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人生に乾杯 23(田部井先生のこと)

脳腫瘍の主治医は田部井勇助先生。国際医療福祉大学三田病院の脳神経外科医だ。1月6日は今年始めの診察。無事に診断を終え、病棟2階の外来化学療法室という専用室でアバスチン(分子標的薬)の点滴を待っていると、同じ病棟1階にオフィスを持つ田部井先生が駆け込んできた。三田病院は大きいのだ。

ソファに座る僕のところへ駆け寄ってきて「すみません。さっきの話なんですけど…」と切り出した。「さっきの話」で思い浮かぶのは、同じ日の診断直前に撮ったMRIの画像が「良好」で、自分が成田病院を退院後に脳に残っていた残滓が、今回はかなり綺麗になっていたことをだった。もしやその誤診?

話を聞いていると、そうではないことが分かりホッとひと安心(なにしろMRIのある日は、数日前からドキドキする)。実は、MRI画像診断の時に画像の右上に出る名前のスペリングが「SATOU TUYOSI」、自分のパスポート表記「Sato Tsuyoki」と違うのが気になり、昨年10月以来2回目の指摘をやんわりしたことに端を発していた。化学療法室での先生の話を要約すると、使用する米国GE社の画像ソフトが漢字から勝手に読み替えてしまうということだった。急患にも使用するシステムで、一旦患者の名前を訂正すると、きりがなくなってしまうという。病院の患者データベースとは紐付いておらず、画像だけのことと思ってほしい、とのこと。なーんだ、そうか。

それを見ていた部屋の看護師にそんな会話は聞こえず、逆に僕が退室する時に向こうから声を掛けてきた。「さっきの方、主治医の田部井先生ですよね?大丈夫ですか?」と、こちらの体調を慮って心配そうだ。事情を説明し付け加えた。「あの先生ホントに優しい方なんですよ。この間も、頭に着けているアレイ(Optune)の注文票を僕がリマインドしそびれたので、ここへ来るまでに1階に戻り『後で戻るからと先生に伝えてください』って伝言頼んだのに、ここで点滴している最中に慌てて本人がやってきて『すみません!』って」。看護師はみな「すごーい!」と驚いていた。

(アレイの注文システムを少し説明すると、月の支給は10セット(1セット4枚)。通院2回につき1回、つまり4週間に1回は主治医の先生からメーカーのNovocure社へ注文してくれるのが通常のパターンになる。ファクスで注文するところは、この時代にあってご愛嬌。普段はこちらがリマインドしなくても田部井先生が注文してくれるが、この時はたまたまお互いが忘れた。)

田部井先生はとにかく優しい。系列の成田病院に入っていた昨年、お世話になったリハビリの理学療法士で先生を知る人がいて、「あの人はなんでもこちらの言うことを聞いてくれる。とても親切」と評し、まだ会ったこともなかった僕を安心させてくれた。

毎回病院に行くのが楽しみになる先生って、いい。

(田部井先生のご紹介にあたってはご本人から了解をいただきました。大腸がんの肺転移腫瘍を担当する先生もいい先生ですが、こちらの受診は6週間に1回なので、ご紹介の可否をまだ伺っていません。写真は2019年4月1日、コタキナバルのガヤ島で。続く)