20.住宅は日射取得よりも日射遮蔽が大事

みなさん、こんにちは。

日射取得と日射遮蔽に興味はありますか?

私は年間80軒程度の住宅を取材する仕事をしていますが、この2つが住まいの心地よさを大きく左右すると考えています。

日射取得とは、文字通り家の中に日差しを取り入れること。これにより冬暖かく、明るい家を実現できます。家は南向きに開くことが良しとされますが、この日射取得が重視されているからです。

一方の日射遮蔽とは、その逆で家の中に直射日光が入らないように遮ること。

特に夏の熱い日差しは家の中の温度をぐんぐん上げてしまうため、庇を伸ばして室内に直接太陽光が入らないように遮ることが重要です。

特に低い高度から射し込む西日は、夏場に室温を上げてしまうため、西面には窓をなるべく設けないのが基本です。

直射日光は必要なのか?

日射取得と日射遮蔽。この相反する要素を両立させることが設計において重要ですが、それは無理があるなと感じます。

どっちも同じように得ることはできないので、私はどちらを重視するのか優先順位を決めた方がいいと思います。

では、日射取得と日射遮蔽、どっちを重視すればいいのか?ですが、私は日射遮蔽がより重要であると考えます。

なぜなら、住宅の断熱性能はどんどん進化しており、日射取得に頼らずとも冬に暖かい家を作ることが可能だからです。

しかも冬は日照時間自体が短いため、それほど多くの直接光を享受できるわけではありません。

一方の夏ですが、地球温暖化により30年前と比べて猛暑日が増えています。日照時間の長い夏の日差しを取り込むことは、家をオーブントースターにしてしまうことに他なりません。

いくら断熱性能を上げても、夏場の強い太陽光をまともに取り入れてしまっては、冷房効率が悪くなり電気代が嵩みます。

以上が、私が日射遮蔽を重視する理由です。

では、どうすればいいのか?

日射遮蔽を重視するというと、「なんだか暗い家になるのでは?」と心配になる人もいるかもしれません。

そんな方は、雨や曇りの日を想像してみてください。曇りの日は直接日光がありませんから、窓からの光は方位の影響を受けなくなります。

しかし、上手に窓が設けられている家は、曇りや雨の日でも程よく明るい光に包まれるものです。

何が言いたいのかというと、太陽光が直接入ってくる南側ではなく、一年中曇り空と同じ安定した光が入る北側の窓を重視して採光計画を考えれば、「直射日光を遮りつつも暗い家にはならない」ということです。

あなたはカフェに行ったときに、太陽光が差し込む席と差し込まない席、どちらを選ぶでしょうか?

冬以外はおそらく差し込まない席を選ぶと思いますし、差し込む席に座った場合はブラインドやロールスクリーンを閉めるのではないでしょうか?

暑いだけでなく眩しいことも人を不快にさせるものです。

しかし、ブラインドやロールスクリーンを閉めてしまっては、外の景色を楽しむことができません。それは、壁と変わらないように思うのです。

北側の景色はきれいに見える

さらに、南側よりも北側の方が景色はきれいに見えるものです。

なぜなら南側には太陽があるため、南側の景色は逆光になりますし、眩しくて目を細めることになるでしょう。

一方の北側は、太陽があなたの背後(南側)から目の前の風景を照らしますから、順光で鮮やかに見えるものです。

窓の取り方にセンスが現れる

セオリーに安直に従うと、南側に大きな窓を設け北側は窓を少なめに、と考えがちですが、それにより心地いいと感じられるのは冬だけになるでしょう。

直射日光を取り入れるメリットとデメリットがありますが、私はデメリットの方が大きいと考えています。

南側に大きな窓を設ける場合は、それを遮る庇を必ずセットで考える必要があります。

できれば庇ではなく、家の一部を切り欠いたような形状にして、両サイドに壁(袖壁)、上に天井があるテラスを作るのがベストだと思います。

その緩衝地帯を挟むことでプライバシーを保ちやすくもなります。

ちなみに、窓の内側でカーテンやブラインドを使って日射遮蔽をしても家の中は暖められてしまいます。外側で日射を食い止めなければなりません。

これからの住宅は断熱性能を高めるのは前提条件で、その上でどのように日射をコントロールするかということをしっかり考える必要があると思います。

「それを考えるのは住宅のプロの役割でしょう?」と思われるかもしれません。

しかし私がなぜこの記事を書いたかというと、プロだからといって日射遮蔽を重視しているとは限らないからです。

私が取材で住まいを訪問した時に、施主さんとの間でよく交わすやり取りがあります。

私「とても明るくて気持ちのいい住まいですね」

施主さん「そうですね。でも夏はめちゃくちゃ暑いですよ。晴れた日はロールスクリーンはだいたい締め切っています」

これが現実です。住んでみて体感するのは建築士ではなく施主自身なのです。しかも、それは法を犯しているわけでもないですし、欠陥でもないのです。ただ、住んでみたら思いのほか不快だった、ということです。

家は建ててからでも変更しやすいことと、しにくいことがありますが、この日射取得&日射遮蔽は変えるのが難しい部分です。

大金を払って買う家ですから、この部分はぜひ自分なりの答えを持てるように意識して建物を見たり感じたり勉強したりすることをお勧めします。

もちろん日射遮蔽を重視することは日射取得を諦めることとトレードオフです。それは体感して見なければ分かりませんから、注文住宅で前例のない設計をすることは博打のようでもあります。

「慎ましい暮らし」において、住宅購入で失敗をすることが最も損失が大きな失敗であると考えていますから、今後も住宅の話題は取り上げていきたいと思います。

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