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さぁ、Mr.Childrenの「ロック」を食らえ

【Mr.Children/『重力と呼吸』】

前作『REFLECTION』から今作のリリースまでの約3年半の期間、Mr.Childrenは、長いバンド史を振り返っても異例のハイペースでライブ活動を行なってきた。

中でも、デビュー25周年を記念したドーム&スタジアムツアー「Thanksgiving 25」は凄まじかった。

"innocent world"、"Tomorrow never knows"、"シーソーゲーム 〜勇敢な恋の歌〜"、"名もなき詩"、"終わりなき旅"、"Sign"、"GIFT"、"HANABI"、"エソラ"、"365日"、"足音 〜Be Strong"、そして"ヒカリノアトリエ"。

どれだけ日本の音楽シーンを振り返っても、日本国民、世代を問わず誰もが口ずさむことのできる楽曲を、これほどまでに数多く有するロックバンドは他にいない。

特に、多種多様な音楽がとてつもないスピードで消費されていく昨今の音楽シーンにおいて、当たり前のように、そして同時に確かな説得力を持って、僕たちの日常に寄り添ってしまうMr.Childrenの「ポップ」の力は、やはり偉大だ。

これまでの彼らの作品の多くは、徹底的な構築美の上に成り立つ「ポップ」な作品としてリリースされてきた。(その多くは、長年彼らと並走したプロデューサー・小林武史の手によるものだった。)

そして、そのようにして丁寧に届けられた数々の楽曲たちが、リスナーと空間を共にするライブ会場においては、極上のロック・フィーリングを放つ。だからこそ、Mr.Childrenのライブはいつだって特別だった。

しかし、今作『重力と呼吸』はどうだろうか。

この作品から感じたメンバー4人の熱量や、瑞々しい感情の躍動は、決して僕の気のせいではないと思う。

はっきりと言ってしまえば、彼らがこれほどまでにストレートに「ロック」に接近したアルバムは今作が初めてである。

もちろん言うまでもなく、Mr.Childrenは日本が世界に誇る屈指のロックバンドだ。それでも、今作に宿る極めて「ロック」的なバイヴスの初期衝動は、どこまでも純真な輝きを放っているからこそ、やはり新鮮である。

デビュー26年目を迎えたこのタイミング、そして「ロック」が全世界的に求心力を失いつつあるこの時代に、真正面からバンドサウンドを打ち出してくるとは思っていなかった。そしてだからこそ、彼らの堂々たるロックバンドとしての佇まいに心が震えた。

一言で「ロック」と表したが、80年代ビート・パンク調の"海にて、心は裸になりたがる"や、"フェイク"を彷彿とさせるダーク&ダーティーな"addiction"など、曲によってテイストは様々である。

そして、昨年シングルとしてリリースされたロック・バラード"himawari"。「生と死」「一瞬と永遠」の間を巡りゆく想いを、鮮烈なバンドサウンドを通して昇華させたこの曲で、Mr.Childrenは何度目かのキャリアハイを更新してしまったと僕は思う。何度聴いても、胸の内の高揚を抑えきれない。

そして『重力と呼吸』が恐ろしいのは、歌、言葉、メロディ、バンドアンサンブル、それら全てのピースが「ロック」という思想(もしくは、気分)のもとに組み合わさっているにもかかわらず、総体として「ポップ」の浸透力を得てしまっているということだ。

どのサウンドも優しい肌触りであり、どの言葉も、毎日の喜怒哀楽の感情を丁寧に切り取っている。

だからこそ今作も、これまでの彼らの作品と同じように、僕たちの日常に寄り添いながら響いていくのだと思う。

普段は意識することはないかもしれないが、「重力」も「呼吸」も、日常の生活の一部だ。逃れることも、遮ることもできない。それでも結局は、生きていくために、その二つの摂理を求めてしまうからこそ、僕たちの日常は続いていく。

楽しいことや嬉しいことばかりではない。僕たちは、迷い、怒り、そして哀しみを避けて毎日の生活を過ごすことはできない。

それでも、今作に収められた10曲は、そんな僕たちの日常を力強く、そして優しく肯定するためのファンファーレとして鳴ってくれる。

《君と僕が重ねてきた/歩んできた たくさんの日々は/今となれば/この命よりも/失い難い宝物》("Your Song")

《苦しみに息が詰まったときも/また姿 変えながら/そう今日も/自分を試すとき》("皮膚呼吸")

「ロック」と「ポップ」のエネルギーが、互いの最高打点でクロスしたことで生まれた『重力と呼吸』。

こんな作品を作れるバンドは、Mr.Childrenしかいない。


※本記事は、2018年10月4日に「tsuyopongram」に掲載された記事を転載したものです。

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