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遼州戦記 保安隊日乗4

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遼州戦記 保安隊日乗 4 あらすじ

闇で暗躍する法術能力の研究機関の非合法研究。それを察知した嵯峨茜警視正は協力要員の神前誠達の協力により調査を開始した。次第に分かっていく法術の恐怖。誠はそれを乗り越えることが出来るか?

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遼州戦記 保安隊日乗 4 魔物の街 1

「あの、皆さん……少しよろしくて?」 
 豊川市南本宿1?3。ここは確かに遼州星系政治共同体同盟最高会議司法機関実働部隊機動第一課、通称「保安隊」の男子下士官寮の食堂のはずだった。
 正確に言えばこの建物はすでに名目としての『男子』寮ではなくなっていた。
 言葉の主の嵯峨茜(さがあかね)警視正が指揮を取る、通称『法術特捜本部』が保安隊に捜査本部を間借りするようになったときには、すでに保安隊実働部隊

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遼州戦記 保安隊日乗 4 魔物の街 2

 食堂を追い出されて部屋に戻った誠は、部屋の隅に置かれた錦の袋に入っている部隊長の嵯峨惟基から拝領した日本刀に手を伸ばした。
『神前さんはお父様からいただいた刀を持っていらしてね』 
 部屋に戻る誠に茜がどういう意図でそう言ったのかは分かりかねた。
 着替えを終えてずっしりと重い紫の袋に入れられた刀を握る誠。そしてそのまま紐を解いて金色の刺繍が施された袋から刀を取り出す。剣道場の跡取りでもある誠は

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遼州戦記 保安隊日乗 4 魔物の街 3

 東都都庁別館の警察鑑識部のある巨大ビル。その玄関ロビーで来客用の椅子に腰かけ、両手であったかい缶コーヒーを飲むランの姿は非常に目立つものだった。さらにその隣では同じく缶のお茶を啜る和服の茜。ロビーを通る警察関係者達がこの集団に混じっている誠達を好奇の目で見るのはあまりにも当然過ぎた。
「コイツが小便行きてえとか言い出してパーキングエリアに止まったのが悪いんだよ!」 
 要はそう言うとパーカーのフ

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遼州戦記 保安隊日乗 4 魔物の街 4

 不審そうにあたりを見回す要。茜はわざとランやラーナを壁にして誠達の足を止める。しばらくしてふと横を向いた要。そのまま手の後ろに組んだ両手を離し、静かに後ずさる。
「おい……なんだよ……なんだよこれは!」 
 これほどうろたえる要を誠は初めて見た。要はそのまま茜に飛びついてその襟首をつかむ。
「落ち着いてくださいな。要さん」 
 それまでは『要お姉さま』と呼んでいた茜が冷静にそう言って要の頬に手を

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遼州戦記 保安隊日乗 4 魔物の街 5

 誠は起き上がった。寮の自分の部屋。カーテン越しにすでに朝であることを確認する誠。そして昨日の化け物の断末魔の声を聞いたような感覚を思い出し首をすくめた。
「しばらく見るだろうな。こんな夢」 
 そう思った誠が布団から起き上がろうとして左手を動かす。
 何かやわらかいものに触れた。恐る恐るそれを見つめる誠。
「おう、早いな」 
 眠そうに目をこする要。その胸に誠の左手が乗っていた。
「お約束!」 

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遼州戦記 保安隊日乗 4 魔物の街 6

 雑談していた警備班員が顔を覗かせる。いつものようにカウラはそれを見て窓を開いた。
「ああ、ベルガー大尉。駐車場はいま満員御礼ですよ」 
 丸刈りの警備部員が声をかけてくる。
「島田か?」 
 そのカウラの問いに隊員は頷く。
「ったくアイツ等なに考えてんだか……」 
 要の声を無視してカウラは車を走らせる。駐車場が見える前から野次馬の姿が見て取れた。
「おい、停めれるか?」 
 そう言って要が身を

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遼州戦記 保安隊日乗 4 魔物の街 7

 会議室の扉の中ではすでにアイシャと島田、そしてサラが茜の説明を受けているところだった。
「ああ、いらっしゃいましたのね。ラーナさん。説明をお願いするわ」 
 そう言うと茜は再びアイシャ達に説明を始める。
「じゃあ、よろしいですか?クバルカ中佐」 
「おー始めてくれ」 
 ランはすぐに携帯端末を開く。誠とカウラもすぐにポケットから手のひらサイズの携帯端末を開き、その上方に浮かぶ港湾地区の地図に目を

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遼州戦記 保安隊日乗 4 魔物の街 8

「ほう、出かけてったねえ」 
 隊長室からカウラの車を眺めながら保安隊隊長、嵯峨惟基特務大佐は頭を掻いていた。
「良いんですか?フォローしなくて」 
 思わず情報統括担当、そして実働部隊第一小隊三番機担当である吉田俊平少佐がそう言うと嵯峨は死んだ魚のような目で吉田を見つめる。
「それがあいつ等のお仕事なんだから。駄目だよー、ちゃんと自分に与えられた任務は着実に果たす。仕事きっちり。これ大事なんだか

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遼州戦記 保安隊日乗 4 魔物の街 9

 誠は周りの景色を見て、以前誘拐された時の記憶がよぎるのを感じていた。
 実行犯はすべて射殺された。彼等が所属する暴力団組織の幹部は調べに対し誘拐の指示とヨーロッパ系のシンジケートに売り渡そうとしていたことは認めたがそれ以上の証言は取れなかった。そして肝心のシンジケートからは証言らしいものは引き出すことができず、捜査は中座していると茜からは聞かされていた。
 見回す町並み。ビルは多くが廃墟となり、

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遼州戦記 保安隊日乗 4 魔物の街 10

「これは……また。ゲットーと呼ぶべきだろうな」 
 それまで運転に集中しているかのようだったカウラのつぶやきも当然だった。外の港湾地区が崩れた瓦礫の町ならば、コンクリートむき出しの高い貧相なビル群がならぶ租界は刑務所か何かの中のようなありさまだった。時々屋台が出ているのが分かるが、一体その品物がどこから運び込まれたかなどと言うことは誠にもわからない。
「まあアタシもここができてすぐに来たんだけどな

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遼州戦記 保安隊日乗 4 魔物の街 11

 寮の廊下。ピコピコハンマーが転がっているのを見つけた要は、それを手に食堂に先行する。そして茜と談笑していたアイシャの背後に回りこむと力任せにその頭にピコピコハンマーを振り下ろした。
「痛い!」 
 その馬鹿力でピコピコハンマーが首からねじ切れて床に落ちる。食堂には茜とラーナ。島田とサラは隣のテーブルで仲良くしゃべっていたがその様子に驚いたように要を見た。
「悪り、ゴキブリかと思った」 
 頭を押

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遼州戦記 保安隊日乗 4 魔物の街 12

「おう、遅えーじゃねーか」 
 朝と呼ぶには少しばかり遅い時間だった。事実、出勤の隊員は食堂には一人もいなかった。そしてテーブルには小型のサブマシンガンを組み立てているランが一人、そして奥の席でコーヒーを飲んでいる要がいるだけだった。
「すいません。で、他の方は?」 
 誠の言葉に手にしていたサブマシンガンの組み立ての手を休めたランは上を指差した。そのあたりにはこの寮のエロが詰まっている『図書館』

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遼州戦記 保安隊日乗 4 魔物の街 13

 誠達が捜査と言う名の散歩をはじめてから一週間の時間が流れた。いつの間にか世間は師走の時期に入り、地球と同じ周期で遼州太陽の周りを回っている遼州北半球の東和も寒さが厳しい季節に入った。
 ランが指定した建物の調査と言う名目で訪問した建物は100を超えたが、誠もカウラも法術研究などをしているような施設にめぐり合うことは無かった。
 そもそも調査した建物の半分が廃墟と言ったほうが正確な建物だった。5年

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