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《エピソード15・別れ。そして旅立ちの時》弱冠20歳で1000万超えの借金、鬱、自殺未遂、親との確執。からの逆転人生を実現させたリアル話。

別れ。そして旅立ち。

嫌な予感が現実となった。S子は嘘をついて水商売への道にすすんでいた。それでも、借金のあった僕はなにも言い返せず、男らしいこともできず、ただ黙るしかなかった。怒鳴りたい気持ちと謝りたい気持ちが心の中で入り混じり、それは沈黙という形になって2人の間に座り込んでいる。

時は無情で、そんな空気も忘れさせてくれた。また2人の時間が戻りつつあったあの日、今度はS子から思いもよらないことを告げられた。

壊れゆくこころとからだ

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おそらく、責任感も甲斐性も自分の中に感じることができずにいた僕は

S子を許すしかできなかったんだと思う。僕がもっとS子を守る力があったのなら逃げることもなかったし、立ち向かえる勇気さえあればよかったのに、そうではない現実にただただS子を許すしかなかったんだ。S子は、嘘をついていた後ろめたさを隠すために僕に強くあたった。決めた仕事を辞めてしまったという申し訳なさや、居酒屋で働いているという嘘を認めたくなかったんだろう。それを僕のせいにすることで、S子はS子自身の正しさを必死に守ったに違いない。

そのお互いの確認がまた、同じ日々に戻させた。昼の仕事を続ける相変わらずな僕と、“居酒屋“の仕事に出かけるS子。その形は何事もなかったかのように同じように続けられた。

でも、時が経てばたつほど愛が深まるわけでもなく、あの16歳の時に惹かれあった感覚も失い、依存と惰性のなかでなんとなく2人の生活を続けていた。こころとからだは音もなく静かに少しまた少しと崩れていたのかもしれない。

ケンカも増えたように思う。

ケンカをすることで愛を確認していたのかはわからないけど、生きる上での葛藤や悩みや妬みや憎しみなんかの人間の弱い部分の切れ端のようなものが溜まった時にケンカがあったのかもしれない。心に溜まったものを2人で吐き出すように。

僕のお金のことでもS子は憤慨していた。最愛の母親が残したお金を、僕と付き合うことでなくしてしまった後悔を思い出すたびに僕にあたる。事実であるがゆえにその度僕は黙り込んで逃げるしかできなかった。

そんなある日、S子が僕にこう告げた。

崩れ落ちた日

「キャバクラじゃ稼げないから、風俗行くことにした。あんたの借金のせいだから。」

捨て台詞のようにも聞こえた。これから始めるんじゃない。その時はもう、S子は体を売っていたということはあとから知った事実。

お互い、これからをどうするかという建設的な会話なんて一つもせず、ただただやってくる毎日をそれぞれが消化していくなかで、自分の人生がうまくいかないことを誰かのせいにする。

「自分がこうなのはあなたのせい」

「周りがこうだから私はこうなった」

というのは、今冷静になって考えてみると言い訳でしかなく、未来は白紙である以上自分で道は拓けるはず。当時はそれがわからず互いが互いのせいにして過ごしていたからこそ、「お前のせいだ」「あんたのせいだ」という言葉が飛び交ったに違いない。

だって、体を売らなくても仕事は探せばどこかにあったのだから。

それでも僕は「僕のせいだ」という事実からは逃げることができず、それさえも許そうとした。“僕のもの“だったS子の体が誰かのお金に交換されてしまうことに体中が感じたことのない違和感で溢れたけど、どうしても完全に反論できない僕がそこにはいて何かを発言することを躊躇っていた。

「風俗・・・そっか・・・」

きっとS子は僕にSOSを出していたんだと思う。落ちてゆく自分に手を差し出して欲しかったからこそ、S子から告白したんだと思う。

「あんたの優しさは、人を傷つける」

前に言われたS子からの言葉。その言葉通りに僕はまたS子を許してしまった。“許す“という優しさがその時もS子を傷つけていたのに・・・。

そして・・

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僕はそれから何日か後にS子に別れを告げた。S子にあげた“傷つける優しさ“は、あの日から僕を毎日悩ませた。許すことがよかったのか、やめてくれと止めた方がよかったのか・・・。

答えのない出口。なにも変わらないS子と僕。悪化していく日々。それをテーブルに並べた時、それが終わりのない円を作っていることに気づいた。ラットレース。同じことを何度も繰り返すことで僕たちは終わりのないストーリーの中にいて、自ら出口のない場所へと向かっていたんだ。

怖かった。依存を断ち切るのは怖かったし、日々がなくなるのも怖かった。それでも僕は初めてS子に対して“傷つけない優しさ“をみせたかもしれない。

それが、S子との別れだった。

「なぁ、S子。ごめんだけど家、戻るわ。」

その必死に出した投げやりの問いかけにS子は・・

続きはまた



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