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樋口楓解体新書 -軌跡篇-

数多くのバーチャルライバーが所属する「にじさんじプロジェクト」
その「にじさんじプロジェクト」の1期生のうちの一人が樋口楓である。

1期生という響きを聞き、読者の方々はどのようなことを連想するのだろうか。記念碑的な存在感であったり、古参ファンがひしめく入りづらい空気感を感じたりするのではないだろうか。

本記事では、変動激しいⅤ界隈において、その激動に耐え続けて遂に3年目(2020年現在)となったにじさんじプロジェクト1期生の樋口楓について、あまり樋口楓について知らない人でも簡単に多くの情報を知れる入門書のように三部作構成で書き連ねていこうと考えている。
今回は、樋口楓の2018年のデビューからの歩みについて記す「軌跡篇」である。

当初は配信用アプリのテスター

「にじさんじ」とは、当初はいちから株式会社が一般ユーザー向けに供与する予定だった配信ツールのアプリのことである。
このプレスリリースにはアプリの仕様について下記のように記されている。

アプリ名:にじさんじ
配布:配信声優のみ限定公開(近日中配信者用公式リリース予定。)
価格:無料
対応OS:iOS11.0以降
対応デバイス:iPhoneX

「にじさんじ」とは、最初はバーチャルライバーのグループを指すものではなく、アプリを意味するものだったのである。
そして、そのアプリの宣伝役兼テスターとして募集がかけられたのが「にじさんじ1期生」なのだ。

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上の画像は樋口楓のYouTubeチャンネルのヘッダー画像である。このヘッダー画像はデビュー当初から一度も変更されていない、ある意味で文化遺産的なものといえるだろう。


3人の社員と、8人の公式バーチャルアイドルたち

現在は「にじさんじ所属ライバー」と呼ばれるにじライバーだが、かつては樋口楓のチャンネルヘッダーに記されている通りに「にじさんじ公式バーチャルアイドル」と呼ばれていた。
というのも、当初は「公式ではない」一般ユーザーが演じる「非公式のライバー」が生まれる予定だったからである。

さて、樋口楓はそんな「にじさんじ公式バーチャルアイドル」である「樋口楓」のオーディションに応募し、そして合格して「にじさんじ公式バーチャルアイドル樋口楓」になったのである。

やがて、いちからは「にじさんじ」アプリの一般供与を諦め、配信ツールの運営会社からタレント事務所としての活動に舵を切る。そして、それに伴って「にじさんじ公式バーチャルアイドル」や「にじさんじ公式ライバー」という名称は消滅し、「にじさんじ所属ライバー」という名称になる。
そう、現在もよく聞く肩書である。

貧乏なままに有名税を払う

にじさんじ1期生がそれより後のにじさんじライバーたちと大きく異なる点に、当初はアプリのテスターであったことと、まだ知名度も無く怪しいベンチャーだったら「いちから・にじさんじ」に応募した度胸の持ち主であるがあるが、それ以上に後のライバーたちと大きくことなることがある。
それは、当初は全くYouTubeから収益を貰えなかったというところだ。
なにしろ、ノウハウがない。そして、たとえ収益化を達成できたとしてもその収益がライバーに届くのは3か月後である。そんなタイムラグがあるのにも関わらず、知名度はどんどん上がっていく。好意的な意見は当然山のようにあるが、それと同じかそれ以上に目立つ否定的な意見も山のように押し寄せてくる。なにしろ、否定的な意見というのはどうしても好意的な意見よりも強く目立つものなのだ。

まだ右も左もわからない。いちからという自分たちが所属している事務所もまだ信頼しきれていない。そして、何より収益が手元に届かない(にじさんじライバーのYouTube収益は一度いちからに届き、そこからライバーに分配される)ものだから事務所への不信感も募る。そして浴びせられるインターネットからの悪意。
2018年の春頃、樋口楓はいずれ一緒にVTuberを卒業する計画を月ノ美兎と立てていたという。
この計画は読者の皆さまも御存じの通り実行に移されることはなかったが、この計画は2019年の10月20日に行われた「楓と美兎」の12時間配信で明かされるまで誰も予想だにしなかった計画だった。

引退を決意するほどに苦しいときも、決して私たちファンにはその辛さを見せずにエンターテイナーに徹した樋口楓や月ノ美兎をはじめとするにじさんじ1期生には感銘の念を覚えずにはいられない。

上記動画リンクは衝撃の「2018年楓と美兎同時引退計画」が明かされた配信のアーカイブ。該当箇所はコメント欄で有志が教えてくれている。


2018年の8月末に引退予定だった樋口楓

さて、「楓と美兎同時引退計画」があったことが明かされた楓と美兎休日編配信では更に驚くべきことが月ノ美兎の口から明かされた。
それは、樋口楓が当初の予定では2018年の8月末で活動を辞めていたということである。
この8月末引退については、当時から樋口楓のことを追って応援していたファンですら誰一人として想像したことが無かったような事実だった。
しかし、思い返してみればなんとなく納得できる事実でもあった。

これは2018年初頭から樋口楓を熱心に追いかけていた方々にはご賛同いただけることだと思うが、初期の樋口楓には儚い雰囲気があった

その2018年の夏までの樋口楓から感じ取れた「儚さ」については、もちがえる半年コラボであったり、2018年の夏に色々な人とコラボをしていたことからも感じ取れる。特に、もちがえるとJK組だ。

もちがえるは「半年記念」という、ものすごく中途半端なタイミングで記念配信を行った。当初は1年だってⅤ界隈がもたない可能性もあるので、そういう意味で「半年記念」の配信をやったものだと思われていたが、実際のところそれに加えて夏で引退する樋口楓の最後の思い出つくりの一環としてコラボが行われたという意味もあったのだと思われる。当配信で樋口楓はコラボ相手のエルフのえるモイラ勇気ちひろに対してケーキをプレゼントし、ケーキを贈られた三人は涙する。当時は「女泣かせ」と称されたこの樋口楓のムーブも、今となっては「まもなく引退する相手に感謝のケーキを贈られたら、それは泣いちゃうよね」という納得がある。

そして、JK組の配信もまた去りゆく者に対しての未練や餞別の気持ちが伺えるようなものだった。
こちらの「平成最後の夏休み配信」というタイトルのJK組の配信において、月ノ美兎樋口楓静凛はそれぞれお互いとの相性を診断サイトを使って診断する。そして、樋口楓と最悪の相性が出た月ノ美兎は配信中であるにも関わらず大きく取り乱し、驚きの声である「えっ」を連呼する。

樋口楓と月ノ美兎は仲が良いことで有名である。だからこそ、月ノ美兎は「樋口楓」ではなくなった樋口楓と、「同じ事務所に所属」という属性の共通が無くなった後に仲良くすることができなくなるのではないかと恐れたのではないだろうか。
もちろん、このJK組の配信が夏の引退撤回の後に行われたという可能性もある。なにせ、その辺りの詳細な時系列は今でも明かされていない。
しかし、筆者としてはこの配信タイトルである「平成最後の」という語句に何か月ノ美兎と静凛からの樋口楓に対する餞別的なものを感じずにはいられないのである。


転機。そして、引退撤回へ

夏で引退する予定だった「樋口楓」を引き留めたのは、月ノ美兎をはじめとする同期であったり、いちからのスタッフであったり、そして他の誰でもない樋口楓本人だった。

もともと、アプリのテスター兼広報のアルバイトのつもりだった。アルバイトであるから、人生のライフワークになるとは思ってもいなかったわけである。
これは例え話だが、大学在学中に遊ぶお金を稼ぐつもりでやっていたストリートパフォーマンスでバズったからといって、そのままストリートパフォーマンスを仕事にしようとしたらどうなるだろうか。それは当然、両親は反対するだろう
2020年の今となっては、にじさんじライバーはリアルイベントをやり、ライブをやり、テレビにも出たりとある意味夢のあることをしている。しかし、当時は2018年の8月だ。樋口楓が受けたイベント案件といえばニコニコ動画主催の超会議の「超バーチャルYouTu"BAR"」や「にじさんじの部屋~でろーんとおしゃべり編!~in ニコぶくろスタジオ【ゲスト:中音なた】」などがあったが、これらのイベントをバーチャルYouTuberをライフワークにできるという証明に使えただろうかというと、疑問が残る。

この案件数は当時一番多く案件を受けていた月ノ美兎と比べてしまうと少ないように見えるが、樋口楓はこれでもにじさんじ内では案件を多く受けていた方である。
単純に、いちから株式会社やにじさんじプロジェクト、もっと言ってしまえば「V界隈」自体の規模が今と比べれるととても小さかったのである。

2020年の今では、多数の企業の撤退があるとはいえどもそこまでの脆さを感じない「V界隈」ではあるが、2018年はまだまだ業界自体が先行きが全く見通せない危うさを帯びていた時期である。

親ならどう考えるだろうか。自分の大切な娘が、先行きの見通せないよくわからないことを仕事にしようとしている。当然、許可できないだろう。そして、何より樋口楓は「にじさんじ公式バーチャルアイドル」としてデビューしたときから両親やいちから社、また所属ライバーたちに「自分の活動は夏までである」と伝達していた。「樋口楓は8月末まで」というのは、大きな流れだった。そう、まるで大きな河の如く、逆らうのが困難なほどに既定路線だった。

その大河の流れを変えたのは、いちからのスタッフであり、おそらく月ノ美兎をはじめとしたにじさんじライバーからの「卒業しないで」という引き留めだったのだろう。

転機のひとつは、「月ノ美兎の夏休み ~課外授業編~」というリアルイベントだった。
この月ノ美兎のリアルイベントで樋口楓はゲスト出演をしたわけだが、このイベントのリハーサルや打ち合わせの中で、樋口楓はいちからの社員から「ライブイベントをやりませんか?」と言われたという。

まだ8月卒業が既定路線だった時期のことである。いちからの社員の言葉に、「卒業しないで続けませんか」という想いが込められていたことは間違いない。
そして、こういったいちから社員からの引き留めが無ければ樋口楓は引退していただろう。なにせ、本人はデビューしたときから「私は8月まで」と宣言しているのである。もし、いちから社員からの引き留めが無ければ樋口楓としては「やっぱり続けたいです」と言うことは難しかったに違いない。

その後、いちから社員からの引き留めや、大親子喧嘩の果てに樋口楓は8月末の卒業を撤回し、今も活動をしてくれている。

卒業を引き留めたいちから社員、喧嘩の末に活動継続を認めてくれた樋口両親、そして、樋口楓の帰る場所を作ってくれていた同期や後輩のライバーたちのどれか一つでも欠けていたら樋口楓はすでに過去の存在となっていただろう。

「KANA-DERO」という鳴り響いたRevolution

樋口楓に8月末引退を撤回させるキッカケの一つになったであろう1stソロライブ「KANA-DERO」は、そのライブタイトルを冠したシングルCDに収録された「響鳴」という曲の歌詞通りに「革命の旗を掲げ」て、「Revolution(革命)」を起こした
即ち、「音楽」をバーチャルYouTuberのメインストリームに引きずり込ませたのである。

もちろん、「KANA-DERO」以前にもバーチャルYouTuberによるライブイベントは存在した。代表的なものとしてはキズナアイ1st Live『hello,world』があるだろう。とはいえ、偉大な先駆者がいたとしても続く者がいなければ、それは持続しない。樋口楓は、箱トップでは無く、偉大な先駆者ほどの圧倒的な知名度も存在しなかったが、ソロライブを開催した。

樋口楓の1stソロライブは大成功だった。

これはもう間違いない。あの当時、多くの人がKANA-DEROを見て感動した。この樋口楓のソロライブの成功により、にじさんじはその後多くの音楽ライブイベントを開催するようになり、にじさんじ外のバーチャルYouTuberたちも音楽ライブイベントを行うようになった。

この「KANA-DERO」というライブは樋口楓にとっては当然「転機」だったと思うが、Ⅴ界隈全体としても「転機」だったと言っても過言ではない。

「KANA-DERO」のBlu-rayはにじさんじ公式オンラインストアにて現在絶賛販売中である。7,000円という価格は決して安くはないが、2018年のバーチャルYouTuber界隈の空気を閉じ込めたタイムカプセル的な雰囲気のある、間違いなく”買い”の1枚である。


そして、メジャーデビューへ

1stライブを2019年の1月に成功させた樋口楓は、同じ年の暮れにメジャーデビューを発表した。
レーベルはバンダイナムコアーツの「ランティスレーベル」だ。
ランティスといえば、樋口楓がデビュー当初から好きを公言していたラブライブ!の音楽部門を管轄する音楽レーベルである。さらに、それだけではなく「KANA-DERO」の翌日にランティス所属のJAM Projectさんのライブが同じ会場であったので下見ついでに樋口楓のライブを所属スタッフがたまたま見ていたのがランティスである。

樋口楓本人も「不安だった」と言っていた通り、ソロライブからやや時間が空いて動きだしたメジャーデビュー計画は無事に発表まで漕ぎつけ、発表が行われた瞬間の両国国技館は観客たちの歓喜の歓声で満たされることになった。

無名のベンチャー企業が開発した配信ツールアプリのテスター兼広報のアルバイトに軽い気持ちで応募した樋口楓という一人の人間は、音楽レーベルでメジャーデビューをし、アーティストとしての活動をするまでに飛翔したのである
2020年の3月にはメジャー1stシングルが発売され、12月にはメジャー1stアルバムが発売される。


「樋口楓」という名の彗星が描く軌跡のこれから

さて、樋口楓は2018年の1月31日にTwitterに現れ、2月8日に声を発した。
そして2019年の1月12日にソロライブを成功させ、2020年の3月25日にシングルと共にメジャーデビューを成し遂げた。
2018年の1月にはただの一般人だった人間が、一年後にはライブをし、二年後にはメジャーアーティストになっている。
樋口楓には似合わない表現だが、あえてそう表現するとすればとてつもない「シンデレラストーリー」だろう。

しかし、樋口楓の軌跡はこれで終わりではない。
樋口楓の軌跡は、これから先も続いていく
そして、何よりもこれからが本番だろう。

メジャーアーティストはそれこそ星の数ほど存在する。
その中でいかに輝きを放つかが今後はより一層重要になってくるだろう。

そして、メジャーの荒波を渡り、更なる軌跡を空に描くには私たちファンの声援が欠かせなくなってくる

三部作構成のうち、二つ目の記事では樋口楓の配信からうかがえる性格などのパーソナルなことについて取り上げる。

引き続き読んで頂けると幸いである。


第二部「パーソナル篇」

第三部「樋口楓とファン篇」




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