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人生に乾杯 24(Optuneのこと)

2020年末、ある医療団体のビデオ・インタビューを受けた。僕をメンバーに迎えてくれた #JBTA友の会 という脳腫瘍ネットワークのクローズドサイトがあり、そこに別の団体から「脳腫瘍患者で現在動ける人」との条件でインタビュー募集があり、応募した。医療団体から、僕が使っている脳腫瘍用 #Optune (別名「ノボTTF」)について製品名はもちろん、製造元Novocure社、TTF(tumor treating fields、電場療法とも)という名称も出さないで欲しいと事前に要請されていたので、当日会話中はそれに従った。が、内心では納得がいかなかった。

ブランドが力を持ち、一般化する道筋を想像してみる。どんな製品も、製品の一般名詞よりも先にブランド名が来る。スマホしかり、デジカメしかり。今は誰もが使うBluetoothイヤホンやiPhoneで音楽を楽しむのも、SONYのWalkmanが1979年に発売され「ポータブルって楽しい!」と誰もが気づいたのがその源流だ。その後「ウォークマン」というブランド名が世に広まり、一般名詞のようになり後発製品も相次いだ。当時は「松下電器のウォークマン」という言い方が通ったものだ。特に消費者(例えば僕のような「患者」)が使うものほど、初発時にはそのブランド力が推進力を左右する。ただし、これはアト知恵でしかなく、最初は想像すらできない。

医療器具も同じ。Optuneは世界を見渡してもNovocure社(登記はイスラエル、実質本社は米国)しか作っていない(らしい)ので、さらに劣勢だ。ひと月に1度面会する日本の技術者が、僕の器具装着率を成績(%)で出したり、こちらの質問を受けたりしてくれるのだが、彼女が「日本のメーカーが作ると小さくなったりするんでしょうけど…」と話すように、器具は確かにごついし、振動や湿度に敏感すぎて扱いづらい。主な仕様は次の通り。

・バッテリー(1本約1.25キロ)と弁当箱より大きいTTF発生装置セット                                  ・バッテリーから頭に延びるコードとコード用カバー                   ・専用バッグ(肩掛けとバックパックの2種類)                               ・頭に24時間365日電場を発生させるアレイ               ・アレイを貼るために頭髪をあらかじめ剃毛する必要あり

この装備一式は外へ出ると隠したくなるし、いや、無意識のうちに今でも服やマフラーで隠している。最近は、春が近くなったせいで意識して買い物の時はコード用カバーをはずしている。

医療団体とのインタビューでは、「辞める気はない」と言い切った。なぜ?と聞かれ「家族のために生きなければいけないから。それが希望だから」と答えたのを覚えている。かみさんからは「治療法があるだけラッキーだと思いなさい」と言われてるし、辞める訳にはいかない。

Optuneの利用・認知が広がらない理由はなんだろう。「そりゃ年間3000人しか(悪性の膠芽腫は)全国で発生しないからでしょう。これ(Optune)を使える人はさらに絞られるし、保険収載だって3年前だから」とは、前号でも紹介した主治医の田部井勇助医師。Novocure社の技術者(前述)も、国内では200人程度が使用するに過ぎないと残念がる。「パンフレットにもモデルに日本人が起用されるケースはほとんどないでしょ? 国内では誰もモデルなんかやりたがらない。体力的にできる人も少ないし、特に女性は始めても『もうやってられません』ってすぐ辞めちゃう」と田部井医師。ハゲになることがネックになるらしい。

嫌だけど、自分で「日本人初」のモデル役を買って出るしかないのかなぁ。

(写真右は2021年1月27日、自宅で。左は昨年10月7日のOptune装着初日のブログから。続く。)