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【書評】お金と感情と意思決定の白熱教室: 楽しい行動経済学/ダン・アリエリー /早川書房

お金と感情と意思決定の白熱教室: 楽しい行動経済学/ダン・アリエリー /早川書房
(このnoteは2019年4月10日に他サイトに掲載した記事の転載です)


スポーツビジネスの世界に興味を持ち、

自分なりに本を読んでみたり、カンファレンスなどで有識者の方々のお話を聞いてみたり、チームのマネジメントスタッフと話してみたりなど、いろいろと情報収拾をしていく中で、

「世の中の人の動きを分析すること。人は何に駆り立てられて行動するのか。」

ということの謎について考えさせられた。

スポーツビジネスにおいては、

チケット収入、グッズ収入、スタジアムビジネスなど、エンドユーザー(最後にお金を払う人)が何に突き動かされて消費するのか。

そんなことを分析している人がいる。人の行動を分析している人がいる。

というところに行き着いた。

そして、それを学問としているのが、

行動経済学

である。

行動経済学と検索してみると、たくさん出てくる、このダン・アリエリーさん。

アメリカのデューク大学で、心理学と行動経済学の教授をしている。

今回はそんなダン・アリエリーさんのたくさんある行動経済学の本の中から、入門編といえるような本を選んだ。

特に強く、なるほど!と感じたことは下記の三点。
1 意思決定をさせられている
2 自己コントロール
3 社会的な世界と金銭的な世界

―――――

1 意思決定をさせられている

ダン・アリエリーさんの行動経済学に興味を持ったきっかけというのが面白い。

自身が全身大火傷の重傷を負った際に、最も辛かったことというのが、全身に巻かれた包帯を剥がす時だった。看護婦さんに剥がされる時、ダンさんはゆっくり剥がしてもらいたかったが、看護婦さんは「このやり方が一番良いんです」の一点張りで、いつもバッと短く剥がされており、それが本当に苦痛だったそう。

そんな経験から、「痛み」というものに興味を持ち、どんな時に人はより痛みを感じ、どんな時に楽に感じるのか、ということを、実験的手法を用いて解明していった。

そこから、看護婦の間違いを証明できるような結果が出た時に、

「誰もが信念として深く感じていることが、実は間違っている場合が多いのではないか」

という結論に至った。それにより、世の中で直観的にしてしまう行動について研究するようになったという。

意思決定について。

一般的に、生活の中での意思決定は、何か目的があってしていることのように思えるが、

世の中には、ダイエットしたくてもできない人、タバコをやめられない人、運転中に携帯を操作する人など、目的とは反した行動をとってしまう人で溢れている。

もしこれらが目的に沿っての行動であるのなら、

その人の目的は「肥満の喫煙者として、運転しながら死ぬこと」が目的になってしまう。

そんなことから、人は、目的や目標関係なしに、不合理な選択をしてしまう生き物であるということがわかる。

本の中で、実際にある不合理な例や実験の例はたくさん紹介されていたが、

例えば、最近だと身近なところでこんなことがあった。

チームパーティーの出席確認をLINEのグループ内でした時、いつもなら

「出席する人、連絡ください」

という連絡をする。すると、何もしない状態だと「出席しない」という選択をしてしまう。

出席するには連絡しなければならないというこの一手間があることで、連絡し忘れなどで、本当は出席しようとしていた人のカウントができないことになる。

一方、

「出席しない人、連絡ください」

という連絡をすると、何もしないで「出席する」ということになる。

出席しないためには、わざわざ連絡しなければならない。

もし自分が幹事として人数をより多く集めたいと考えていたら、

同じイベントにしてもどっちの方が多く出席者を集められるかは、一目瞭然である。

このように人の意思決定に変化を与えるのが、行動経済学ということだ。

自分の生活の中で(特に外に出た時)何か選択をする時、

「選択させられていないか」

ということを考えていきたいのと同時に、

人に選択を迫る時、何かを薦めたい時はその方法を工夫して人の意思決定を操作できるようになりたい。

2 自己コントロール

様々な誘惑や、意思決定をさせられる世の中で、自分をコントロールすることというのは、簡単なことではない。

ここで紹介されていたのは、

自己コントロールするための環境設定

についてである。

自分自身に対して、意思決定を誘導するかたちだ。

自分に置き換えて考えてみると、

目標を設定する。それを叶えるための習慣を決める。

そして、一番難しいところ、

「その習慣を実行し続ける」

これを実践させるために、自分で環境を作っていくのが有効である、ということだ。

毎朝6時に起きてトレーニングをするという習慣を決めたら、

その習慣を実行し続けるための環境を作っていく必要がある。

朝起きた時、寝起きでの意思決定の数を極力減らす

トレーニング着・バナナは前の日の夜に準備しておく。サプリメントは忘れないようにトレーニング場に置いておく。

自分が実行し続けやすい環境設定。自分の目標達成のために余分なことを考えずに集中させるためには、意識して環境を作っていきたい。

3 社会的な世界と金銭的な世界

人間は二つの世界に住んでいる、という。

思いやりを重視する、「社会的な世界」

金銭で物事を捉える、「金銭的な世界」

わかりやすく説明すると、

人に喜んでもらいたくて人と関わる「社会的な世界」

お金がもらえるから人と関わる「金銭的な世界」

金銭的な世界には大きな落とし穴がある。ボーナスを与えるといって今日1日の仕事を奮起させると、たしかに今日1日は頑張る。しかし、次の日ボーナスがなくなると、その成果は落ちてしまう。

一方、社会的な世界では、誰かのためになると思って今日の仕事を頑張る人は、明日も明後日も、同じように頑張る。

社会的なモチベーションと金銭的なモチベーションは、なかなか共存することは難しい。

お金という満足感を与えたいのか、人との関係性を深めたいのか。

お金が欲しいのか、自己実現したいのか。

仕事のやりがいを求めた時には、社会的なモチベーションが大切になってくる。

お金をもらうということよりも、それが誰のためになっているのかを知ることが原動力となる。人を幸せにするということこそが大事なんだという思想が、自分の心が穏やかであり続ける気がする。

最近、ワールドカップイヤーということもあってか、ほんの少しだけラグビーの普及のためのお仕事が入るようになった。そういったイベントではありがたいことにも謝礼金をいただくこともあり、前よりも金額を目についてしまうようになってきているところだった。

その与えられた仕事を金銭的なモチベーションでやるのか、新たな出会いや発見のある場と捉えて社会的なモチベーションでやるのか、この本を読んでいく中でハッと目覚めさせてもらえた。

――――――

世の中は行動経済学で満ち溢れている。

大衆を動かそうとする者は、その行動経済学を使いこなして人の動きを導いている。

自分はその流れに流されるのか。

それとも軸を貫き通すのか

また、人を動かすのか

人に動かされるのか

入門編ではあったが、社会での生き方を考えさせられた。



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