのですか?

あのときは勢いで。今同じことをしろと言われてもできないでしょうね。行けばなんとかなるというより、行くしかないという気持ちでした。最初は語学留学のような形でした。そのとき日本人コミュニティの新聞にリュック・ベッソンが『WASABI』のスタッフを募集してるのを見まして、やってみたいと思ってスタジオに面接に行ったら「日本ではどういうお仕事をされてたんですか?」と聞かれるわけです。当然、特にやってませんから、面接はすぐに終わりました(笑)。その帰りにスタジオでヤン氏に会ったんです。

当時、アジア人がそこにいるのは珍しかった。フランスではもともと溝口健二監督などが非常に支持されているし、是枝裕和さんとか青山真治さん、諏訪敦彦さんたちの人気もすごい時期だったこともあり、声をかけてもらいました。それで映画の話になって、「俺はお前と話して時々日本語の勉強でもするから、金に困ってるならウチにきてバイトでもするか」と言ってもらいまして、そこがスタートでした。

◆最終プレゼン用のコマ撮りアニメーションの制作期間は1日

――日本に帰ってからも崔洋一監督、豊田利晃監督、羽住英一郎監督、廣木隆一監督と、錚々たる監督のもとで助監督を務められてきました。

不幸があって日本に帰ることになって、そこから知り合いのつてで、「せっかく帰ってきたのならフランスに戻るまでにちょっと仕事したら?」と言われて、音楽ライブの映像をやったりしているうちに、あれよあれよと縁が繋がっていきまして。大島監督の弟子でもある崔洋一監督の現場に助監督で入ることになり、いつの間にかフランスにも戻れなくなって、そのまま(笑)。25歳までの僕はまぐれで成り立ってます(笑)。

――TCPへのきっかけも、一緒に受賞した梅本さんがいつの間にか企画を出されていたとか。

当時、梅ちゃんとは2ヶ月おきくらいに、飲みながら「こういう話はどうだろう」といろんな企画の話をしていました。実現はしていませんでしたが、「こういうのが面白い」「こう展開していくのは?」と架空の話をするのが僕らのデトックスになってたんです。そこで話していたものを梅ちゃんがTCPに出していて「一次が通ったから脚本を書かないと」と(笑)。

もともと事故物件をネタにした話はあれこれしていたのですが、中村義洋さんの『残穢』の現場に入っていたときに、自分だったらネガティブなほうの念ではなく、また違う話になるなと思いました。それで考えていくうちにキャラクターの設定がはっきりしていって、「これは面白いぞ」となったんです。

――TCPの最終プレゼンも時間がないなかでの準備だったとか。

あのときは廣木監督の『火花』の撮影中で、全然時間がなかったんですけど、廣木さんが、「これはチャンスかもしれないから、1日撮影休んでいいよ」と言ってくれたので、プレゼン用の映像を作りました。ビームコミックスさんに紹介していただいた漫画家さんに、ピックアップした場面を描いてもらって、そのイラストをパソコンで取り込んで編集してフリーの音源を入れて。さらに声優さんにナレーションを乗せてもらって、コマ撮りアニメーション風に、というのを1日でやりました。

◆『ルームロンダリング』の主人公・御子ちゃんは自分自身

――いま現在、挑戦したいことがあるのだけれど、忙しくて……という人に何かひと言伝えるなら。

時間がないなんてことないんですよ。やらないだけです。

――ぐうの音も出ません(苦笑)。受賞後、実際に映画化を進めていく段階で、脚本の練り直しなどはされましたか? 受賞時の紹介ではヒロインが「無気力女子」と表現されていますが、御子ちゃんは「無気力女子」とは違います。

企画を進めるうえでの練り直しというより、書き直せば書き直すほど、自分と家族との関係を考えることになりました。それでどんどん自分自身に寄っていったのだと思います。だから御子ちゃんは自分。あまり話さない主人公が周りの人に影響されて、0.5歩くらい人間として成長するくらいの話に落ち着くようにというのは、最初から思っていました。

――もともと業界での地盤はあったわけですが、とはいえ長編映画の監督は1作目です。キャスティングなどはどう進んだのですか?

叩き上げだったので、自分のことを知っているスタッフとキャスト、梅ちゃんが知っているキャストから考えていきました。だから予算的にそぐわないキャスティングにはなったと思います。でも僕と梅ちゃんが築いてきた人間関係が活きたと思いますし、今も僕は監督を続けていますが、スタッフは『ルームロンダリング』と同じ。今の『ザ・タクシー飯店』も同じ組です。

――主演の池田エライザさんももともとご存じだったのですか?

御子ちゃんだけなかなか決まらなかったんです。僕のなかではキーさん(渋川)とオダギリ(ジョー)さんはマストでした。最終的に御子ちゃんが池田さんになったのは、廣木監督との会話も大きかったです。廣木さんが『オオカミ少女と黒王子』で池田さんと仕事していていいなと思ったんです。

そのときはまだ池田さんも雑誌『ダ・ヴィンチ』での書評とか、クリエイティブな面を見せていないころで、どちらかというと華やかなところにいたんですけど、でもそれだけじゃない気がするなと思っていました。それで廣木さんの話もあっていいんじゃないかと思いましたね。

◆TCPは宝くじ。買わなきゃ当たらない。書いて送らなきゃ始まらない

――実際に監督デビューされての変化はありましたか?

自分自身の変化はあまり感じませんが、周囲が変わったとは思います。『ルームロンダリング』を撮るまでは、いろいろなところに企画を出しても、「片桐もそろそろ監督やってもいいよな」と言う人はたくさんいましたが、実績がないから「やれるよなぁ」とは言うけど、実現には至らないならないわけです。それが『ルームロンダリング』を作ったことによって「出来るもんな」となったのは大きいです。僕は『ルームロンダリング』を撮って以降、暇になったことはないです。自分が叩き上げだったこと、人間関係を作ってきていたこと、そして撮れるんだという実績が作れたからかなと思います。

――実現に至っていなかったデビューを『ルームロンダリング』で叶えたわけですが、TCPはどんなプロジェクトだと改めて感じますか?

宝くじじゃないですか。買わないと当たらない。さきほども少し話に出ましたが、忙しいからと書かなかったら何も始まらない。送れるところがあるのなら、暇を見つけて書いて送ればいい。それを評価して、どこのどいつか分からない相手にお金を出して撮らせてくれるというのは、やっぱりすごい企画だと思います。

――現在、TCPは第一次審査中で、次に、第二次審査に進んでいくところです。第二次は片桐監督が受けたときの第三次にあたる「面接」なのですが、アドバイスをいただけますか?

面接って、登壇させますよね。それって「こいつ、大丈夫か?」と見極められる場所だと思うんです。それまでは文章で人に伝えていたものを、生の声で人に伝える。今は監督、企画、脚本と部門が分かれているようですが、「自分がどうしたいか」を人に言葉で伝達できるというのは、監督として絶対に必要なものです。人と話すのは苦手だからと言っていても、そこのスキルがないと、現場は動いていきませんから。なので面接は、自分のこと、そして自分のやりたいことを、自分の言葉で相手に的確に伝えられるかを試される場所だと思えばいいんじゃないでしょうか。

◆自分の「なんでかな」を放置せず、そこを掘り下げてみる

――これから監督やクリエイティブな方面に進みたいと考えている人にもひと言お願いします。監督は現在でも、面白いと思う企画を人と飲んだり会話をして揉んでいくそうですが、もともとのアイデアの種はどうひねり出しているのでしょうか。アンテナをいろんな場所に向けているとか?

ここ数年、「エスカレーターは歩かずに止まって乗りましょう」と言ったりしますよね。ああいうのを見ていても、僕は「なんでそうなったんやっけ?」と思うわけです。そこから「大阪と東京の乗り方ってなんで違うんやっけ」「そもそもエスカレーターっていつできたんだっけ」といった具合にどんどん考えていくんです。物語のスタートを考えていくのって、そういうことなんですよね。アンテナを広げるというより、自分が「なんでかな」と思ったことを掘り下げてみるというのが、揺るがない企画の種になるんじゃないかと思います。

――ありがとうございます。最後に、放送中の『ザ・タクシー飯店』についても少しお願いします。テレ東ブランドの飯テロドラマに参戦しました。

僕なんかは立ち食いソバとか牛丼屋さんとか、それこそ街中華とかも行きますけど、入りづらい人もいますよね。特に街中華はのれんがかかっていて、すりガラスで中がどうなっているのかも分からなくて、常連さんやおっさんたちしか入れない。そこの間口を広げたかったのが、まず最初の企画の成り立ちです。自分のなかで、食べ物の選択肢としてなくなってほしくないジャンルでもありました。それで街中華をやろうと。

そしてどうせだったら『孤独のグルメ』よりドラマ部分を増やしたいと思って、タクシードライバーならタクシーの車内で客と会話もできるしと広げていきました。主人公を渋川清彦さんに演じていただくのは絶対でした。見ていただける方には、「近所にもこういう中華屋さんあったな。行ってみようかな」と思ってもらって、実際に足を運んで「うまいな」と思ってもらえたらいいなと。気楽に見て欲しいですね。(文・望月ふみ)

■水ドラ25『ザ・タクシー飯店』
テレビ東京系 毎週水曜日 25:00~25:30
テレビ大阪 毎週月曜日 25:00~25:30
出演:渋川清彦、髙木雄也、宇野祥平
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/taxihanten/
公式Twitter:@tx_taxihanten
公式Instagram:@tx_taxihanten