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親愛なる隣人、スパイダーマン”たち”へ

【『スパイダーマン:スパイダーバース』/監督:ボブ・ぺルシケッティ&ピーター・ラムジー&ロドニー・ロスマン】

親愛なる隣人、スパイダーマン。

僕たちは、これまでに何度もスクリーンを通して彼に出会い、その活躍に心を奮い立たされてきた。

まず、サム・ライミ監督による三部作『スパイダーマン』(2002)、『スパイダーマン 2』(2004)、『スパイダーマン 3』(2007)。

このシリーズでは、既存のヒーロー映画では深く掘り下げられにくかった登場人物たちの繊細な感情の描写が高く評価され、今では当たり前となった「アメコミの映画化」の潮流を作った。

続く、マーク・ウェブ監督による『アメイジング・スパイダーマン』(2012)、『アメイジング・スパイダーマン 2』(2014)。

残念ながら興行収入の面では苦戦することとなったが、特に2作目は、涙なしには観ることのできない大傑作であったように思う。

そして、ついに「MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)」との"合流"を果たした『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)。

アイアンマン、キャプテン・アメリカをはじめとするアベンジャーズのヒーローたちとの"競演"は、全世界の映画ファンの心を掴んだ。

『スパイダーマン ホームカミング』(2017)では、トム・ホランドが演じる新生・スパイダーマンの覚醒が描かれ、彼の物語は、『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(2018)、そして、今年の公開を控える『アベンジャーズ エンド・ゲーム』(2019)、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019)へと続いていく。

こうして改めて振り返ってみると、僕たちはスパイダーマン、およびピーター・パーカーの苦悩と葛藤、そして、彼の選択とその結果について、既に十分に理解しているといえる。

こうした土壌があったからこそ、その世界観を相対的に批評した今作『スパイダーマン:スパイダーバース』が生まれ、熱狂的に受け入れられているのだろう。

この物語の主人公は、僕たちがよく知っている"ピーター・パーカー"ではない。

マイルス・モラレス。

アフリカ系アメリカ人とプエルトリコ人のハーフとして生まれ、2018年のブルックリンを生きる13歳の少年だ。

スパイダーマンの生みの親であるスタン・リーは、生前のインタビューでこう語っていたという。

「頭からつま先まで、すっぽり覆うスーツにしたのは正解だったよ。誰もがスパイダーマンになれる。アフリカ人でもアジア人でもインド人でも、あのスーツを着てスパイダーマンになった自分を想像できるんだ。」

昨年、驚異的な大ヒットを記録した『ブラックパンサー』をはじめ、ハリウッドのブロックバスター作品においても、今や当たり前のように「多様性」が重視される時代になった。

その最先端を行くのが、黒人として生まれ、様々な文化の狭間で思い悩む"普通"の少年、マイルス・モラレス。「Anyone can wear the mask.」という今作のメッセージを堂々と体現する、新たなヒーローの誕生だ。

そして、今作に登場するスパイダーマンは、一人ではない。

マイルス・モラレスの前に現れるのは、いくつもの異なる次元(ユニバース)で活躍する、それぞれの世界の"スパイダーマン"だ。

ハードボイルド風、萌えアニメ風、カートゥーン風と、様々なタッチのキャラクターが同じ画面上に存在する斬新さが堪らない。

今作に用いられたCGと手書きのタッチを融合させた新たな表現スタイルは、これまでのアニメ業界の常識と慣例を一瞬にして覆してしまうものだ。

プロデューサーのクリスティーナ・スタインバーグはこう語る。

「狙ったのは、映画を、命を得たコミックのように見せること。それと、映画の最終バージョンは、最初のコンセプトアートのようにしたいとも話し合ったわ。そういう絵はとてもダイナミックで新鮮で見ていてワクワクするから、それをきちんと画面で表現したかったの。」

今作では、通常の照明の代わりに、コミックで利用されているハーフトーンスクリーンを取り入れ、動き、空間、光や質感の映像表現に、"印刷技術"的なメソッドが転用されている。

そして実現したのが、強くエッジの効いたグラフィカルなルック、そう、まさに「動くアメコミ」だ。

ポップ・アートとしてのアメコミへの愛と敬意を爆発させながら、アメコミ映画に特有のダイナミズムとスピード感も有している。

その映画体験は、とにかく圧倒的に新しいものだった。

メッセージにおいても、表現手法においても、僕たちが生きる2019年という時代の先鋭性を鮮やかに象徴している。

今作が、アカデミー賞・長編アニメーション賞に輝いたのは、まさに時代の必然だったのかもしれない。


※本記事は、2019年3月23日に「tsuyopongram」に掲載された記事を転載したものです。

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