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人生に乾杯 14(病気、自己責任、そして愛)

成田病院での日記に戻る。

8月31日(月)の欄に「病気になったのは自分のせいか」という言葉がある。「それとも、病気になったのは病気のせいで自分は悪くないのか」と続く。その後を少し長いが引用する。

「今日(註、8月31日)、高橋幸宏(さん、元Yellow Magic Orchestraメンバー)が8月初旬に脳腫瘍と診断され、術後も後遺症のないことがニュースになっていた。当人は『ご迷惑をおかけし…』とコメントしていた。これは(新型)コロナ感染した芸能人、ニュースキャスターがごめんなさいするのと同じ心理的状況だ。そこに自分も同意する」。

「しかし、とっこ(妻)は違う。『悪いのはあなたではなく病気、子どもたちも分かってる』という。米国暮らしが長いせいで、個人に比重があるのか?『病気になったのは自分のせい』は、その先に自己責任論がある。これは自明だ。そして『(新型)コロナになったのは自分のせい』と答える日本人が、他のOECD諸国と比べて圧倒的に高いこととも共通する。それでいいのか、とも思う」。

「とっこが乳がんになった時(2018年)、彼女は『ごめんなさい』とは言わなかったし、俺も言うことを要求しなかった。そんな気はさらさらなかった。娘や息子が病気になったとしても、ごめんなさいとは言わせないだろう。そうだ、高橋幸宏の『ご迷惑をおかけし…』はやはり違う」。

日記にはないが、執筆前の夕食前には、実はまだ迷っていた。自分の頭にオプチューンが24時間くっ付き不便な生活に入ってしまうことが決まったころだったので、ビデオコールで妻に「子どもたちにやっぱり謝った方がいいかな。だって頭にこんなの(と手で頭を覆って見せる)着いちゃうんだよ」と、声が裏返って泣きそうだった。彼女からは「うーん、いいんじゃないの?子どもたちは、あなたのせいじゃないって分かってるから」と、こちらもスクリーン越しの顔が歪んでいた。

今になって調べると、今年夏前に各メディアが「新型コロナにかかるのは自業自得か」とするニュースを、大阪大学社会心理学専門、三浦麻子教授のリサーチをベースに流していた。リサーチ結果は次の通り。

コロナ感染は「自業自得だと思う」という項目に「(どちらかといえば、やや、非常に)そう思う」と答えた人は、米英で1 - 1.5%なのに対し、日本は11.5%。同じく調査対象国のイタリアは2.5%、中国4.8%で、やはり日本より低い。

一方、「本人のせいだとまったく思わない」は英国で60.7%、米国54.8%、中国47.7%、イタリア44.7%。対する日本は24.5%、かなり低かった。

結果を受けて三浦教授は、「東アジア諸国では、自分の存在を周囲との関係の中で定義づける傾向が欧米文化圏よりも強いので、周囲との調和を尊ぶ傾向があります。そういう雰囲気は、いわゆる「同調圧力」のようなものをもたらしやすいです」「政府が強硬な方針を打ち出さず、ただ自粛しろというだけなのに、秩序がある程度保たれている面もある。この国民にして、この政府あり、といったところ」「『自粛警察』のようないささか行きすぎた事例が発生したときにも、『私はいいとは思わないが、皆はいいと思っているんじゃないか』と思いやすいかも」(2020年7月12日、The Asahi Shimbun Globe+)と、話している。

自分に失語症が出た時に住んでいたシンガポールでは、家族に謝ろうと全く思わなかった。診断がまだ付かなかったこともあるだろうし、日本人以外が圧倒的に多い周囲の環境のせいかもしれない。自分が脳腫瘍だなどと思いもよらなかった頃だ。今はどうか。これも周囲の逆の環境が自分に影響を与えて、まだ迷っている。翌9月1日の日記にこうある。「決意表明」みたいなものか。

子ども2人へ。自分を父親と認めてくれてありがとう。生まれてきてくれてありがとう。心から感謝している。子どもは親を選べないと言うけれど、君たちは僕らのところに来てくれたではないか。その導きに報いるために、僕らは無償の愛情を注ぐ。それでいい。

とっこへ。こんな自分を今でも夫も認めてくれて、愛してくれて、ありがとう。自分の心の底から愛しています。

(写真は2019年11月28日、ボルネオ島コタキナバル沖離島で、シンガポールで仲良くなった家族とサイクリング。続く。)