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遼州戦記 播州愚連隊

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遼州戦記 播州愚連隊 あらすじ

敗戦国胡州。特攻崩れの無頼漢明石清海はかつてのライバルと出会う。その出会いから始まった物語は惑星の運命を動かす事件の証人になることを彼に強いることになる。

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遼州戦記 播州愚連隊 動乱群像録 1

 キザでにやけた優男の手にある黒い拳銃の銃身。その先には三つ揃いの黒い背広を着たスキンヘッドにサングラスの大男が立っていた。そしてその大男、明石清海(あかしきよみ)はただ口をへの字に結んで身動きせずに立ち尽くす。優男の周りにたむろするのは他にも五人のチンピラがにやけた表情で明石を見つめていた。しかもそれぞれ匕首で武装している。
『俺も焼きが回ったもんだ』 
 明石はそう観念した。相手のシマに一人で

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遼州戦記 播州愚連隊 動乱群像録 2

 ほとんど成り行き任せのように明石は赤松の推薦で胡州海軍に復帰した。血なまぐさい思い出の残る芸州コロニー群から第四惑星胡州の第二衛星播州に移ると、胡州海軍名称『特戦』と呼ばれる人型戦闘兵器アサルト・モジュールの搭乗訓練が彼を待っていた。かつての特攻兵器の異様と思えるハードな訓練を経験した明石にはぬるく感じる訓練にも慣れて二ヶ月が経った。その頃には明らかに自分より年下の同期の訓練生と同じメニューだけ

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遼州戦記 播州愚連隊 動乱群像録 3

 遼州星系第四惑星『胡州』、その首都である帝都。首都らしく行きかう車と人に戸惑いながら明石は荷物を地面に置くと懐かしい赤い空を見上げた。今から14年前に帝都大学を早期終業し出陣して以来の帝都は明石には活気に満ちているように見えた。芸州や播州のような鬱屈した敗戦国の雰囲気はそこには微塵も残っていなかった。軍の施設から公用車を呼んだ別所は明石をそこに押し込みそのまま黒田に車を運転させて大通りを走る。

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遼州戦記 播州愚連隊 動乱群像録 4

 赤松の屋敷に住み込むようになって明石は自分がかなり丸くなったのを感じてきていた。
 用心棒と思っていた赤松家の暮らしだが、元々先の大戦での英雄である赤松忠満准将の用心棒を買って出る士官は海軍に数知れなかった。おかげで明石は週に三度の別所達を仮想敵としてのアサルト・モジュール3式の実機訓練の他にも帝大法科の講義を聴講し、海軍大での佐官任官試験の為に必要な座学の単位を着実にためる毎日を送ることができ

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遼州戦記 播州愚連隊 動乱群像録 5

 胡州帝国海軍省の地下の会議室。主に爆撃などに備えてのシェルターの機能も兼ねているこの部屋に集まった若手の将校達の顔ぶれに明石は圧倒されていた。
 西園寺派でもその側近の赤松准将の直属の部下であると言うことで、明石達はこの『私的な』と冠されているがどう見ても政治的な色に染まりそうな会議の演壇の前、最前列に陣取ることが出来た。海軍では勢いの無い烏丸派は入り口のあたりで席にあぶれて、立ったままこの胡州

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遼州戦記 播州愚連隊 動乱群像録 6

 海軍省の建物を出るとすでに胡州の赤い空は次第に夜の紫に染め上げられようとしていた。
「そうだ、明石。付きあえ」 
 突然の別所の言葉に明石は当惑した。だがそれを別所に悟られるのが悔しくて向きになって彼を見下ろした。
「ええで。だがこいつ等の足はどないすんねん」 
 そう言って魚住と黒田を見やる。別所の車で四人で来たため二人は足を奪われることになった。
「ああ、心配するな。タクシーでも拾っていくこ

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遼州戦記 播州愚連隊 動乱群像録 7

 西園寺家の会合から二ヶ月。少佐に昇進し中隊長に任命された明石には忙しい日々が待っていた。
 第三艦隊のエース。人型兵器『アサルト・モジュール』胡州名称『特機』の新任部隊長。彼の部下達はみな若く、海軍兵学校の中途課程の学生ばかりなのが気になったが、逆にそれが裏の世界で生きてきた明石には新鮮で楽しい日々に感じられた。だが彼等を見るうちに次第に不安が芽生えてくるのもまた事実だった。
 胡州の格差社会は

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遼州戦記 播州愚連隊 動乱群像録 8

 明石から見ても楓の成長は異常だった。配属一ヶ月で彼女の相手が務まるのは明石だけになっていた。それどころかシミュレータでの訓練では明石も苦戦と言うより逆に追い込まれることも多くなっていた。いつもの通り隊長室の端末のモニターで第六艦隊所属第一特機戦団相手にまるで子ども扱いするような余裕の教導を行っている明石の部下達。だがその中でも楓の働きには目を見張るものがあった。
「おい、明石」 
 画面に夢中だ

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遼州戦記 播州愚連隊 動乱群像録 9

 定時を過ぎて3時間。人影もまばらな隊舎の廊下を明石は歩いていた。黒の上下に紫のワイシャツ。ネクタイは赤。それにサングラス。はじめは好奇の目で見られた明石のスタイルもすでにそれが普通と思われていて、警備の兵士も敬礼をして彼を見送る。そして自分の車のドアに手を伸ばしたとき背中に気配を感じて振り返った。
「なんだ、別所か」 
 安堵の声をあげる明石。そしてそこにはいつもどおり海軍の勤務服姿の別所がいた

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遼州戦記 播州愚連隊 動乱群像録 10

「これを飲めと?」 
 清原和人は一枚の紙を手に政敵である西園寺基義の顔を見つめていた。仮病とは分かっていたが、それにしても明らかに見下すような態度で見られていることに久しぶりの不快感を感じてその紙を主家の当主である烏丸頼盛に返した。ちらりと見た主君の顔は紅潮し、その手は怒りに震えていた。
 じっとそんな二人を見つめる安東は予想していたこととはいえため息をつくしかなかった。西園寺基義は議会と裁判院

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遼州戦記 播州愚連隊 動乱群像録 11

「この段階での連携。特に最後尾の特機の動きが敵のけん制にならなければ意味がありませんから。常に制圧射撃が可能なように中距離での制圧火力を重視して……」 
 海軍曹長の制服姿の少女がモニターをポインターで示しながら屈強な男達が狭苦しそうに座るブリーフィングルームで説明を続けていた。
「ほう、楓お嬢様も教導部隊の隊員の格好がついてきたじゃないか」 
 微笑みながら正親町三条楓曹長の説明を見守っていた明

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遼州戦記 播州愚連隊 動乱群像録 12

「お前が動く必要はあるのかね」 
 帝都、西園寺邸。この屋敷の主である西園寺基義は目の前で寿司を無造作に放り込む弟、嵯峨惟基を眺めていた。弟は現在遼州星系の要とも言える要職、遼南皇帝の地位にある男だった。二百年以上前、地球からの独立を宣言したこの遼州星系の民の心の支えであった遼南皇家。胡州帝国もその名の『帝』とは遼南皇帝のことを指すことは形式だけとなった今でも変わることはなかった。
 その皇帝が単

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遼州戦記 播州愚連隊 動乱群像録 13

 明石が首相波多野秀基暗殺の知らせを聞いたのは、嵯峨の隠密裏の胡州入国を聞いた三日後の話しだった。最新のアサルト・モジュール『飛燕』のテストを終え、機体の評価の報告書を隊長室で入力していたときに慌てて駆け込んできた正親町三条楓の一言にただじっとモニターを見つめていた。
「手口は?」 
 そう答えるのが精一杯だった。
「遼南の東モスレムのイスラム過激派が良くやる手法です。人体発火による自爆テロで波多

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