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三竹士スピン:満月下の波留

*時代考証は無視しています。

太秦からやってきた大道具組が瞬く間に竹林の中に湯舟を作った。現代のものとも違い、奈良時代のものとも違う。監督と脚本家の話し合いで設定されていた。

波留は斎王役とともに禊が必要だった。その禊の一つとして湯あみが行われる。そのための舞台が設定された。撮影は夜行われた。

警護役のタレントと若じぃが、撮影スタッフの指示に従って、構図上の位置を示され、スタンバイした。それほど説明されることもなく、雰囲気を壊さないようにこまごまと注意を受けた。あらかじめ、若いタレントが模擬役として撮影シーンを撮った。

監督の指示が出て、波留が数名の女性に付き添われて撮影場所に現れた。男性スタッフは仕事上ざわつくことはない。静かに波留が立ち位置にスタンバイした。

台本を読みこなし、演技方法も監督の指示通りをマスターしていた。月明かりの中、粛々と撮影が行われ、撮影終了の合図が伝わってきた。警護役のタレントと若じぃは緊張を解せない。波留とスタッフが立ち去るを待っていた。

撮影が終わり、「カット」の合図が伝わってきた。波留の禊シーンが撮影終了した。ほんの一瞬だった。波留が竹製の湯桶で立ち上がった時、小さく「アッ」と漏らした。皆が振り返った。反射的に警護役のタレントと若じぃも振り返った。

波留は内衣(ないえ)を着ていたが、湯で内衣が体に張り付いている。波留が天を指さしている。見ると、素直に伸びた竹の穂先が軽く揺れ、満月がくっきりと輝いていた。波留はあまりにもくっきりとする満月の輝きと竹の穂先の絡み具合に感動したらしい。

三瞬の時を終え、皆は我に返り、仕舞い支度をこなしていった。若じぃは何が起こったのか考えることもうろつき、満月が周りを照らす明かりにとけていった。竹林をわたるそよ夜風が透け取りぬけていく。

---スピン終わり