遼州戦記 保安隊日乗 3 季節がめぐる中で 6

「観測機器のデータは?」 
 画像一杯のピンク色の光線が消えるとランは指揮席に腰を下ろしてオペレータ達に指示を出す。
「各ポイントのセンサーのアストラルダメージ値、すべて想定威力を越えています」 
 オペレータの言葉にランは椅子に座りなおす。
「これで威力に関しては十分であることがわかったわけですか」 
 そう言いながら禁煙パイプを口にくわえてモニターを眺めるシン。彼の法術の指南でここまでのデータを出せて安心しているようにコックピットで首をひねっている誠を見つめていた。
「この結果に見合う予算は出しているんだから……。当然このくらいの成果は無いと困りますよ」 
 高梨はそんなシンを見ながら次射の準備の指示を出しているヨハンを眺めていた。
「指揮官としてはこの兵器はどうなんですかね?クバルカ中佐」 
 そんな高梨の言葉に、ランは少しばかり表情を曇らせた。
「運用が難しい兵器だよな。確かに攻撃範囲やその効果を考えると、使い方によっては非常に有効な兵器であることは間違いねーが、チャージの時間が長すぎる上に使えるパイロットが限られてくるとなるとそうそう前線に出せる代物じゃねーし……それに最新の07式じゃあ法術対策の鉛合金のシェルをコックピット外周に張り巡らした装置まで積んでるらしいじゃねーか。それなりの軍隊相手に一戦するときに仕える兵器じゃねーな」 
 ランは高梨を見つめながらそう言って頭を掻いた。
「やはり厳しいですね、中佐は。ただうちはあくまで司法執行機関で戦争をする軍隊じゃないですから。テロリスト相手なら保安隊の部隊構成が完成すれば問題は無いでしょう。第一小隊が遊撃隊として敵主力を火線軸に誘導。第三小隊、第四小隊の戦線保持の間に第二小隊は目標地点に到達、発射。それがこなれてくれば保安隊の出動が予想される大概のケースには対応可能だと思いますよ」 
 シンの言葉に渋々頷くラン。
「そうなると、余計あの馬鹿娘達の教育が必要になるわけだ」 
 そう言うランは手元の端末を操作して05式乙型の隣のテントの下で、まるで子供のように言い争いをしている要達を映した。
「まあ、そこはクバルカ中佐の腕の見せ所じゃないですか?あいつ等だって素質的には私以上のものがあると考えています。問題のなのは、どういう方向で育てていくかですよ」 
 シンの言葉にランはそのまま椅子の背もたれに華奢な体を預けた。
「鍛えがいが有るってことだな。まあそのほうがアタシとしては面白いけど」 
 大画面の中で要がアイシャにヘッドロックをかけている。隣のコックピットの中の映像では、誠が頭を下げながら二人を宥めていた。
「まあ、あのおっさんの集めた人材がどれほどのものか。それが楽しみって言やあ楽しみなんだけど」 
 ランはそう言うと笑顔を浮かべて画面を眺めた。

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