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人生に乾杯 16(医療費に関すること 2)

以前、医療費に関することをこのブログで紹介した。本号はその続きになる。

シンガポールに移住した2012年当時、外国人である我々家族は外国資本のプライベートの保険に入る他、選択肢がなかった。2015年を過ぎるころからNTUC(National Trade Union Congress)というシンガポール地場の半官半民会社が加入制限を永住権(PR)保持者から就労ビザ(EP)保持者にまで対象を拡げた。正式名称は、NTUC Income Insurance Co-operative Limitedである。入国当時は2年ほど続けて民間保険を購入したが、高額だったことから家計負担を考えて止めてしまった。しかし、妻の乳がんを機に直後の2018年後半から僕と子ども2人の計3人(年間計数千SGD)がその恩恵に預かってきた。一度病気になった妻は入れない。ここは日本と同じ。

(註、就労ビザそのものは、毎月得られる収入の多寡で複数に区分される。 Employment Pass(EP)と言われる区分は最も高い給与層で、日本人を含めた外国人駐在員のほとんどがこの区分。S-Passなどと呼ばれる区分の場合、主にシンガポール周辺国から来た建設労働者などが該当する。S-Passホルダーはessential workerと呼ばれマンション(コンドミニアム)やダム建設、川の浚渫などに従事し、国家建設上極めて重要視されるが、島内40か所余りの集団生活に押し込められ、残念ながら新型コロナの感染拡大に大きく寄与してしまった。就労ビザの区分けについて、詳しくはシンガポールMinistry of Manpower参照。)

シンガポール民間保険の要点としては、外国人(いわゆるEP保持者)の場合プライベート病院の部屋に入所可能で、その全額が後で還付されること。で、何日入院(inpatient)しようが全額が後で還付される。この部屋が高級ホテル並みに大きく、最初は驚いた。保険会社側には「架空の入院」詐欺に対処するだけの能力(人財)を備えているし、そもそも駐在外国人には病院に何日も入っていたい人などいない。

逆に言えば、条件面ではSingapore General Hospital(シンガポール総合病院)のような公立病院には入ることは不可能ではないが、SGHに入る駐在外国人は極めて少ない。そもそも政府管掌保険がないのでSGHには国籍保持者が患者として極めて多く来所し、列を成している。外国人は行っても門前払いになりそうだ。ここはシンガポールの医師事情も反映していて、若いうちはSGHや公立病院(polyclinic)で修行を積み、その後独立やプライベート病院に移り著名医師としての階段を上がる。例えれば、目抜き通りのOrchard Roadに面するParagonなどに入居する医師はほんのひと握り。プロ野球で一軍に残るほんの一握りの選手のようなものだ。残る人々は「up or out」(「昇進しなければ辞めろ」)よろしく、街場の開業医(General Practitioner)に流れていく。

保険では、いわゆる外来(outpatient)患者の費用は保険ではカバーされない。歯医者(dentist)も網羅されない。ここも皆保険システムが入っている日本とは違う点だ。

シンガポールでは他に、米系保険会社の医療保険にも入っていた。損害保険というよりは生命保険に近いので、NTUCとダブりを気にする必要はなかった。ところが、こちらは僕が大腸がんにかかった直後に別の問題が発生して保険会社と揉めてしまった。和解の結果、支払った額より少し多いくらいが返ってきたので幸いだった。

単純明解なシンガポールのシステムに比べると、日本のそれは複雑怪奇だ。まず帰国時、「限度額適用認定」が何のことだかさっぱり分からなかった。高額医療費を支払う際、月ごとに一定の上限以降は税金で負担してくれる制度。区分が5つに分かれていて、さらにそれぞれが細かい規定で縛られている。僕のように超高額医療にかかる人には有難い制度だが、計算が細かすぎるのだ。これでは「利用者泣かせ」の批判も、あながち否定はできない。

本ブログ前回の「医療費」執筆中、医療費の内訳を細かく出そうかと思い、計算した紙を手元に残している。ブログに載せてもいいものか妻に相談したら、一瞬考えた末、「やめといた方がいい」と薦めてくれた。理由は簡単で、日本でさえ保険適用範囲が人それぞれ異なる上、我々家族は7月までシンガポールでプライベートの保険に入っていて、ひっくるめると還付金がかなり異なり、あまりに不公平感が出る、というのがその理由らしい。

(写真は2020年10月21日、国際医療福祉大学三田病院の案内票。続く。)