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【久しぶり、大好きだった人〜最終回〜】

21歳の頃、日本語教師としてベトナムへ渡った私は、

最高にピュアな恋をした。

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再会は、パリだった。

涙の別れから、すでに3年が経っていた。

友達の何人かがフランス近郊に留学するとの事で

私はその頃、彼女達に会いに行くため、
ヨーロッパ行きの準備を進めていた。

そんな中、彼から連絡があった。

彼もまた、フランスの大学院に行っているとの事だった。

ベトナムでの懐かしい日々がよみがえる。

「空港まで迎えにいくよ。」

と、彼。

10数時間の時を経て、私はフランスはパリに降り立った。

迎えにきてくれると言っていた彼の姿は

なかった。


空港を方々歩いて待ちぼうけ。

言葉の通じない国でさて、どうしよう、と途方に暮れていた。


すると、

見覚えのあるマヌケな顔がこちら近づいてきた。

のび太だった。

「ごめ~ん。バスが渋滞してた!」

募った不安がこのマヌケな顔で一気にふっとんだ。

バスに乗ってパリの中心街へ向かった。

揺れる車内で、お互いの3年間を振り返った。

私と彼の間には、いつも辞書があった。

ほとんど言葉は通じないのに、なぜか憎まれ口はよく叩いてガハガハ笑っていた。

着いた先は、彼の友達がシェアしている部屋だった。

ベトナム人7人程が一部屋に集まり、順番交代で毎晩ご飯を作って食卓を囲んでいた。

その日は、年下のLeちゃんという女の子の美味しいご飯だった。

「33Export」(バーバー)というベトナムビールを掲げて乾杯。

*ベトナムでは333(バーバーバー)

フランスに来たのにベトナムにいるような心地よさ。

仲間の笑顔も眩しくて、

見ず知らずの日本人である私を

ファミリーとして迎えてくれた。

パリに着いて一時間でこんなにリラックスできる居場所が見つかるなんて思ってもみなかった。

私は、そのLEちゃんの家にしばらく泊めてもらうことになった。

その子は英語はほとんどできず、言葉はほとんど交わさなかったが

一緒に暮らすたび、彼女の優しさを肌で感じた。

彼女の隣の部屋に住む子供とも毎朝遊ぶのが習慣になっていた。

のび太の仲間といつも一緒にいて、

観光したり、夜はみんなでご飯を食べてビールを飲んで歌を歌った。

パリにいるのは日中だけ。

夜はベトナムに帰ったようで旅が2倍楽しくなった。

昼間はパリ観光。

モンマントルにも足を運んで、

壁に描かれたアートや、

オシャレな墓地も巡った。(不謹慎)

アメリで有名な、

カフェドムーランにも足を運び、

のび太の昔話を聞いた。

「昔、家が貧乏だった頃、

おやつなんてもちろんなかったから

代わりに、

歯磨き粉を食べてたんだ。

これが慣れると美味しくってさ★」

え...w


オシャレなカフェで

マカロンを退けての

歯磨き粉のオススメ(笑)

ショコラショーをブッ!と吹き出してウェイターに白い目で見られても気にしていられるか。

ロマンチックな会話なんていらない。

こういう一癖ある話がなにより好物なんだ。

その日は、のび太が夕食の当番なので近くのスーパーへ買い出しに出かけた。

「ゆい、ブドウ好き?」と、聞かれ、

「うん!」

と答えるやいなや

お店に陳列してあるマスカットの一粒をブチッとちぎって

"here you are"(はいどうぞ!)

ざざざ斬新ー!

「それ、万引きって言うんやで?」と示唆するも、

「? こんなの普通だよ?

なんでも、買う前に確かめないと。

昔は、

お父さんとよく

近くの家になってるオレンジをバレないように盗みに行ったんだ。」

「その習慣が根付いてるんやね。」

と言うと、

「いや、全然違う。

あの頃、食べ物を盗んだのは

"生きるため"

今のは
"試食のため"

ベリーディファレント!」

"ベリーディファレント!"て、あーた。

黒人の警備員が見張る中で、

冷や汗握り、マスカットを口にほおりなげた。

せぼ~ん♪(美味)

のび太や新しくできた仲間に囲まれ、

パリ市内をサイクリングしたり、

公園でマフィンを食べたり、

何でもないことがすごく楽しかった。

しかし、

旅は短編小説のようなもの。

どうあがいても終わりはくるんだ。

途中、彼らの元を離れてベルギーに住む友達の所に旅に出た。

2日間、barを巡ったり、買い物したり遅くまで話したり。

新鮮な風がまた降り注いできた。

その街は #Leuven

シュールな事に、

その街のシンボルは、

なんか変な虫が針にぶっささったやつ!

そのシンボルをケロっと紹介する友達のシュールさにも私は密かにほくそ笑んでいた。

その2日間がキッカケなのだろうか?

パリに帰ると少し、のび太の様子が違って見えた。

"I missed u so much..."

寂しそうな表情を浮かべていた。

明日はパリを経つ日だ。

お土産のベルギービールとワッフルをみんなで分けて最後の晩餐。

テスト勉強で忙しい中、みんな集まってパーティーをしてくれた。

「明日、大事なテストやのに大丈夫?」

と聞くと、


"There is nothing important more than you."                                                   (君以上に大事な事なんてないよ)

みんな口を揃えてそう言って、

私の持っていたビールビンをチンと鳴らした。

涙をこらえ普段は飲めないビールを流し込む。

ベルギーにいた時、

一人一人に書いた手紙を渡し、

別れを言った。

出発の日は、

雨だった。

「瀬菜が帰るから、空も泣いてる。」

そういう事をサラッと言う真っ直ぐさに、あの頃と同じ胸の痛みが押し寄せる。

でももう、遅すぎる。

3年前で、

気持ちはしまいこんだんだ。

お互い違う土地で、

違うフィールドですべき事がある。

再会できた事に意味があったのか、

再会して良かったのか、

私は何をしに来たのか、

なにが正しいか分からない。

私も彼も、

三年前とは全く違った方向へ歩き出していた途中に、

運命の線が一瞬交わったんだ。

そしてまた、元いた場所へ帰って行く。

空港で別れ際にハグ。

その時、

すごく、

すごく

小さな声で、

 "Je t'aime" ((ジュテーム))

と、囁かれた。

そんな気がしただけなのか、

ほんとはどうなのかわわからない程、

小さな小さな声だった。

そしてまた、いつもの友達スマイルでバイバイした。

彼と出会って、

もう13年が経つ。

今も彼とはいい友達だ。

私と彼には、

何もなかったが、

「何か」があった。

昔、大好きだったドラマ #Longvacation で、

こんなフレーズがあった。

「男女の友情とは、

"すれ違い続けるタイミング"

もしくは、

"永遠の片想い"の事を言うのです」

言い得て妙だ。

彼とは、前者なんだと思う。

彼には、フランスで恋人が出来て、結婚も考えているらしい。

おめでとう
おめでとう
おめでとう

三回唱えて、

333であの頃の思いをゴクリと飲見込むんだ。

お幸せに、

大好きだった人。

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この出来事から10年経ったいま、お互い結婚し、子供ができた。

今では、「日本の教育に興味があるから絵本のオススメを教えて〜」と気軽に相談することもある大切な友人だ。

あの頃のときめきを

ありがとう

ありがとう

ありがとう

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