the HIATUS、10年間の孤高の闘争史が、ここに結実する
【the HIATUS/『Our Secret Spot』】
2008年、ELLEGARDEN 活動休止。
その翌年の2009年、細美武士のソロプロジェクトが始動することが発表される。
当時、壮絶な喪失感を抱いていた僕たちにとって、それは、あまりにも輝かしい(そして同じだけ切ない)希望の報せであった。
細美武士が、もう一度立ち上がる。彼が紡ぐ新しいロックに出会うことができる。その高揚感は、10年以上が経った今でも鮮明に覚えている。
しかし、そのソロプロジェクトに「ELLEGARDEN的なるもの」を追い求めていたリスナーがいたのも、まぎれもない事実だった。(それは、ELLEGARDENのいない邦楽ロックシーンに対する不安と悲しみの表れだったのかもしれない。)
細美の呼びかけに集まったメンバーは、masasucks(FULLSCRATCH 等)、柏倉隆史(toe)、ウエノコウジ(元・ミッシェル・ガン・エレファント)、堀江博久、そして伊澤一葉(元・東京事変)、一瀬正和(ASPARAGUS)。
孤高の音楽家集団・the HIATUSの闘いは、ここから始まった。
2009年、1stアルバム『Trash We'd Love』。
孤独と向き合い、葛藤や苦悩に苛まれながら、細美は覚悟のデビューアルバムを完成させた。
1曲目"Ghost In The Rain"のイントロにおいて、言葉を失うほどに美しいピアノの旋律が鳴り響いた時の感動は、10年が経った今も忘れられない。
この国のロックの可能性は、彼らの手によって、ここから色鮮やかに広がっていく。そう確信した。
2010年、2ndアルバム『ANOMALY』。
細美が初めて大きく舵を切ったのは、この時期であった。
リスナーの度肝を抜いたのが、アルバム後半に位置付けられた"Antibiotic"、"Notes Of Remembrance"。
幽玄な浮遊感と透明感。そして、奥ゆかしくシネマティックなサウンドスケープ。もはや僕たちが想像していた「バンドサウンド」の域を完全に超えていた。
そしてその楽曲たちは、プログレッシヴ・ロック/ポスト・ロックといった既存のジャンルにも当てはまらない、圧倒的な未知性を放っていた。
2011年、3rdアルバム『A World Of Pandemonium』。
アイリッシュ・フォークのような軽やかな響きを放つ"Deerhounds"。未だかつてない鮮やかな祝祭感を秘める"Souls"。
最も特筆すべきは、今作においては、エレキギターのサウンドが(1曲を除いて)完全に影を潜めていることだ。
過去2作品で築き上げたバンドフォーマットを解体し、全く新しいマインドと精緻な音楽的技巧をもってして、一つ一つの音を重ねていく。
果てしなき音楽的探求が見事に花開いた今作において、the HIATUSは、現行のロックシーンと完全に決別を果たした。
そして、同作の楽曲たちは、ホールツアー「THE AFTERGROW TOUR 2012」において更なる進化を遂げる。
このツアーでは、ストリングスやホーン隊を迎えた計16名(+ジェイミー・ブレイク)の大編成が実現した。
ロックバンドというフォーマットからの解放。そして、幾多のジャンルの新結合。
まるで、「音楽」そのものの真髄に触れるような、奇跡の音楽体験がそこにあった。
細美は、同ツアーの最終公演において、こう告げた。
「10本まわってきて、俺は、久々に、自信を取り戻しました。」
ELLEGARDENの活動休止から、約4年。あの日、the HIATUSは、第1章の完結を迎えたといってもいい。
2014年、4thアルバム『Keeper Of The Flame』。
2016年、5thアルバム『Hands Of Gravity』。
大胆に導入されたエレクトロニカ/電子音。ストイックに磨き上げられたリズムと、未知なるスリルを放つグルーヴ。
このようにして、the HIATUSは、深遠で、透徹で、豊潤な音楽体験を妥協することなく追求し続けてきた。
今や、the HIATUSのロックに、「ELLEGARDEN的なるもの」を求めている人はいないだろう。
群雄割拠の邦楽ロックシーンにおいて、独自の確固たるポジションを築き上げ、僕たちに全く新しいロックの可能性を提示してくれた彼らの功績は、あまりにも大きすぎるものだ。
この2枚のアルバムの間に、細美の新バンド・MONOEYESが始動。そして、2018年には、ELLEGARDENが復活を果たしている。
全く異なる3つの表現のチャンネルを手にした細美は、the HIATUSにしかできない音楽を、ここからより先鋭化させていった。
そして、2019年7月にリリースされた6thアルバム『Our Secret Spot』。
晴れやかに澄み切ったクリアな音像風景。
穏やかに躍動するメロディと言葉たち。
それでいて、全ての曲に、静かな闘志、確固たる信念、真摯な祈りを宿している。言うまでもなく、今作においてもオルタナティブの精神は健在だ。
計10曲、39分間の至上の音楽体験がここにある。
ロックとは、これほどまでに美しく、しなやかで、ピースフルな輝きを放ち得るのだ。こんなにも幸福なフィーリングに満ちたアルバムは、間違いなく初めてだ。
そう、the HIATUSの孤高の闘争史が、ここに結実している。
10年前、いったい誰が、この輝かしい景色を見られることを予想しただろうか。もしかしたら、細美自身も、ソロプロジェクトがこんな形で花開くことを想像していなかっただろう。
細美は、「ROCKIN'ON JAPAN」2019年9月号の表紙巻頭インタビューで、こう語っている。
「俺たちが東北行った時に高校生の男の子に言われたのが、『細美さん、僕はthe HIATUSが日本でいちばん好きなんだ、だけどクラスの子たちにはthe HIATUSの何がかっこいいかわからないって言われるんだけど、僕はいちばんかっこいいと思うんですよ』って言ってくれたの。すごく嬉しくて。で、そういう人たちに、『俺たちが応援してるこのバンドは武道館だって埋まるんだぜ』っていうぐらいの安心感は持ってもらいたいなって」
the HIATUSは、僕たちリスナーを信じ抜いてくれた。そして僕たちも、彼らを、そして彼らのロックを心から信じ続けてきた。
こんな奇跡のような10年間が、僕はとても誇らしい。そして、同じ期間、同じ想いを抱きながら生きてきた全ての人たちと、この作品を共に祝福したいと思う。
細美は、同インタビューでこうも語っている。
「まわりを見回しても俺たちみたいなバンドは全然いないから。それは誇らしいんですよね」
その通りだ。断言してもいい、これほどまでに高い音楽性を誇るバンドは、この国のメジャーシーンにおいて他にいない。
だからこそ、彼らには、もっともっと音楽の可能性を追求し続けて欲しい。
the HIATUSの創造性を巡る旅は、終わらない。
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