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このRealVerseのどこかで:探してください

図書館を利用して長い。新入の司書が入ってきた。カウンターで本の貸借を行うとき、気づきを一言、二言告げてくれる。

工作が好きだというのが分かったのは、それから2年が経った頃だった。建築家-フランク・ロイド・ライト-の本を借りだしたとき、紙工作だが、「首里城」を作っていると案内してくれた。カウンターに戻り、机の引き出しから、「バンザイ鉄塔」の紙工作を取り出し、嬉しそうに語り出す。

植物も好きだと言うことが分かったのもその頃だ。ツツジを主に調べている頃、時折、植物図鑑をリファーしてくれていた。先入観があるとき、司書のアドバイスは役立っていた。

ある秋、児童書の「カヤネズミ」を借り出そうとしたとき、母が「カヤネズミ」の巣を見つけたという。確かに、カヤネズミは分布する。可愛いネズミだ。児童書に採用されることも理解できる。

思わず、(見てみたい)と呟きそうになったが、言葉を飲み込んだ。(春に現地に行き、ハリネズミの巣を確認したい)という言葉も飲み込んだ。何か言いたそうな表情に気がついたのか、司書は避けようと別のタスクに取りかかった。

夏が過ぎ、間道を走っていた。野際にハギに似た草本が道路までせり出していた。

(ハギとはちがうなぁ~)

ヤマハギを探していた。なかなか見つからない。

「カヤネズミがいるなら、付近にヤマハギはありませんか」

司書に思わず問いかけていた。

「ヤマハギの標本が欲しいのですが・・・なかなか見つからないんです」

司書は聞くだけ聞いている。カウンター業務が立て込んできた。リファーともいえない件で司書と短くない会話に周りが冷たい目で見ていることに気が付いた。資料室で別件の調べ物を始めた。

調べ終え、資料室を出たところで、司書に出会った。くぐもった表情だ。気になった。

「ヤマハギの標本はいいですよ。プライベートなことなので」

司書は応えず、歩き去った。

翌々日、早急に借り出したい本があった。昨夜、借り出し予約をしていた。ちょうど移動図書館の稼働日だった。図書館で受け取ると電話で告げていた。しかし、連絡不足か、行き違いとなった。

図書館のカウンター付近で途方に暮れていると、司書が事務室から出てきて話しかけてきた。

「ヤマハギではないですよ。マルバハギですよ、この辺にあるのは」

『植物図鑑』を携えていた。

「昨日、マルバハギを持ってきています。来られてよかったです」

司書は貸出カウンターでマルバハギを花瓶に活けていた。事務室に立ち返り、新聞に包んだマルバハギを持ってきた。

「どうぞ」

司書ははマルバハギを手渡すと、事務室に戻っていった。

選び出した3冊の本をカウンターに持って行った。

「移動図書館に配架していただけますか」

すぐ拒否られた。(なぜ・・・)疑問に思ったが、おとなしく従った。プライベートのような案件を持ち込むな、静かな声が聞こえて来た。

確かに、ヤマハギは里にはあまり分布しない。山際まで出かけないと見つけられないかもしれない。ヤマハギを時に探すようになっていた。

※もらったマルバハギは花が終わりを向かえ、もうタネが実っていた。そのタネを採取し、冷凍庫に保存した。翌春、10粒のタネを植えると、1粒だけ見事に芽を出した。今も成長し、夜にはすぼむ様に葉を閉じる。

一件以来、図書館でなかなか話す機会がなくなっていた。私事を持ち込むなというモードが深く残っていた。次第に他地区の図書館を利用するようになっていた。(迷惑をかけてはいけない)

しかし、1年に迫る時、その図書館にしかない蔵書が出て来た。思い切って借り出しに出かけた。図書を受け取り、その本のNDC(図書分類記号)を見ながら分類されている棚の本を数冊ブラウズした。

借り出す本が見つからないまま、玄関へ向かう。入り口付近で司書が『植物図鑑』を持ってきていた。以前、『植物図鑑』を確認したいと申し込んでいた。すでに借り出し手続きを済ませているという。『植物図鑑』を受け取り駐車場に向かう。

借りた『植物図鑑』を開くと、本の間に1枚の紙が挟まれている。紙には「RealVerse」とだけ書かれている。(聞き慣れない、始めて聞く言葉だ。(Verseとあるので、ネット上にある世界か)※現在でも、そのようなサイトはありません。

RealVerseにアクセスした。実物そっくりの世界が広がっていた。

GoogleMapから自動で地図を読み取り、AI変換して、実物そっくりに再現する。3Dの世界だ。RealVerseの中に入り、歩くと、まるで散歩しているような感覚になる。

街を散歩するように歩いて行くと、建物もユーザーの動きに併せて変化して行く。もうリアルな空間の再現だった。(RaelVerseか)呟いていた。

ユーザーの写真を3枚送信すると、リアルなアバター/フィギュアが作成される。もはやアバター/フィギュアと言うものではない、本人がそこにいるような感覚に襲われる。※本人である必要があるかどうかは別。このアバター/フィギュアはAIで作られ、動作している。言葉使いもまるで本人のようだ。言語AIと本人とのやり取りから学んでいるようだ。



やがて、司書とマルバハギが咲く山際で出会うことになる。

司書のまなざしが「マルバサツキはここです」と言っている。